全裸の王子様 #13
13話 『戦争のその後…』
国王:なぁ、岩本家の王子様よ、貴様は一体この事態をどう責任とるつもりなのだ?
グラドビース国、中心部。現国王が住まう王宮の一室。真っ暗で奇妙な部屋。
そこに、一人の老人の声が響く。
国王:バーナー家は、貴様ら廃れた王族とは違い、下級王族と言えども、グラドビース諸国内の南区域を任せた王族代表じゃ
国王:そんな国を代表とする王族とたった一人の"奴隷"を巡って戦争を行なった?そんなくだらない理由で王族同士が喧嘩じゃと?!ふざけるなっ!!
先程までは、静かに問い詰めるスタンスだった老人は、突然豹変したかのように、スタイルを変え怒鳴り声を上げ始めた。
深々と高そうな椅子に腰掛け、頭には金色に輝く王冠、そして肥えた腹に、伸びた髭。
そう、正真正銘、現国王は、〇〇の前に姿を現したのだ。
国王:なぁ、岩本〇〇よ…貴様は、仮にも王族の血を引く人間という自覚はあるのか?答えろ!
〇〇:ありませんよ、そんなもん
重々しい空気の中、相も変わらず岩本〇〇は、国王だろうが、祖父であろうが、何者にも臆する事は無かった。
その調子が気に障ったのか、正面に座る国王ではなく、顔も見せない黒い窓の奥に隠れた老人が、声を荒げ始めた。
老人1:このクソガキ!ふざけるな!貴様らのくだらない原因で起きた戦争で他国も巻き込みかけたのだぞ!
老人2:それにあの高圧力の爆発!そしてバーナー家が用意した軍勢!
老人3:貴様らの戦争のせいで、全世界は、われらが国のつまらぬ話題で、もちきりじゃ…
老人4:そう言えば火種となった、バーナー家の長男はどうやら戦争により死んだらしい…
老人5:ならば火種であるその男も…
まるであの時の戦争のように、一人の人間に対し、多くの人間が言葉と言う暴力を浴びせる。
二人?違う、三人。いいや十人?いや百人ほどくらいだらうか。
国王と個別に話していたはずが、今では、百個以上の窓が〇〇の周囲に展開され、それぞれが言いたいように〇〇に罵倒を浴びせる。
老人6:貴様も爆発で死ねば良かったのだ!
老人7:そもそも王族の地を引く者が奴隷に肩入れするなど、くだらない…
常人では耐えられない無数の罵声。
声色の違う何百人もの声が行き交う中、一つの声色が発した一言に、〇〇の怒りの限界は訪れた。
老人8:ならばその奴隷自体を殺せば良いのでは無いか?!
〇〇:あっ?
老人8:さすれば!我々の陥ってしまったメンツも他国に対してっ…がっ!あぐっぁぁあ!!
意気揚々と話していた老人は、突然呻き声を上げたと思えば、次は骨が折れ、血飛沫が飛び散るような音がした。
老人9:岩本〇〇っ!き、きさまっ!!
窓の向こう。暗闇の中。姿を見ることはできないが、一人の男が立ち上がり、なにやら攻撃をしようとする。
〇〇:お忘れですか?クソジジイ様方…
〇〇:俺の能力を…
ざわつく無数の窓の奥の人間達は、突然流暢に喋り出した〇〇の言葉、そしてこちらをぎょっと覗き込む澄んだ瞳に、唾を飲み込む。
〇〇:俺をあまり…怒らせないように…
そう、さっさと話を切り上げて出口へ向かう。その背中に、窓の向こうから声がかかる。
老人8:お、おのれぇ…覚えておれ…貴様だけはっ…貴様ら悪の一族だけはっ!うぐっ、何があっても…後悔させてやるぞ……
老人8:我々王族の中から生まれし異分子共が…
〇〇:あぁ、覚えといてやるよ、
振り返ることすらせず、〇〇は返す。しかし、思い出したかのように〇〇はわざとらしく「あっ…」と言った。
〇〇:おじさん結構いい天能持ってんだね…
老人8:あぁ?!
〇〇:へぇ〜、《操作》…じゃあ、これ貰ってくね?
肩越しに振り返りながら、〇〇は煽る。
老人9:なっ!まさか!
老人8:貴様!さてはっ…!
突然焦り始め、老人が何か息巻いたような声を発するが、天能は発動しない。
老人8:く、クソガキがぁぁ!!
大声を上げる老人に一瞥をし、部屋を出る。
〇〇:後悔…やってみろよ…
〇〇:おれの家族に手を出すようなら…今度こそお前らも全員…ぶっ殺してやる…
〇〇:祐希を…みんなを…殺させてたまるか…
誰にも聞き取られない独り言。堅苦しい王宮から出た時、太陽の光は、〇〇の顔を照らす。
そう、人を喰らう鬼のように。強く、醜く、歪に出来上がった笑顔を。
*
祐希:〇〇様!〇〇様!!
声が聞こえる。まだジンジンと残る、豪快な爆発音と耳鳴りが響く。
深い沼のように沈んだ意識の中から、自身の名を呼ぶ声に引っ張られ、〇〇は目蓋を開く。
一瞬、落ちる夕日に眩しくぼやけた視界に、誰かの顔が映る。
美月:〇〇!おい!しっかりっ!〇〇〜!!
