徳をもって怨みに報いる

「見逃してくれよ」路地裏に追い詰められた男が撃たれた足を抑えながら這い寄ってきた。男の身体からはすえた匂いがする。パリバケツの中で何時間も張り込みをしていたのだから無理もない。

「なんでぇ?」

私はわざとらしく小首を傾げる。金に染めたばかりの髪がネオンの逆光で煌めいた。男はレンズが割れたカメラを掲げつつ言った。

「田神蓮が薬をキメてる写真を撮った!人気俳優のスキャンダルだ。謝礼の7割をあんたにやるから、なあ殺さないで…」

「おじさん芸能記者なら、れんれんの苗字間違えちゃ駄目だよ」

私はリボルバーの撃鉄を起こした。呆気に取られている男の眉間に標準を合わせる。

「え?」

「野神蓮。綺麗な名前でしょ?」

男に微笑みながら、私は引き金に指をかけた。

「私が世界で一番愛してる人の名前だよ」

彼の為なら人だって殺す。彼が私を知らなくたって。

〔続く〕

#逆噴射プラクティス#逆噴射小説大賞

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