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全裸の王子様 #14



14話 『破滅と忘却の実行』


美波:〇〇様…エヘヘ…〇〇…様…?ハッ!!

感触がない。まだ頭の片隅に残る〇〇との甘い、存在しない記憶、すなわち妄想に浸りながらも、深い眠りから目を覚ます。

深い眠りの中に意識を落としていたはずの美波は、隣で眠っていたはずの〇〇が、いなくなっている事に気がつき、目を覚ます。

美波:〇〇様…?

窓から漏れた朝日の光に照らされたベッドの上には、美波一人だけだった。

脳が覚醒していくにつれ、自身の昨晩の行動の記憶が定まっていく。

美波:確か昨日の夜は…

美波:祐希の歓迎パーティーをして……〇〇様と片付けをした後…なかなか寝付けれなかったから…そうだ!

美波:私は〇〇様の部屋で寝たんだ!

美波:そして、数分前に〇〇様と何か会話を…

美波:そうだっ!今朝は〇〇様に頭を撫でられ…ダメだ!思い出すだけで…///

勝手に〇〇の部屋に忍び込み、添い寝をし、寝息早々〇〇成分の過剰摂取をし、再度気絶と言う形で二度寝した事をハッキリと思い出した。

美波:今日の〇〇様…って、そう言えば…〇〇様は?



――うん…心地いい朝だ…

眩ゆい朝日の光を浴び、右手にはコーヒーを、左手にはバターの塗られたパンを。

まさしくに優雅。とても良い一日のスタートを、充分に堪能する美月。

つい先日、戦争により全身に切り傷を負い、大量の血を流し、死にかけた彼女とは見違えていた。

美月:うん…美味しい…

パンを一口齧り、味を堪能した後、いつものコーヒーを喉に流し込み、テイストする。

――本当に…良い朝だ…

美月:このバカどもがいなかったら…

蓮加:も〜、いい加減離してよ!史緒里!

史緒里:もう〜、別にいいでしょ〜?今は私のおかげで平和に過ごせてるんだからぁ〜

朝一番から、史緒里は、朝食を取る蓮加の背後にまわり込み、抱きしめる形で蓮加の頬や頭、髪などを撫でる。

どうやら、先の死闘により、年下成分を使い果たした史緒里は、戦争での活躍を盾に、普段嫌がられる蓮加にこれでもかと言うほど甘えていたのだ。

史緒里:あの戦争を勝ったのは私のおかげ!つまり蓮加がご飯食べれるのは私のおかげ!

史緒里:じゃあ恩返ししなきゃだよね?だから…甘えさせてよぅ〜

蓮加:そ、そうだけど…食べづらいよ…

史緒里:じゃあ私が食べさせてあげよっか?!

蓮加:違うの!史緒里が邪魔だからご飯が食べづらいって言ってんの!!

美月の優雅なエレガンス朝食タイムは、あっという間に蓮加と史緒里の低レベルなじゃれ合いへと変わってしまっていた。

美月も、もう見慣れたが、彼らはいつもこんな具合であった。

美月:はぁ…さようなら…優雅…

環境のせいで、失ったしまった"優雅"に対し、別れを告げた時、美月の隣で相槌を打ったのはあやめだった。

あやめ:ふふっ、ほんと…この二人さえいなかったら今頃…優雅に朝ごはん…食べれてましたね

美月:だね

美月:あー、あやめちゃんは蓮加と違って、落ち着きがあって…ほんと…妹にしたいくらい…

史緒里や美波ほどでは無いが、〇〇と蓮加とあやめに依存する美月は、そう呟いた。

あやめ:えー、私はいつも美月さんの事、厳しくて優しいお姉ちゃんだと思ってたのになー

あやめ:姉妹だと思ってたのは私だけかー…

わざとらしく、皮肉のようにそう言うあやめに対し、美月は感心した。

美月:やっぱりあやめちゃんは〇〇の妹だね

あやめ:えっ…?

