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全裸の王子様 #07


7話 『馬鹿で雑魚な外道共へ』

〇〇:うっわぁ、すっ……ごい人数…

三階の階段を登り、〇〇は屋外へと飛び出し、家の前に群がる人間達を見渡し、感嘆した。

彼らの住む屋敷は、屋根のない造りなっており、三階に上がるとバルコニーのように入り口辺り全体を一気に見通せる部屋が存在していた。

祐希:みなさん…本当に…ごめんなさい!!

祐希とここに来たら、せっかくの良い見晴らしができる場所だよ。と紹介したかったはずだったが、その場で祐希が行ったのは深々と頭を下げ、謝ることだった。

祐希:バーナー家は、以前、私が奴隷として仕えていた王族です…

祐希:昨日、私が反抗的な態度で、〇〇様にご迷惑をおかけしたせいで、こんな…こんな!大軍を!

祐希:今すぐ、ご主人様達に、私のせいだと告げて来ますので、どうか皆様は…このまま…私の身柄を…彼らに…

戦う前から弱気になっている祐希は、自己犠牲の精神でこの場を収めようとしていた。

そう、〇〇達のために、もう一度、地獄とも呼べる彼らの元で仕えようとしていた。

だからこそ、彼女は、元仕えていた彼らの事を"ご主人様達"と呼んだ。しかし今のご主人様は〇〇だ。

今、祐希が仕えているご主人様は、決して浮気は、許せない男だった。

あやめ:祐希ちゃん!私達はそんなこと…

〇〇:ふざけんなよ

祐希:え?

〇〇:そんなこと許せるわけねぇだろ…

戸惑う祐希のことを気にも留めず、〇〇は怒りのままに話す。

〇〇:俺の事を一度ご主人様って呼んどいて、条件が悪くなれば実家に帰るってか?

祐希:ち、違います!私は決して…

〇〇:じゃあどうして?どうして、俺らに頼る事もせずにバーナー家に戻ろうとするの?

声や口調からは、怒りのような気持ちが読み取れるが、彼の目はいつも通り、優しかった。

そんな澄んだ目で、〇〇は祐希を見つめる。

祐希:私だって…私だって!まだここにいたい!みなさんと!ここにいたい!

祐希:でも、あんな人数相手じゃ…きっと…

確かに、その通りかもしれない。正直〇〇の心の中も祐希と似たような気持ちだ。普通に考えれば数千人相手に十人以下の人間で勝てるか。

そんなの無理だ。九割九部負けだ。

それでも、〇〇には、勝てる自信があった。

〇〇:祐希、心配すんな

泣き叫ぶ事で、その場にへたり込んでしまった祐希に視線を合わせた〇〇は、頭を撫でた。

〇〇:俺も、祐希と同じ気持ちだよ

〇〇:まだ、みんなとここにいたいし、みんなとここで過ごしていたい…

〇〇:そこには祐希もいる

〇〇:祐希と、みんなと、俺は笑っていたい

〇〇:だから、戦うよ

腹を括り、あの日誓った覚悟を全うするため、〇〇は歩き出す。

〇〇:あいつらは多分、未だに"天能"を解放できていない雑魚が大半、いやほぼ全部がそうだ

〇〇:使える奴がいても二、三人、だから、俺達は絶対に負けない、俺達なら勝てる!

嘘なんかじゃなく。本心で。自身と彼女達を信じるからこそ、前を向ける。

〇〇:前線は俺と美波さんと史緒里さんと美月が取り仕切る

〇〇:桃子さんと楓さんと珠美さんは城内に侵入しようとする敵を食い止めてて!

珠美:かしこまりっ!!

美月:取り逃がしたらごめんね?

楓:無理、ちゃんとしろよ?

桃子:ほんと、普通にちゃんとしてよね?

美月:は、はい…

〇〇:蓮加とあやめは祐希を守ってくれ

あやめ:うん、絶対守り抜くよ

史緒里:絶対あなた達三人、いえ!私の三人の妹達は私が守るからね!!

蓮加:〇兄と結婚しでもしたの?

