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全裸の王子様 #22


22話 『天能の成れの果て』


月下:今頃派手にやってんのかなぁ…蒼乃の奴は……

血の海と化した王宮内に侵入した月下は、何事も無かったかのように穴抜けになった壁面から空を眺め、思い出すかのようにそう呟いた。

??:派手にやってんのはどっちですか?ゴホッゴホ…

大規模な爆発により、崩れた瓦礫や煉瓦などから大量の土煙が舞う。

月下の後を追うように入ってきた男は、土煙にむせるように咳き込みながら屋敷へと侵入した。

月下:まぁまぁ、でもあいつほどじゃないでしょ?

月下:ファジルさん

名前を呼ばれた男は、見覚えのある人物だった。

ファジル:えぇ、まぁ彼とあの忌まわしき少女と比べると、あなたは幾分マシですね

月下:ん?忌まわしき少女?

月下すらも理解できない事を口走る。きっと彼が伝えたいのは彼女の事なのだろう。

ファジル:あの二人なら、確実にトドメを刺す

月下:ん?何のこと?

ファジル:そこがあなたと、"山下美月"と"蒼乃薔薇"さんとの違いなのでしょうね

月下:は?

土煙が晴れた時、彼らの視界に一つの影が映る。

??:危なかった……

声が聞こえたのは背後からだった。

月下:ははっ、やっぱりか……

まるでこうなる事を理解してたかのような口ぶりでそう呟く月下は驚きながらも、冷静さを欠く事なく静かに振り向いた。

崩れ落ちた瓦礫の中、四人の人間を抱えながらその場を回避した少年は、彼ら侵略者達の前に姿を現した。

月下:やはり生きてたか……岩本〇〇っ!

土煙が晴れ、ようやく室内全体が肉眼でも見渡せるようになった時、彼は姿を現した。

〇〇:ギリギリ……間に合った……

突然の精神に干渉された攻撃と爆発により気を失った桃子達は、〇〇に抱えられていた。

そんな冷静沈着な立ち振る舞いを見せる〇〇に、追い打ちをかけるように月下は攻撃の準備へと移る。

月下:"我が前にひれ伏したる尸と化した不全よ…"

左手を掲げ、〇〇に目掛けて詠唱を放つ。するとその瞬間、彼の先ほどの攻撃により、死亡した老人達の遺体が波紋するように動き出す。

月下:"塵となるまで……舞え"

月下の完全詠唱と共に、死んだはずの老人達は、苦しそうにしながらも立ち上がった。

皮膚は爛れ、人体の形を形成するために最も必要な骨だけが残り、出血も致死量を簡単に超えていた。

すでに死してもおかしくない容姿をした彼らは、骸骨となり、〇〇の元へと駆け出した。

月下:まずは質より量。見せてくれ、奇跡の力を…

小手調べとばかりに、放った老人達の遺体の行方を眺める月下。しかしその攻撃の対象となった〇〇は、彼自身も驚くほどに冷静だった。

遺体を踏みつけ、足場にして跳躍した〇〇は、手にしていた刀に"力"を込め、冷静に対処した。

〇〇: "敵なる者共に等しく用意の同数を…"

彼が成したのはただの模倣。彼の家族がいつか見せた、敵の数に対して武器を"用意"する。

そんな、基礎的な能力の応用技だった。

十体以上存在した骸達は、たったの一手で壊滅した。

月下:……素晴らしい

戦力を一瞬で葬られながらも、月下は思わず口角を歪に歪ませ、その光景を見ていた。

――天能は一人につき一つ

その事実は、しっかりと制約を守りながらも、ルールを破る天能の一つだった。

月下:岩本〇〇……やはり彼が、現時点での"神伐者"か…

仮説を立て、事実を元に真実を得る。月下満が心の底から求めていた一つの"真実"は、今明らかとなった。

月下:やっぱり……俺は君を探してたんだね……

さらに口角を上げ、呟いた。



〇〇: "怪我となる外的要因よ…我が天能により、自然完治と化せ"

〇〇:「heile die Wunde」

継承戦中に見せた史緒里の天能、《用意》を使用し、敵の攻撃による包囲網を抜けた後、〇〇は倒れた三人を抱え、月下の死角になる場所へと移動していた。

いつか彼が見せたように、和、咲月、桃子。三人それぞれに《完治》の天能を使用した。

瓦礫の崩壊により、数多なるかすり傷。そして、月下の天能により、身体中に刻まれたツギハギ痕。

それら全てはみるみるうちに"完治"していく。

〇〇:よし…傷も残りそうにないな……

確実に手当を施していく中、自身の保有していた加護の効果により、和は真っ先に目を覚ました。

和:あ、あれ……〇〇…くん?私……一体……

〇〇:大丈夫か?和

和:うん、だ、大丈夫……それより、これは…一体……?

