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全裸の王子様 #19



19話 『王の器』



祐希:〇〇様……大丈夫なのかな……

岩本家屋敷の一室。

祐希は一人、朝一番、リビングと呼ばれる部屋を掃除しながら、この場に居ない〇〇の事を心配していた。

自分が〇〇の事を心配する必要が無いことは、彼女自身も自覚していた。

しかし、どこか胸の内にざわめく"何か"嫌な"予感"のせいで、どこか心が落ち着かなかった。

そんな時、騒々しい音を立て、扉が開いた。

蓮加:痛っ!あてて……

祐希:れ、蓮加……?だ、大丈夫?

蓮加:おはよ……祐希……

重い瞼を強く何度も擦る蓮加は、覚めない眠気のせいか、開いていない扉に頭を強打し、騒々しい音と共に、祐希のいるリビングへとやって来た。

祐希:相変わらず眠たそうだね

蓮加:えへへ……

蓮加:私ね、昔から〇兄にね、蓮加は通常の人の二倍以上眠るから、体にもう一人、人を飼ってるんじゃないか?なんて言われたことあるんだよー?

「それは普通に悪口だね」と、言いかけ、祐希は自身の口を塞ぐ。

まるで自慢話かのように話す蓮加に、祐希は真実を告げる事は出来なかった。

祐希:今日も食パンでいい?

蓮加:うん……お願いしま〜す

普段通り、朝の強い祐希は、寝ぼけた蓮加のために朝ご飯を作ろうとする。

しかし、祐希は片付けの最中である事を思い出し、「キリの良い所まで…」と、戸棚の中に手を伸ばした。

祐希:この写真って……

その時、束になった何十枚かの写真が目に映った。

――〇〇様と……誰?

そこに映っているのは、今より少し若い〇〇と、両隣りに、この屋敷にはいない、同い年くらいの女の子の二人組だった。

蓮加:おぉ、懐かしい写真だ

先程まで、机に頭を押さえつけ、二度寝をするギリギリだった蓮加は、祐希の手元にある写真を眺め、言った。

祐希:この写真って?

蓮加:これはね、三年前にね、私達の妹?っていうのが正しいのかな?いや、従兄弟か…

蓮加:私達のお父さんの弟さんの娘さんなんだけど、この子!右の子!

そう言って、蓮加は、前髪のある、少し幼さの残る笑顔が似合う少女を指さした。

蓮加:菅原咲月って言う第八王子の子がね?和国との交換留学に行くって話になって、最後にお兄ちゃんと写真を撮りたいって言うから撮った写真だよ

蓮加:ちなみに撮ったの蓮加だよ!良い写りでしょ!?

祐希:へ〜、第八王子の…じゃあこっちの子は?

そう言うと、祐希は左側に映る、前髪を分けたクールビューティーと呼べる少女を指さした。

蓮加:こっちは和だね、井上和

蓮加:美波の弟子でね?小ちゃい頃、咲月のお兄ちゃんに命を救われてから、菅原家の護衛として騎士団に入った子だよ

祐希:なるほど……

写真の詳細を聞きながら、祐希は次々と写真をめくり進めていく。

二十枚目ほどをめくった時、祐希の手は止まる。

祐希:また…新しい子……この子は……誰?

そこに映るのは、幼き頃の〇〇と、〇〇と同い年くらいの少女が映る写真だった。その隣に映る少女は、咲月でも和でもなく、新たに見る人物だった。

しかし……。

蓮加:あ、それ咲月だよ?さっき言った菅原咲月

祐希:えぇ?!

蓮加から聞いた真実に、祐希は驚き、手に待っていた写真を凝視した。

子供にしては、少しふくよか…いや、悪い言い方にしてしまうと、割と太っている。

祐希:だ、だって咲月さんって、この子だよね?!時期的にそんな期間空いてないって言うか……かなり違うって言うか……

蓮加:あはは、まぁそうなるよね

かなり驚いた様子の祐希に、蓮加は説明する気のないように笑いながら、返答した。

蓮加:あの子も大変だったからね

蓮加:全部"天能"のせいで…

全てを語らない蓮加の発言を踏まえ、祐希は、自身の持つ、未だ天能に対しての乏しい知識で、自分なりの一つの結論を出す。

祐希:う〜ん、つまり天能による体重に変化をもたらした…とか?

蓮加:まぁそんな感じだよ

祐希:ここまで激痩せしたのも咲月さんが持つ天能で…

祐希:はっ!なるほど!

何かをボソボソと呟いた後、祐希は一人でに、そう大声を上げた。

祐希:つまり咲月さんの天能は《変化》とか?!自分の体を自由自在に"変化"出来る…とか?!

蓮加:あの、祐希……

祐希:いや!もしかしたら……

蓮加:はぁ……話聞いてないし……

興奮しているからか、蓮加の声が届かないほど、天能の考察に夢中になった祐希に蓮加は、呆れを見せる。

蓮加:まぁいいか…

蓮加:きっとこのまま答えも出ないし…

蓮加:きっと祐希は、"加護"の存在、知らないだろうし…



〇〇:いつの間に……俺……

自身の身体に異変を感じた時、〇〇は既に地面に背をつけ、その場に寝転がっていた。

そんな隙だらけの状態を、対峙する咲月が見逃すはずはなかったのだ。

咲月:はぁあ!

