無職と松屋の期間限定メニュー

無職は松屋の期間限定メニューを食べてはいけない。
それは、この国の人間であれば誰でも知っている常識である。

松屋の期間限定メニューとは、勤労者がハレの日にだけ食べてよい行事食である。花金の夜に「厚切りトンテキ定食」を、大切なプレゼンを成功させた帰りに「黒トリュフソースのビーフハンバーグ定食」を、退職祝いの飲み会後に「シュクルメリ鍋定食」を。

もし貴方が、無職の癖に松屋の期間限定メニューを食べている者を見かけた場合、すぐにその者の食事を止めなければいけない。言葉で止められなかった場合には、実力行使に出るしかない。

かくいう僕も、今年の3月から無職に従事している。いくつかの期間限定メニューが目の前を通り過ぎるのを、血が垂れるほど強く唇を噛みしめながら見送った。

早く就職したい。労働によって打ちひしがれた体に「ごろごろチキンのトマトカレー」を染み込ませ、味噌汁を聖水のように頭から浴びて、働くことの喜びを全身で噛みしめたい。


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