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全裸の王子様 #16


16話 『騎士団会議』


??:最近頻発している各地での様々な現象についてだが、今一度我々は改め直す必要がある

??:そのために、諸君らをここに呼んだ

??:皆のもの、協議し合おうではないかっ!

兵士:御意!騎士団長っ!!
 
煉瓦造りで作られた洋風のテイストを基調とした屋敷の一室で、皆から"騎士団長"と呼ばれる気前の良さそうな男は、十数名なる兵士達の前で、彼らを招いた目的を明かした。

その場にいた兵士達は、自分自身に国を守る騎士としての自覚や誇り、プライドなどがあるからなのか、真剣な眼差しで、団長を見つめる。

しかし、その中にも例外がいた。

美月:ふぁ〜あ〜…眠っ…

そう、この女。山下美月。通称堕落モンスターだ。

史緒里:ちょっと美月、空気読みなさいよ

美月:んえっ?何が〜?

普段、美月の適当な振る舞いには呆れからか、何も言わない史緒里だったが、今回の行動には、流石に目をつぶることは出来なかった。

史緒里:何って…だから〜!団長とみんなが盛り上がってる時にあくびするなって事よ!

美月:えぇ…べつにいいじゃん…

史緒里:良かない、士気が下がるの

美月:私のあくび一つで士気が下がるくらいならどうせ大した気持ちはないって事でしょ

史緒里:たしかにあんたの言う通りだけど、今はこの熱苦しい雰囲気を維持させてあげなきゃ

史緒里:今しかタイミングないんだから!

美月:それもそうだね…しゃーない

美月:熱苦しいけど、乗ってやるかぁ〜

史緒里:流石美月!じゃあ…

史緒里:頑張るぞぉぉ!!

美月:やー!!

団長:なぁ梅澤…あのバカ二人締め出していい?

梅澤:私の方からこの真面目天然バカと堕落遅刻最悪バカにはキツく言っておきます



団長:気を取り直して、みんな…これを見てくれ…

そう言って、団長が指示をすると、皆の視線は団長の左手が指さしたホワイトボードへと集中した。

"各地で情報の出回る罪人の天能ホルダー"

"複数体の変死体"

"天能の譲渡説"

"継承戦の護衛班の取り決め"

そこに描かれていたのは、彼らが騎士団として解決せねばならない事案の数々だった。

団長:まずは一つ目の"各地で情報の出回る罪人の天能ホルダー"の事なのだが、二つ目に記してあるこちらの"複数体の変死体"ともおそらく関連のある話だ

団長:まず、俺達が使用できる"天能"だが、これを保有する者は"稀である"、それはみんな理解していると思うが、最近、保有者の犯罪行為が多発してる

団長:先週の一週間だけで、我々の元に届いた事案だけでも十八件、異例の数だ

団長:《浮遊》能力を使う男が店の中の物を浮遊させ、姿を現さず盗みを行う

団長:推定ではあるが《斬撃》もしくはそれ以外の遠方攻撃を可能とする天能により、通りを歩く人間に攻撃をし、死亡させた

団長:など、曖昧模糊ではあるが、恐らく天能を扱ったであろう、新手の犯罪が多発しているわけだ

美波:なるほど…それで、先程関連があるとおっしゃっていた"複数体の変死体"とは、一体どのような関連性が?

詳細を話す団長の言葉に納得した後、話に前のめりになった美波は話の結論を急かす。

団長:その件についてだが、まずはこれを見てくれ

言葉と共に数枚の紙を手渡した。

そして、その紙に描かれていた。いや、印刷されていたのは。

史緒里:なによ……これ……

兵士:う、うぷっ…気、気持ちわるっ……

美月:悪趣味な…

あまりにも酷く傷つけられた人の亡骸だった。

団長:今君達が見て分かる通り、この資料に写るのは、最近多発している猟奇殺人の被害者達だ…

団長: 一人目は、腹部が裂かれ、開かれた腹部から視認できた心臓部位も…裂かれていた…

この議題に触れてから団長の声色がみるみると暗くなるのは、きっと写真のせいだろう。

美波:一体…なんのために…

不可解な変死体の謎に、その場に呼び出された騎士団の兵士達は、思考を巡らせる。

そんな中、渡された資料は、この一枚ではなかった事に気がついた。

史緒里:この…二枚目は……?