美月:ふふっ、よく似てる

美月:コーヒー、もう一杯入れてあげよっか?この美人で優しいお姉ちゃんが可愛い妹に一杯、美味しいのついであげるよ

頭を撫でた後、美月は立ち上がり、そう言った。

あやめ:えへへ、ありがとう!おねーちゃん!

そんな、うるさかった空間に、和やかで愛くるしい空気が流れ始めた時、一人のブラコンが侵入し、さらにうるさいは加速する。

美波:〇〇様!知りませんか!?

それは、髪の毛が四方八方にハネた、梅澤美波だった。

史緒里:あっ、美波だ…おはよ…

美波:おはようございます!史緒里!それより〇〇様がどこに行ったか…知らない?!

美月:そういや、さっき祐希と二人でどこかに出かけてたよ?

蓮加:あ〜、日課の散歩でしょ?

あやめ:確かに、最近は祐希ちゃんと二人で行くのが日課になってるって言ってましたし

冷静さを欠いた美波に、四人はそう告げた。

美波:な、ゆ、祐希が〇〇様と!さ、散歩?!

美波:な、なんて羨ましいぃ〜

手のひらから血が出そうなほど、力強く拳を握りしめ、美波は嫉妬する。

美月:いい?蓮加とあやめちゃん、あなた達二人はあんな鬼みたいな形相する年上の男と結婚するのはやめておきなさいよ?

史緒里:確実に良い事ないからね?

美波:失礼な!私と結婚すると良い事尽くしだよ!

いい歳で、彼氏のいない召使い三人組は、いつの間にか、誰が一番良い女かを言い争っていた。

桃子:もうっ!うるさいと思ったらアンタ達何やってんの!

美波:も、桃子!ち、違っ

史緒里:美月が美波に喧嘩を売ってました…

美月:ちょ!史緒里?!アンタも一緒になって美波の事散々バカにしてたじゃん!

史緒里:それはアンタが…

桃子:関係ないっ!アンタ達全員うるさかった!だから全員こっち来なさい!!

美月:い、いや…

美波:それは…

桃子:アンタ達うるさい召使いは、庭の手入れでもしてきなさいっ!!

激怒しながらリビングへとやってきた桃子は、朝からうるさく騒ぎ立てる三人を、庭の掃除へと駆り出すため、連行して行ってしまった。

あやめ:さすが桃子さん…表のボス…

騒がしかったリビングルームも、あっという間に蓮加とあやめの二人きりとなった。

あやめ:相変わらず…騒がしい人達だね

蓮加:うん…そうだね……

普段から蓮加の事を大好きな姉として慕うあやめは、いつも通り、気兼ねなく話しかける。

しかし、蓮加の返事は、どこかそっけなかった。

――何か…あったのかな…

そう疑問を感じた時、蓮加は重々しく、口を開く。

蓮加:ねぇ、あやめ…

あやめ:ん?どうしたの?蓮加お姉ちゃん

蓮加:あの時、アンタ…どこにいたの?

あやめ:へ……?



時は遡り、今でも鮮明に思い返す、忌まわしいあの戦争の終局の時。

美波、史緒里、そして美月。頼れる姉達が対峙した傭兵達との死闘に勝敗がついたその時、フロックの最後の一手にが打たれるその寸前。

祐希:何か…嫌な予感が…します…

そう告げた後、蓮加とあやめ、桃子に楓、珠美によって守護されていた祐希は、戦争の終着地点である〇〇の元へと走り出していた。

蓮加:祐希?!ちょ、ちょっと!

あやめ:嫌な予感って…

蓮加:そんな事より!祐希のことを早く連れ戻さなきゃ!〇兄との…約束がっ!

突如として走り出した祐希を追うため、蓮加も、自身の危険を顧みず、走り出した。

あやめ:お姉ちゃんっ…ダメっ!その先は!