爆発の衝撃により、ハッキリと定着しない記憶の中、瓦解した王宮を見て、和は呆然とした。

しかし、そんな事を説明している暇はなかった。

〇〇:和、起き抜け早々に笑いが…頼みがある……

和:えっ?



"お願いだ、史緒里さん、美波さん"

"俺や桃子さん、和や咲月の事は気にしなくて大丈夫"

"だから二人は、蓮加とあやめと祐希、楓さんと珠美さんと光輝さん…そして美月を……"

"守ってあげて"

二人は"声"を聞いた。

その声は、優しく温かい、耳に入れれば自然と安らかになれるような優しい声。

そんな声に導かれ、二人は目を覚ます。

美波:今の……〇〇様……?

彼女の朦朧としていた意識がハッキリと覚醒した時、彼女は突然の"浮遊感"に襲われた。

美波:さっきの声って……て言うかそれより……ここは…

聞き覚えのある声。突然変化した景色。体に感じる違和感のある感覚。

何も理解出来ない現状に困惑している時、また新たな声が彼女の耳元に響いた。

史緒里:え、えっ?!う、嘘?!私浮いてるっ?!

美波:っ?!

突然聞こえた聞き覚えのある声に美波が振り返ると、そこには見知った顔の彼女がいた。

美波:し、史緒里……?アンタ…何してんの?

史緒里:わ、私こそ…分かんないよ!!

美波の視界に映ったのは、なぜか"重力"と呼ばれる物理を無視し、宙を舞う久保史緒里の姿だった。

美波:分かんないってアンタ……アンタの天能って宙を舞う事……出来たっけ?

美波:それに……ここどこ?

美波:史緒里、アンタ…何か知ってる?

全く理解の追いつかない状況に美波は驚くことすら出来ず、ただただ質問を繰り返す。

史緒里:知らないわよ!それに浮いてるのは私だけじゃない!アンタも浮いてんのよ!宙に!!

同じ状況下で質問攻めをされ、少しキレ気味になっていた史緒里に言われ、美波はハッとした。

――そうか……この浮遊感……私も浮いてるんだ……
 
自分の置かれた状況に気がついた途端、彼女の冷静な脳みそは活性化を始めた。

そして、記憶を辿る。

〇〇:美波さん、継承戦中に何かあった時、美波さんは真っ先に家に戻って欲しい

〇〇:俺も出来る限り家に帰る

〇〇:でも、多分俺は、王宮内であのクソジジイと決着をつけなきゃダメなんだと思う

〇〇:だから、みんなの事頼んだよ…美波さん…

継承戦の最中、一時間の休憩を貰った美波は、迷惑だとわかっていながらも、〇〇を呼びつけ、二人で空を見ながら昼食を取った。

そんな時、彼が言った言葉を思い出していた。

美波:この現象、多分〇〇様の天能だ

史緒里:っ?!そ、それ……どういう事?

美波:〇〇様が言ってたの、継承戦中に何かあった時は、真っ先に屋敷に戻れって…

美波:さっきの爆発、多分あれは敵からの攻撃…それにさっきの〇〇様の声、私達は今、多分…

美波:屋敷の上にいる!

彼女の言うことは、正解だった。

彼女達は、《転移》と呼ばれた天能により、岩本家屋敷の座標にテレポートさせられていたのだった。

史緒里:きゃっ!