真っ先に気がついた史緒里は、団長が二枚目の詳細に触れる前に、質問をした。

団長:これも…複数の内の変死体の一つだ…

美波:でも、二枚目を見る限り、一枚目とは異なり、外的損傷がそこまでないような…

二枚目に資料に添付されていたのは、体中に切り傷はあるものの、一枚目のような内臓が見えていたり、体の一部に欠損しているような箇所は見受けられなかった。

だが、明らかに違和感があった。

団長:よく見ろ、彼らの右胸部あたりを…

言われるがまま、視線を指示された通りの場所に移した時、彼らはある異変に気が付いた。

美月:右胸…心臓部の辺りに…なんだ?何か青い斑点みたいな物がちみちみと…

目を凝らさなければ見えない程の美月が指摘した、少し青く腫れた皮膚と斑点模様。

美波:本当だ…何か…浮かんでる…

団長:山下よく気が付いたな…偉いぞ!!

美月:そうは〜、させるかっ!

兄貴分のように気さくな性格の団長は、まるで妹を褒めるように美月の頭を撫でようと手を伸ばすが自身に触れようとする手に過敏な美月は、さっと手を払いのけた。

美月:団長は好きだけど、触られるのはやだ!〇〇以外の男に触れられるのは無理!!

団長:あはは〜、相変わらずお前らは〇〇様が大好きだな、たくっ、妬けるぜ〜

豪快に笑い、団長は切り替える。

団長:山下が気が付いたように、この二人の男の死体の右胸には、青い斑点が浮かび上がっていた

団長:酷だが、解剖を行い、彼らの内蔵部を調べ尽くしたが、何も無かった…

団長:しかし、"何も無い"すなわち、何か天能が絡んでいると仮定できる

団長:我々の技術では解明出来ない、つまりは天能によって何か施されてると断定付けるべきだな

団長:まぁ、聞いてて分かると思うが、お前達をここに呼んだのは、これを伝えたかったんだ

団長:お前ら、気をつけろ…

先ほどまでのフランクさは無く、ただただ本気で皆の身を案ずるようにそう言った。

団長:彼ら、"天能ホルダー(保有者)"の今度の狙いは"天能保有者"である俺やお前達かも知れない…

団長:だから、みんな…十分に気をつけてくれ…

そう言うと、団長は静かに拳を握りしめ、どこか悔しそうに注意喚起を促した。

団長:そして三つ目!

団長:俺が個人的に一番気になってる"天能の譲渡説"についてだが、まずは梅澤、先日起きた例の"戦争"の日の事を話してやってくれ

美波:わかりました

団長から渡されたバトンを繋ぐように、美波はホワイトボードの前に立ち、話し始める。

美波:まず先日、私達岩本家とバーナー家との間に起きた戦争なのですが、大変ご迷惑をおかけしました

美波:何かしらの迷惑をかけたと思います、以後はあんな身勝手をせぬよう気をつけます

そう言って、頭を下げる美波に続き、両サイドで静かに立っていた史緒里と美月も美波の行動に続くように頭を下げた。

美波:そして私が話しておきたかった事なのですが、

美波:〇〇様曰く、彼らの大将である"フロック・バーナー"は、どうやら、過去に見せた天能とは異なった新たな天能を使用した…とおっしゃっておりました

美波:私達もよく知る通り、彼の天能は《回転》と称される、回転力をモチーフとした天能です

団長:うん、合ってるよ、ちゃんと天能発動時の天能発芽期資料にも、彼の天能は正真正銘《回転》であると明記されている…

兵士1:私も、団長と調べに向かったので、それに関してはちゃんと正当です
 
兵士2:えぇ、それに私達も見てました…

兵士2:彼らの独裁政治に逆らった罪の無い、一人の一般市民が、《回転》の能力を使用され、腕が…捻り潰された様を…

いつぞやで〇〇が告げた様に、《回転》と呼ばれる天能は昔から貴重な物で、その天能保有者が王族から生まれたとなると、皆それなりに知ってはいたのだろう。

その場にいた、基本無知な美月以外、知っていたと言わんばかりに納得した様に首を縦に振っていた。

美波:やはり…皆様もご存知ですよね

――美月以外は…

美月:え?なんか今バカにした?バカにしたよね?

美波:……

美波:と言うように、彼の天能は皆さんがご存知の通り、《回転》である事はまず間違いありません!

美月:何無視してんのよ!バカ!

