全裸の王子様 #5.5
5.5話 『鬼の怒りの収め方』
美波:こんのバカちんが!!!私がどれだけ〇〇様のことを心配してたか!このっ…バカ!!
*
美波さんの説教が始まってから、かれこれ一時間ほどが経過していた。
美波:まず第一に言いたい事!買い出しに丸一日もかかりますか?!いいえ!かかりません!
美波:となると!私達も必然的に心配するでしょ?!
美波:だって連絡がないのですから!
激昂した美波さんは、俺の相槌すらも待たずに、畳み掛けるように説教を続ける。
なぜ今、俺が怒られているのか、それを理解出来ていない者もいるであろう。
それを説明するには少々お時間をもらいたい。
遡る事、二十七時間前、およそ一日と三時間前の事だ。
太陽もすっかり沈み、夜が世界を包み、明かりがなしでは何も見えなくなった頃。
ワガママな妹は駄々をこね始めた。
あやめ:お兄ちゃ〜ん、あやめね…プリン食べたい…
などと、一切興味のない現状報告するあやめのこれは、俺に対しての「買ってこい」という意であった。
〇〇:そっか、夜も遅いから気をつけろよ
遠回しに「自分で買ってこい」と比喩を込めて言ったはずが、あやめは屋敷内の女どもを味方につけ始めた。
美月:へぇ…プリン、いいじゃん!じゃあ〇〇ダッシュで街まで買って来てよ
…と、あやめの意見を取り入れた女暴君、美月は、そう言い出した。
すると…。
美波:プリン!いいですね!〇〇様が行かないと言うのなら…私が…
史緒里:美波…あんた仕事終わりでしょ?そんな体であの街までは持たないよ?
史緒里:私も食べたいけど…
蓮加:お兄ちゃん!蓮加も〜
楓:私もプリン食べたいけど、このヘトヘトな体じゃ無理そうだなぁ…
珠美:それな〜
桃子:確かに、桃子も甘いもの食べたいな
などと、あやめのふとした妄言により、美月、美波さん、史緒里さん、蓮加、そして楓さんと珠美さん。そして最後に、我らがボス桃子さん。
全員が「行ってこい」と言わんばかりの多数意見で俺の方を見た。
〇〇:はぁ…、はいはい!行って来ますよ!
そして午後二十二時、竜車も馬車も運行していない時間帯に、俺はお使いを任された。
いつも買い出しまで行く街道まで、徒歩四時間。天能を使用するかと悩んだが、めんどくささよりも勿体無い精神が勝ち、大人しく歩く事にした。
しかし、歩けば歩くほど、街に着く様子はなかった。
そろそろ限界だ。
そもそも、俺は眠ろうとしていた。
しかしなぜか、アホ妹の思いつきのせいで、俺は真夜中に地獄に放り投げられた。
素直に従っている現状が馬鹿らしくなり、道中というのに、俺はその場に眠ってしまった。
すると、眠る間に、俺が着衣していた服は全て剥がれ、俺は全裸だった。
目が覚め、頭を整理した時、俺は天能を元に、犯人を特定、そして喧嘩をふっかけ、対峙した。
特に手こずる事なく、楽々と片付ける事に成功はしたが、時間はかかった。
帰りは流石に天能を使用しようとしたが、祐希がいた。
だから、貰ったプリン代を使い、普段使わない荷馬車を利用し、帰宅したのだ。
いや、元はと言えば。
〇〇:美波さんらも悪いじゃん!!
回想に入りながらも、俺は不可解な事を思い出して、ツッコミを入れた。
しかし、それは悪手だった。
美波:どう考えても外で眠る〇〇様が悪いに決まってるでしょ!!
美波:そもそも外で眠るって何ですか?!
美波:一応貴方も皇子様ですよ?外で眠るなんて言語道断!王族の責任を持ちなさい!
〇〇:はい…
こんな風に、俺はいつも怒られていた。
そして、美波さんの説教が三時間を経過した頃だった。
美波:ごめんなさい、〇〇様…
先程まで鬼の様に怒り散らしていた美波さんは、聖母の様な優しさで、俺を抱きしめた。
美波:また、きつく当たってしまいました…
〇〇:いやいや、今回の事もそうだけど、美波さんはいつも間違ってないよ
〇〇:俺も心配かけてごめんね?
そう言って、後頭部に手を置き、そっと抱きしめると、美波さんは笑みを浮かべた。
――あぁ、やっと終わった。
美波:私…本当に心配したんですよ…?
〇〇:そうだよね、ほんとにごめん…反省してる
〇〇:だから俺、そろそろ史緒里さんに報告…
美波:ですので!!今からたくさん甘えさせてくださいね!!
