紫苑の花のように

『私を忘れないで』
紫苑の花言葉通り、私は彼に忘れて欲しくないのだ。私は愛せば愛すほどメンヘラになり、重くなり、嫌われるけれど、愛情だけは本物だから。愛した分だけ愛して欲しいと願ってしまう。お金をどれだけ掛けたかとかではなく、私の愛に応えて、と。メンヘラが過ぎるのは承知しているし、彼からしたら私は脅威でしかないのも分かってる。でも、と願わずにはいられない。
『私を忘れないで』
か奇しくも七夕の夜。彦星と織姫が1年に1度、会うことを許されたこの夜。珍しく晴れ間が覗きそうな今夜、星に願わずには居られない。彼が私を忘れませんように。あなたを全力で愛したの。あなたをただ、愛してた。愛されなくても良いなんて嘘だった。再婚できなくて良いなんて嘘だった。あなたと結ばれたかった。あなたのお嫁さんになりたかった。
『私を忘れないで』
切に、切に願ってた。あなたに愛されたいと。それでも、私は知ってしまった。私はあなたに愛されていなかった。ただ、都合の良い女だった。あなたを好きなだけの女だった。いいえ。知らなかったんじゃない。知りたくなかったの。愛される価値もない自分自身を。抱き締めて貰えなかった。可愛いと言って貰えなかった。興味を持って貰えなかった。気遣って貰えなかった。挙げればきりがないほど、あなたは私に無関心だった。知りたくなかったし気づきたくなかった。
『私を忘れないで』
でも、知ってしまった。気づいてしまった。私は彼に大切にすら、気遣うことすらされていなかったのだと。思い返す言葉達は優しくて明るくて。でも思えば気遣う言葉は僅かだった。皆無だとは言わないし言いたくない。好意がありそうな態度だった。実際、とても優しかった。それでも、大切にされているとは、今更ながら思えない。彼は私に何度も馬鹿だなぁと言った。こんなろくでもない男の何処が良いの。先のある子が、と。それが全てだったんだろう。今なら思える。
『私を忘れないで』
それでも哀しいかな。私は彼に私を忘れないでと切に願ってしまう。心底愛したの。本当に初恋だったの。手に入らないと、心の何処かで分かっていたのに、それでも惹かれてしまったの。その気持ちまで無かったことにしたくないし、してほしくない。あなたにとって私がどんなに重く、暗かったとしてもそれは私があなたに本気だった証。もう2度と会うことはないでしょう。もう2度と話すこともないでしょう。私がこの慟哭を綴ることも、もう2度とない。だからこそ、切に、切に願う。








『私を忘れないで』

#創作大賞2024
#エッセイ部門

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