勘の鋭い美月に感づかれたが、美波の強引な無視によりなんとかその場を切り抜けれた様だ。

美波:しかし、あの戦争の最後に起きたあの爆発、あれは報告書にも記録された通り、あの爆発の原因はフロック・バーナー…そう、彼の"天能"なのです

団長:し、しかし!彼の天能は《回転》!爆発を起こそうにも一体どんな解釈が…

兵士3:回転力による摩擦で火種を…そして彼自身が体に爆弾などを…

美月:それはない

決して無いとは断的出来ない考察に対し、目前で彼の自爆を経験した美月はキッパリと兵士の意見を否定する。

美月:あの爆発の規模を考えて?

美月:あの規模はどう考えても自分の命を"代償"にする"限定条件"を掲げる事で成した"制限解除"だよ

美月:いくら爆弾を手元に置いていようと、あの威力は天能以外に考えられない

美月:じゃないと…〇〇が止められないはずがない…

少し悔しそうに、美月は〇〇でも止められなかった事を勘定に入れ、現在の結論に至った。

団長:確かにそうか…"限定条件"すなわち…"天能"…

団長:自死を条件に広範囲の爆発…

団長:そんなハイリスキーな天能となると…もはやあれしかないか…

美波:おそらくそうです…

美波:あれは歴代の中で最も"邪悪"と呼ばれた最悪の天能である《犠牲》の派生…

美波:《爆滅》

美波:きっと、その天能に違いないでしょう…

そう分析する美波の言葉に、美月は意見を述べる。

美月:まぁ重要なのはそこじゃない、どうしてあの人間が天能を"二つ"所持してるか…って事だね

美波:うん…そこなんだよ
 
美波:だからこそ、そこから紐解かなきゃ…

史緒里:譲渡説なのか…二つの天能を持つ人間がこの世にいる説…なのかを…

天能は一人の人間に一つ。いつからかそう理解していた天能のルール。

そんな狭まった人間達の持つ知恵では、きっとこの謎の真相には辿り着けないだろう。

この、掲げた三つの謎が、全て繋がっている事も。



団長:梅澤、今日は会議をまとめてくれてサンキューな、助かったよ…

団長:お前ら二人も、来てくれてありがとうな

長かった会議が終わり、美波達が帰りの竜車を待つ間、元上司である騎士団長は見送りを兼ねて、わざわざ挨拶にやって来た。

美波:こちらこそありがとうございました

美月:しゃーなし来てあげただけだよ〜ん

史緒里:アンタも素直じゃないね

団長:あっはっは!相変わらずお前らは全員が全員バラバラでめんどくせぇ性格してんな!

三者三様の対応に、団長は豪快に笑う。

団長:久々にお前らに会えてよかったよ、〇〇様にもまたご飯でも…と伝えたてくれ

美月:〇〇はあんたみたいな平民出の騎士とはご飯なんて食べないよ〜だっ!

美波:あんたも平民でしょーがっ!

美月:痛ッ!ちょっと美波!どうしてチョップするの!別に必要なかったじゃん!

史緒里:美月が調子乗ってるからでしょ?

美月:あぁ!史緒里まで!!

仮にも一応元上司の前で、彼らは無礼にも喧嘩をおっ始めていた。

団長:ったく、こいつらは…

美波:最後まで騒がしくてすみません

団長:いいよ、こいつらはこれで

少し呆れながらも、二人の喧嘩を間近で眺め、団長は何かを思い出すかのよう笑う。

団長:ふふっ…お前ららしいよ……

美波:えっ?

団長:梅澤、最後に明後日から始まる、〇〇様が出場する"王位継承戦"の事だが

団長:気をつけろよ…

美波:はい…

団長:奴らウィリアムス家は、あの時、一度追い出したはずの〇〇様をまた迎え入れようとしてる…

団長:あの傲慢でプライドの高い王族共が、そんな恥をかくような行為を、自ら行う…

団長:そんな事あるはずがない…

団長:きっと何か裏がある…

団長:だから…梅澤…山下、久保…、、〇〇様をっ…蓮加様を、あやめ様をっ!!…どうか!どうかっ!よろしく…頼むっ…

普段、厳格だが頼れる兄貴分である団長は、珍しく元部下である彼女達に、縋る様に頼み事をした。

それほど、彼は"継承戦“を危惧している。

そんな"あまり目にかかれない光景"を目にした三人は、自信満々に答えた。

美波:団長、任せてください

美波:何があっても、何を犠牲にしても、彼らは私たちが守り切って見せます

美月:何があっても…ね?

史緒里:うん、あの三人に手を出そうとする奴は、何人も許さない

団長:ふふっ、〇〇様達のことになると、ほんとに頼もしい奴らだな…

団長:頼んだぞ、お前ら…

彼女達はまた一つ、新たな"約束"を交した。

…to be continued

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