引き止めようとあやめは声を荒げる。

しかし、その刹那、巨大な光が、皆を照らす。

桃子:あれは……爆発……?

祐希が走り出した先、もしくは後を追う蓮加が走り出したその遥か先の上空に、現在の人間の資源力ではあり得ぬほどの大きさを誇る大爆発が起きた。

桃子:みんな!!伏せてっ…!

真っ先に気が付いた桃子は、その場にいた者達を守るため、そう指示を促す。

強烈な爆風により、走り出していた蓮加は、その場に転倒し、奇跡的に伏せる形となった。

蓮加:痛っ…って…ヤバ……

強烈な爆風に当てられた蓮加に、無惨にも、追い討ちをかけるよう、再度余波が彼女達に迫る。

蓮加:みんなっ!まだ来る!気をつけて!!

振り返り、再度、みなに爆風の注意を促した。



蓮加:その時、あやめ…アンタはあの場にいなかった

蓮加:何度も私の見間違いかな…って考えたけど、私があなたに気付かないはずがない…

蓮加:大切な妹だから…

蓮加:だから!ちゃんと話して?

蓮加:あの時…あなたは一体どこで!あっ…

人が殴られたような鈍い音が部屋に響く。

その音の正体。それは、あやめの"天能"により、気を失った蓮加が倒れた音だった。

あやめ:まさか…お姉ちゃんがそこまで見てるとはね

起こさぬよう、静かに倒れた蓮加の元へと寄り、淡く光る人差し指と中指を、蓮加の頭部に添え、呪文を唱える。

あやめ:「――、――」

あやめ:"I live in your"

あやめ:これで大丈夫…

そう言い残すと、あやめは、指先から発していた淡い光を抑え、蓮加に毛布を掛けた。

あやめ:まだ…バレるわけには…いかないから…



??:失礼するよ…

日が沈み、雲ひとつない暗闇の空に現れた、淡く光る月は、殺風景な一室を照らす。

扉を開けると、向かいの壁にはたった一つの窓。そしてその窓の前に大きな椅子が一つ。

照明もベッドも植物などもなく、ただ椅子がある。

殺風景と言うにはうってつけの部屋に、新たな来客が訪れた。

??:あらら、こりゃまた派手に殺しましたね…

部屋に訪れた長身の男は、床に転がった二つの死体を踏まぬよう歩き、月に照らされ、椅子に腰掛けた男に話しかけた。

??:あぁ?なんだ…お前か…月下…

月下と呼ばれた男は、「久しぶりだね」と軽く手を振り、血に染まる男の元へと歩み寄った。

月下:今回は何が…って…これ…

慣れたように、地面に転がる死体を眺めながら、殺人を行なった当人に殺人の経緯を問おうとすると、彼自身が真っ先に気が付いた。

月下:バーナー家の次男と三男じゃん

??:おぉ、よく気づいたな…そうだよ…

??:コイツら隠してやがったんだ…だからぶっ殺してやったよ…

月下:も〜、蒼乃…お前は短期が過ぎるよ…

月下:それに隠してたって一体何…

蒼乃:俺の探してた"代導者"の存在をだよ…

月下の言葉を遮り、蒼乃は、言った。

月下:っ?!その話は本当かい?

蒼乃:あぁ…コイツらが少し前まで可愛がっていた"奴隷"らしい…

蒼乃:"その女と同時に、ある男を殺して欲しい"それがコイツらからの依頼

蒼乃:"岩本〇〇"と"与田祐希"…こいつらが依頼したのはその二人の殺害、もしくは拉致だ

蒼乃:願ったり叶ったりだぜ…

蒼乃:仕事として舞い降りてくるとはな…代導者がよ

月下:まぁ、君が依頼主を殺しちゃったから依頼金は全てパーなんだけどね?

蒼乃:まぁ、依頼金なんていいじゃねぇか

蒼乃:どうせ、この世界は終わるんだからな…

…to be continued

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