全員、一応聞く耳はあるのだろう。返事はする。しかし無駄話が多い。

――ほんと…大丈夫かな…

と、不安になりながらも、彼女たちのマイペースさには、相変わらず安心が出来る。

美波:〇〇様、私達なら大丈夫ですよ

不安な思いを読み取ったのか、美波は〇〇と同じ方向を眺め、そう励ます。

〇〇:ありがとう、美波さん

美波:あのっ、〇〇様……そのっ…

〇〇:わかってる、この戦い、全員が無事だったら頭を撫でてあげる、だから、死なないで

まるでプロポーズでもされたかのように美波は両頬を赤く染め、繋がれた手を見て、これほどまでない幸福感に満たされる。

美波:〇〇様、ありがとう…

ほがらかな笑顔で、〇〇に感謝の意を告げた後、敵の軍勢を見た美波の笑顔は豹変した。

美波:このクソ共っ……

〇〇:ひ、ひぃっ!!

黒目は限界まで小さく、口角は吊り上がり、まるで目の前の軍勢を皆殺しにするかと思わせるほど狂気的な笑顔で美波は、バルコニーから勢いよく飛び出した。

美波:私の〇〇様の左腕に!穴開けた事!死んでも後悔させてやるっ!!この馬鹿者共がぁぁ!!

美月:私たちも美波に続くよ!この雑魚共がぁぁ!!

史緒里:私の三女に働いた無礼!後悔させてやる!この外道どもがぁぁ!!

そう言って、三馬鹿娘達は、約一千人の男達の群れの中に飛び込んでいった。

〇〇:全く、叫ばないと出陣できないのかな…

呆れながらも、頼もしい彼女達の背中を追うように、石垣に足を乗せた。

〇〇:祐希、この戦いが終わったら、まずは祐希の歓迎パーティーだな

祐希:え?

〇〇:好きな食べ物とか食べたい物、今のうちに全部みんなに話しとくんだよ?

〇〇:ぜーったい!!用意するから!

〇〇:じゃあ、また明日のパーティーで

〇〇:絶対…生きて帰るから…

また新たな約束を取り付け、〇〇もまた、彼女達を追うように戦場へと身を投げた。

祐希:どうか、どうか、美月様、美波様、史緒里様…〇〇様!!どうか…どうか!ご武運をっ!



長男:おい、お前ら…準備出来てんだろな?

フロック・バーナーは、低級ではあるが仮にも王族の人間。普段の身だしなみや服装は、それなりに綺麗に整えられていた。

しかし、復讐の激情に駆られたのか、今ではボサボサの前髪が目にかかろうがお構いない。

自身の中で煮えたぎる恨み全てを、一人の人間に対する呪いへと変える。

しかし、彼を呪う過程、金で雇ったはずの者達の返答の無い姿をコケにされたと受け取った彼は、さらに怒りを露わにする。

元々怒りっぽい性格の彼は、無視された事に対していつも以上に気が立っていた。

長男:おい!聞いてんのか?!てめぇら!!

突然叫び出し、フロックは後ろに立つ三人組に怒鳴り声をあげる。

??:静かになされ、雇い主殿…

??:準備など何も必要ない、我らが負けるなどあるはずがないだろうに

??:貴方様はピンピンしすぎでは?何か不機嫌になさる事でも?

…と、個性的な見た目をした三人組は、三者三様に雇い主に対し、対応する。

長男:ちっ、雇い主に対しての言葉がなってねぇ奴らだ…カス共が…

金で雇った以上、完全服従を義務付けたがるフロックでも、面倒くさいと痺れを切らしたのか、彼らに背を向け、服従させる事を中断する。

長男:お前らみたいな傭兵としか能のないやつらを高い金叩いて雇ったんだ

長男:ちゃんと働けよな

皮肉のように、彼は言う。しかし三人共、フロックの言葉など意に返さず、自身の世界に身を投じる。

??:おや?天凱さん、あそこにいらっしゃるのは傭兵の方達では?

黒いハットを被り、マジシャンのようなタキシード姿の細長い男が、バルコニーを指さす。

天凱:いかにも、彼ら…いや、彼女達…ですな…

鎧を着込み、腰には太刀のような獲物を持つ、五十代後半くらいの男は、親指と人差し指を丸め、眼前にその手を重ね、バルコニーを眺め、そう呟く。

??:へぇ!!女性ですか?!まさか…私達の相手は女性だとは…やる気が出るのか、出ないのか…困ったものです、ねぇ、ゼファルドさん?

