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文学

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2023年11月の記事一覧

海外文学おススメの十冊 一冊目:トーマス・ベルンハルト『ヴィトゲンシュタインの甥』

 絶望の語り部トーマス・ベルンハルトの小説の中で個人的に一番好きな作品。この友人であった音楽評論家パウル・ヴィトゲンシュタインとの交流を描いた小説とも回想録とも読める作品は他のひたすら暗く厳しいベルンハルトの作品と違い妙に甘く切ない。それはパウルという実在の友人への想いからなのか。みすず書房版で同じく収録されているグレン・グールドをモデルにした小説『破滅者』にはこの甘さはない。それはベルンハルトとグールドに恐らく交流がなく、この小説のグレン・グールドがベルンハルトの創造した小

詩を描く少女

 言葉で世界は作れるもの。なんて昔は本気で思っていた。あらゆる言葉を紡いで私だけの世界を作る。そんな事を思って詩を書いていた。詩は純粋な言葉の芸術だ。詩こそが文学の中で美術や音楽に匹敵する唯一の表現だった。自分の中にある生々しい普段口では勿論、散文では語れぬ感情。それは詩でしか書けないものだった。この平凡で凡庸な世界に無限の言葉の宝石を降らせよう。それが私が詩で成し遂げたい事だった。私は学校から帰ると部屋に篭って詩を書いていた。学校での愛想笑いと薄笑いの社交の時間が終わったら

ノーベル文学賞に懸けた作家たち

 芸術の中で一番偉いものは文学である。それは芸術のなかで唯一文学だけがノーベル賞に入っていることからも明らかである。音楽も美術もノーベル賞にはない。ただ文学だけが、文学のみがノーベル賞に入っている。それが文学を芸術の中で最も偉大たらしめている理由なのである。だからその賞を受賞した作家は作曲家や美術家よりも遥かに偉大なのである。例えばノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロはバッハやベートーヴェンのような偉大なる作曲家、或いはダ・ヴィンチやゴッホのような偉大なる美術家よりも遥かに偉

題名のない文章会

 文章は言葉の集積だ。そしてそれらの言葉は文字で作られている。文章とは主題に沿って言葉を紡ぎ合わせたものだが、時として主題を超えて思わぬ効果を発揮する。人はふとただの散文の集積の中の文章に目を止めて何度も読み返す事がある。人はその文章の中に美しい、また感動な、また言葉のリズムを感じ何度も暗唱する。言葉は魔法だとは陳腐な表現だが、実際にそう感じる瞬間が度々ある事は事実だ。文芸とは他の芸術とは違い、誰でも書けるものだ。音楽や美術のように専門的な技術は必要としない、確かに文章を書く