まるでアトラクションの開始前のように、彼女達の体には大きな揺れが訪れた。

美波:そろそろ《浮遊》が切れる……

美波:史緒里……《浮遊》が消えたら私達はこのまま地面に落ちる事になる

美波:でも多分大丈夫、きっと〇〇様ならどうにかしてくれる…

美波:だから私達は、落ち着いていこう

あくまでも冷静に。美波は落ち着いた様子で、焦る史緒里を諭す。

史緒里:は、はは……アンタはいつも冷静だね

美波:それが私の良い所だからね

史緒里:だったね

二人は笑い合い、手を繋いだ。

史緒里:よし、行こう

そして二人にかけられていた《浮遊》はついに終わりを迎え、一気に地面目掛け降下し始めた。

美波:いくよ史緒里!みんなを守るよ!

史緒里:うん!やってやる!



月下:おかえり、〇〇くん

まるで〇〇が帰ってくるのを待っていたかのように、建物の二階から姿を現した〇〇を見上げるように迎えた。

〇〇:なんで攻撃をやめた?

月下:攻撃をやめるも何も、君はさっきの瞬間、天能の多重使用で結構限界だったんだろ?

月下:君も気づいてるんだろ?

月下にそう釘を打たれ、〇〇は気がついた。

〇〇:っ?!

自身の目と鼻から、少量ではあるが体の限界を表すように血が流れている事を。

月下:私の天能から逃れるために、彼女達三人を抱えながら《転移》を使用…

月下:その流れで外で警護をしていた梅澤美波と久保史緒里もおそらく岩本家屋敷に転移させた

月下:そしてその間も何かしらの天能を使用しながら彼女達二人を手助けしていた

月下:迎撃用に《用意》を使用

月下:そして傷を癒すため《完治》、井上和を使い彼女達を逃すためにまたなんらかの天能を使用

月下:君は予想でも合計で最低五つもの天能を使用をしていたんだ

月下:そんな奴に、二度も奇襲をかけるほど俺は雑魚じゃねぇんだよ

キレる頭を駆使し、〇〇の状況を見抜いていた。

〇〇:はは…全部バレてる…

月下:まぁ、井上和を使って邪魔な奴らを逃したのは、わりと良い手だろ

月下:俺たちじゃあの女には"追いつけない"からな

月下:この世で唯一の時間干渉を許可されているからね

ファジル:へぇ、彼女も特殊な子なんですねぇ

奇怪な格好をした大きな鎌を持った男は、瓦解した王宮の中から姿を現した。

ファジル:満、ようやく見つけましたよ

そう言うと、ファジルは、両手を縛り上げられた国王を地面に放り投げた。

月下:さっきぶりですね、国王様〜

親しげな口ぶりで近づく月下に、拘束された国王はどうやら腹を立てているようだった。

国王:おい!月下!これは一体なんだ!どうして私が縛られているんだ!

国王:話が違うぞ!どういうつもりだ!

ファジル:なかなかうるさいですね、この方も…

ファジル:満、もう良いでしょう

ファジル:早いところ"遺骸器"化しちゃいましょうよ

月下:うん、そうだね

月下:もうこいつも用済みだしね

国王:な、なんじゃとっ?!

胸ポケットから特殊なデザインをした短剣を取り出しながら、国王の元へと近づいた。

国王:な、なんじゃ?何をする気だ、貴様!おい…月下!

狼狽える国王の鳴き声に聞く耳を持つ事なく、月下は無慈悲な表情で短剣を天高く振り上げた。

国王:やめろ……やめてくれ!嫌じゃ……死ぬのだけは嫌なんだ!やめろ……やめろ……やめて……やめろっ!!

そしてその国王の悲鳴は、沈黙へと変わった。

月下:さぁ〇〇くん!これで邪魔者も消えたし、第二ラウンド……と行きたいところだが

月下:君に面白いものを見せてあげよう

月下:この、"聖代兵器"と呼ばれるこの"遺骸器"を…

〇〇:遺骸器…

月下:まぁ、見てなって

〇〇を諭すように笑みを浮かべながらそう言うと、月下は国王の胸元に刺さった短剣を抜き、唱えた。

月下:"汝の力の根源となる天能よ、我が叡智により聖なる時代の兵器と成れ"

月下:《黒棺》

その名を読んだ瞬間、短剣だったものは、大きな杖へと変化し、地面からはありえない速度で花の枯れた大樹が生え出していた。

〇〇:あれは、クソジジイの天能だ…

…to be continued

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