海外文学おススメの十冊 一冊目:トーマス・ベルンハルト『ヴィトゲンシュタインの甥』
絶望の語り部トーマス・ベルンハルトの小説の中で個人的に一番好きな作品。この友人であった音楽評論家パウル・ヴィトゲンシュタインとの交流を描いた小説とも回想録とも読める作品は他のひたすら暗く厳しいベルンハルトの作品と違い妙に甘く切ない。それはパウルという実在の友人への想いからなのか。みすず書房版で同じく収録されているグレン・グールドをモデルにした小説『破滅者』にはこの甘さはない。それはベルンハルトとグールドに恐らく交流がなく、この小説のグレン・グールドがベルンハルトの創造した小