〇〇:いや、ちょ、
美波さんの提案は断ったはずが、美波さんは俺の言う事を聞かず、力一杯俺を抱きしめる。
美波:〇〇様っ…えへへ、好きぃ…
〇〇:あぁ、それはどうも…
美波:あぁー、本当に…癒される…
そう、独り言を言って、俺の胸に顔を埋めた後、俺の手を握り、また、顔を胸に埋める。
美波:〇〇様の腕に胸、良い…
〇〇:ありが…とう……?
されるがままの俺は、美波さんの次々とくる褒め言葉に、戸惑いながら感謝するしかなかった。
美波:この可愛い耳も、頂いちゃお
〇〇:ちょ、うへぇ…//
不意に耳を舐められた事ない俺は、人生で出したことのない様な声を出した。
〇〇:美波さんっ、ちょっ、やめっ、くすぐった!
美波:えぇ〜、〇〇様のケチ!今からが良い所なのに…
〇〇:耳なめは、なしにしない?くすぐったいよ
美波:わかりました…、じゃあそのかわり!次は頭を撫でさせてください
何故か美波さんのリクエストに応える流れになっているが、先程の耳舐めよりかは幾分マシだと、俺は頭を差し出した。
美波:違いますっ!ここ!ここ!
そう言うと、正座をしている美波さんは、自分の太ももを叩いてそう言った。
〇〇:まさかの膝枕ヨシヨシですか…
美波:えぇ!もちろんっ!
美波さんは、今までで一番の笑顔で返事した。
美波:〇〇様、撫で加減はどうですか?
〇〇:うん、絶景です…
――絶景?撫で加減…なるほど!心地良すぎて山に登る夢でも見てるのかな
美波さんの山…絶景だな。
正面から見ると、一見引っ込み思案な小さな山かと思えば、麓から見てみれば、それは立派だった。
大きく、そして堂々と、ふっくらとしていた。
むしろ撫で加減なんて…。
美波:〇〇様、もう終了です!
そんな天国山ツアーは、急な終了時間により、中止となってしまった。
〇〇:えぇ〜、どうして?
美波:〇〇様の撫でられる姿を見ていると、私も撫でていただきたくなってしまって…//
〇〇:ちえっ、わかったよ
――〇〇様?!そんなにも私の撫で加減が良かったのですか?!また仕掛けようかな…
〇〇:はい、どうぞ
普段しない正座をして、美波さんのスペースを作り、準備を終えた。
美波:じゃあ、その…頂きます…
頂きます?!なにを?!
突然の食事前の挨拶をした美波さんが、俺の膝に頭部をおこうとした瞬間、来客者によって、至福の時間は終わりを迎える。
〇〇:あっ、史緒里さん
史緒里:お帰り、〇〇くん、私に何か報告があるって聞いて来たんだけど…
史緒里:今は大丈夫…じゃなさそうね…
ここぞと言うばかりのタイミングで、史緒里さんが入って来たからか、美波さんは、鬼の形相で史緒里さんを睨みつける。
史緒里:あぁ、えっと……私…行くね?
〇〇:あぁ、待って!
史緒里:ごめんね、〇〇様、先に…会議室の方で待ってるから…後で…
と言って、何か申し訳なさそうに史緒里さんはこの部屋から出て行った。
美波:よし!じゃあ邪魔者もいなくなったわけですし、続きの方を…
〇〇:ダメだよ!そろそろ史緒里さんに報告しないと!それにこれ以上時間かかったら史緒里さんに誤解されるでしょ!
美波:私は別に…誤解されても…///
〇〇:この先の生活が気まずくなんの!
〇〇:とりあえず、今日はおしまい!分かった?
無理矢理終わらせようと流れを手にするが、やはり美波さんは一筋縄ではいかない様だ。
美波:分かりました…
あまり納得のいってない様な雰囲気もあるが、ここは潔く折れてくれたみたいだ。
〇〇:ありがとう、美波さん!よし!早速史緒里さんの元へ行こっ……
美波:条件があります…
〇〇:へ……?
*
史緒里:つまり今回は、《回転》と《貫通》と《治癒》を得たって事ね…
〇〇:はい、どれもそれなりに使いやすい技なので一応彼らの傷だけ治して、天能はしっかり貰っていきました
――流石は〇〇様
街にいた、ゴロツキ王族三兄弟から痛い気な少女を〇〇が救い出した話を聞き、美波は〇〇を称賛した。
"会議中も、私に膝枕をしてください"
――なんて条件を飲んでくれるなんて!!
〇〇と史緒里の話など一切聞かず、美波は〇〇の膝枕を堪能していた。
――あー、幸せ…
――また怒る時が来たらしてもらおっかな〜
*
史緒里さんへの報告に夢中だったが、気がつくと美波さんは、猫のように俺に甘えていた。
――ほっ、ようやく鬼はいなくなった
そうして、俺は束の間の安心と、鬼の怒りの収め方を学んだのだった。
…to be continued
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