倒れる〇〇に容赦なく、綺麗な太刀筋で、咲月の持つ木刀は振り下ろされた。

タイミングは完璧だった。のだが…

咲月:嘘ぉっ!!

まるでダンサーの如く、腕の力のみで自身の体を持ち上げる事で、咲月の攻撃をかいくぐって見せた。

咲月:ほんと……君は天才だね……

トドメを刺すチャンスを逃した咲月は、攻め続けることをやめ、〇〇を褒めた。

死を回避した〇〇は体制を立て直し、咲月と向き合う。

――今回は、流石に危なかった

自身の反射神経と戦闘センスにより、なんとか回避が成功した事に、〇〇は安堵する。

そして、また、思考を始める。

――咲月の天能は《吸収》

――自身の手の先に触れたモノの"ナニカ"を吸収する事が可能になる

――だからこそ、俺はさっき天能により自分自身に付与した“回転力"を吸収された

――そして今、俺が避けねばならい事

――それは咲月に触れる、もしくは触れられる事だ

対峙する者の天能、そして敗北の手。

決闘の最中とはいえ、彼の頭の中は自然と整理される。

――次に触れられた時、おそらく咲月が"吸収"しようとするのは、"体力"だろう

――俺の体力を取られれば、俺の体力は尽き、咲月の体力はさらに飛躍する

――正直そうなったら勝ち目はない…

――こうなったら……

〇〇:手数と距離で勝負だ

咲月:っ?!

咲月:炎の……球体……?

思考をまとめ終えた〇〇が手をかざす。その瞬間、彼の指先に溢れ出した炎が次第に凝縮され、球体となった。

咲月:っ……なるほど…

――おそらくあれは、私に触れる隙を与えないよう、遠距離で攻撃をするつもりだ

冷静に、的確に〇〇の意図を汲み取る。

――でも、それだけじゃ足りない…

彼女の天能は《吸収》。

つまり、炎の球体が彼女に"触れた"瞬間、その炎の球体は、《吸収》により、消滅する。

咲月:それだけじゃ、私には届かな…

〇〇:"我が所持したる全てに、干渉したる者どもに、立替を!"

咲月:はっ?!

――二重詠唱?!

その場にいた誰しもが、「ここで決着を付けるのか」と思い込んだ。

しかし、対峙する咲月の能力には、いかに〇〇の持つ"切り札"が"最強"であるとは言え、無力である事は重々理解していた。

それは、〇〇本人も理解していた。

だからこそ、〇〇は、限界を超えた。

〇〇: "敵なる者共に等しく用意の同数を!"

〇〇: "我が力を持ってして、我が力に平等な力を用意したまえ…"

〇〇:「fifteen werden」

詠唱を唱え終えると、〇〇の指先の前で生成された炎の球体は、"この場にいる十五人“に合わせ、十五発分の爆炎が"用意"された。

咲月:はぁ?!

――私の"吸収"の処理速度を手数で抑え込む

咲月:本当やりづらいなぁ……〇〇くんはぁ!!



桃子:あれは、史緒里の《用意》?!

二人の戦闘を、客席から傍観していた桃子は、驚きのあまりに声を荒げていた。

老人:ゴホン!!

「うるさい」と言わんばかりの咳払い。老人たちは「水を差すな」と空気感で伝えていた。

桃子:あ、すいません…

気まづさ故か、廊下で国王と話していた時の桃子とは正反対の対応を見せた。

しかし、その光景を見て、驚いていたのは桃子だけではなかった。

老人1:国王様…やはり彼には……例の加護が…

老人2:そんなことあるわけがない!あの少年の天能は、今まで見た事がない!つまり"聖天"だ…

老人2:聖天者は、加護を有しない!

老人2:つまり彼には、加護が付与される資格がそもそもない!

老人1:しかしよく見てくだされ…

老人1:今この場にいるギャラリーは十五人、そして彼の周りに浮かぶ炎の球体は十五個…

老人1:家族であるはずの久保史緒里の天能を立て替えた上に、彼女と同じ"解釈“を得た

老人1:そんな事……未だ十八年しか生きていない少年に行えると思いますか?

老人2:ぬ、ぬぬ……

納得のいかない現状に、老人達は脳を悩ませ、討論し合い、さらに困惑した。

それもそのはず。

岩本〇〇の天能、《立替》は、自身の"モノ"を奪った人間にから、同価値の"ナニカ"を奪い返す能力。

それが、家族である久保史緒里の能力を使用した。

それも、久保史緒里が、長い年月を賭け、向き合い、ようやく自身の戦闘スタイルとして昇華させた"解釈"すらをも"立替"ていたのだった。

老人1:やはり彼には備わっていたのだ…

国王:奇跡の加護…〈拡大解釈〉か…

老人達の討論に一切口を挟まなかった国王は、ようやく口を開き、そう言った。

老人2:しかし……こっ、国王様?

一人の老人は、確かな証拠をもとに、反駁をしようとするも、彼の目に映った人間は、そんな事はもうどうでも良かった。

国王:ははは……やっぱりそうか……

国王:お前だったんだな…

国王:やはり……器は…岩本〇〇……貴様が持っていたか…

老人1:国王様っ?!

興奮を抑えきれず、国王の手は、握っていたガラス製のコップを粉微塵に砕く。

国王:ようやく見つけたぞ…"王の器"…

国王:頂くぞ、その力……このワシが!!

…to be continued

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