ゼファルド:男だろうと女だろうと興味はない、ただ楽しめれば良い…

中背中肉のゼファルドと呼ばれた男は、不敵な笑みを浮かべながら、今から起こる戦闘と言うものに期待をしていた。

ゼファルド:貴様もそうであろう?天凱殿?

天凱:いえいえ、拙者は貴殿のように戦いに楽しみを見出す若い戦い方は出来ませぬ

天凱:その点で言えば、ファジル殿の方が共感が出来るのではごぜぇやせんですか?

以前と変わらず、指の隙間を望遠鏡のように利用しバルコニーを覗きながら天凱は会話をする。

ファジル:いえいえ、私は報酬のために戦っておるだけですので、おほほほほほ

三人の傭兵達は、戦闘前だと言うのに、緊張する気配すら見せず、談笑を行う。

しかし、談笑をする彼らの和やかな空気が、少しヒリつき始めた。

天凱:ほう、まさかまさか…同郷とは…くははは、面白い…

天凱:ファジル殿、ゼファルド殿…あの育ちの良さそうな色白い女性、あの方との対戦は、ぜひ私にやらせて頂けませんか?

天凱は、史緒里に対し、何かを感じ取ったのか、不敵な笑みを浮かべ、二人にそう告げた。

ファジル:あらま…抜け駆けですか?まぁ、私としては誰と当たっても変わらないのですがね?

天凱の自己中心的な行動に、呆れたような姿勢を見せた時、ゼファルドも声を上げた。

ゼファルド:なら俺は、あの細身でタッパのある女…あの女は俺に任せてくれ…

ファジル:あら、ゼファルドさんまで?う〜ん、あの少女に…何かあるのですか?

ゼファルド:いいや、ただの好みだ…

美波の凛々しい顔立ちに、ゼファルドは人間としての本能を燻られ、思いを昂らせる。

ゼファルド:くくく…早く…手合わせを…

ファジル:なんと!ゼファルドさんの女性の好みはクールビューティーな方だったとは…

ファジル:でしたら私は彼女ですね

売れ残った美月の表情をジッと眺める。

ファジル:どこか生意気そうですね、あの子は…

ファジル:まぁ、いいでしょう!私は報酬を頂けたらなんだって良い!さぁ!早く始めましょう

ファジル:皆殺しです…うふふっ!!



――ヤバそうなのが三人いるな…

バルコニーから身を投げ出した〇〇は、いち早く戦場の状況を把握し、即座に脳を使用する。

天凱にファジル、ゼファルド。身なりからするに彼らは雇われた傭兵。頭のキレる〇〇にとってそんな事は推測する事は容易だった。

しかし、未知なのは天能、そう、彼らの手札が一向にわからない。

――この戦い、油断出来ない…

先日のように、上手くはいかない。下手をすれば誰かが死ぬ事だって。

無数の人間に、厄介な傭兵。そして自陣側の圧倒的不利な状況。

しかし、今更この争いを無かった事には出来ない。

全てを覚悟し、決意したからこそ〇〇、そして彼を慕う三人は戦場に姿を表した。

十五メートル程の滞空時間が終わり、そろそろ地面へと着地が行われる。

四人は、詠唱を唱える。

美波:"好意を抱く者に愛情を、嫌悪を抱かせる者に対峙する力を我に!!"

史緒里:"敵なる者共に等しく用意の同数を!"

美月:"我が平行なる力よ、我含む数多なる物に一定なる力を!"

〇〇:"我が所持したる全てに、干渉したる者どもに、立替を!"

一挙に四人の"天能"が姿を表す。

〇〇:みんな!!守るために、戦えぇぇぇ!!

不安な気持ちにより曇る思いは、〇〇の豪快な号令により、全て晴れやからな心に、士気へと変わり、少女達は、戦場へ走り出す。

――二国の王子が起こした喧嘩による戦争が、満を持して、今火蓋っを切った。

…to be continued

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