何度も名前を呼んでいたのは、美月だった。
美月:〇〇!おい!起きろ!大丈夫なの?!ちょっとやばくない?!これ?!
史緒里:もう!美月うるさい!きっと〇〇様ならこんな程度では死んだりしないよ!
その後ろで心配だからなのか、場違いな喧嘩をふっかけたのは史緒里だった。
そして、普段なら駆け寄ってくるはずの美波は、気絶した〇〇を横目に、鬼の形相でどこか彼方を見つめる。
美波:殺す…〇〇様を…あんな風に…殺すっ…
何かを恨むように、ただただ鋭い眼光と怒りを、どこか彼方を眺め、不吉な言葉を呟く。
美月:しっかりしなよ!〇〇!
そんな、三人の側で、気絶していた〇〇は、乾燥した喉から声を発した。
〇〇:み、みんな…
美月:あ、しっかりした…
視界が定まるにつれ、爆発による爆風と衝撃のせいで混濁していた記憶も、記憶の底から少しずつ思い出す。
フロックの復讐により始まった戦争、無数の兵士との乱闘、そして、敵軍の王であるフロックが行った自決覚悟の自爆。
〇〇の記憶は、彼の爆発に対処しようとした。
しかし、どう対処したのか、彼には一切の記憶がなかった。
やがて思考がはっきりとした時、今ある現実が夢でない事に気がつくと、〇〇は慌てて起き上がった。
〇〇:爆発……あっ、そうだ!爆発!!
自身の命を賭け代とした制限解除の天能。自身の死を覚悟した上での広範囲爆発。
〇〇の見立てとはいえ、王族と呼ばれる人間が自身の命を"犠牲"にした"制限解除"で"天能"を使用でもすれば、このあたり、一帯は消し飛んだはずだ。
だが、今、彼が周りをぐるっと見渡した限り、彼らの屋敷どころか、地形すらも何の変哲もなく、何事もなかったかのように、戦争前とそっくりそのままだった。
〇〇:何も…変わって…ない…
〇〇:みんなも…生きてる…
美月:安心して、〇〇。私達はみんな無事、屋敷もこの国も、全部…全部守られたよ
美月:アンタのおかげだよ…
美月:だから…おかえ…うぶっ!
珍しく、それっぽい顔を作り、温かい言葉で〇〇の無事を喜ぼうとした時、美波の突進により、美月の言葉は遮られた。
美波:〇〇様!!生きてる?まさか…本当に…ううっ…生きてるんですか?
目を覚ました〇〇の元へ、すぐに美波が駆け寄ってきた。
相変わらず、過保護な彼女は、〇〇が生きていると分かった途端、走り出し、息をする〇〇を抱きしめ、何度も確認をした。
〇〇:大丈夫だよ美波さん、ただちょっと爆風に当てられて気絶しただけだから
頭から流れた血を、手の甲で拭う〇〇。
前身の至る所から、爆風により、かすり傷を負い、血を流す。しかし、その血は多量になりがちなだけで、見た目こそ派手だがそこまでのダメージはなかった。
美波:ですが!〇〇様が…いえ、ご無事で何よりです…
そう言って、心配症な美波は、母親のように暖かな心で、〇〇を、強く抱きしめた。
〇〇:ありがとう、美波さん…
良かった。
みんなが無事で。本当に良かった。
全員の安否を確認できた〇〇の心には、その言葉と希望が深く、広がった。
祐希:〇〇…様……
少し離れたところから、祐希が〇〇に呼びかける。
心配と安堵からか、大粒の涙を流しながら、祐希はそっと〇〇の姿を確認し、見つめる。
思考が安定した今、〇〇は思い出した。
祐希との、一つの約束を。
"絶対…生きて帰るから…"
〇〇はゆっくりと立ち上がり、涙を流しながら立ち尽くす祐希の元へと歩み寄る。
少しずつ、少しずつ、距離が縮まる。
王族と奴隷。
彼らが共に背負っていた立場。そして混じり合った二人の数奇な運命。
それが今、もう一度、複雑に絡み合う。
祐希:〇〇様!!無事で…よかった!
祐希は大声でそう言うと、突然走り出し、白く細い、小さな手で、〇〇を優しく抱きしめた。
祐希:怖かった…また、私のせいで誰かがいなくなってしまうのが…
祐希:また…家族が…私の前から…いなくなってしまうのが…怖くて…怖くてたまらなかった…
祐希:だから…〇〇様がっ…美月様が…美波様、史緒里様が…生きていてくれて…
祐希:私はっ…幸せです……
*
一人の少女が原因で起きた戦争は、岩本家に集う人間からは死者は出さず、終幕した。
誰一人、後遺症の残るほどのダメージを負う事はなく、四人対千人と言う不条理な戦争を、彼らは勝ち抜いた。
フロックの復讐は阻止されたが、刻まれた傷跡は安いものではなかった。壊された物、死んでいった多くの兵士、流れた涙の数。
そんな、無情な現実は、勝ち抜いた者にも、明日として訪れる。
爆風により広がり、霧散した雲が何一つもない空から、差し込んだ日の光は、ある一室を照らす。
それは、〇〇の部屋であった。
美波:おはようございます、〇〇様
当然のようにいる美波。なぜだろう。彼女にはしっかりと彼女の部屋がある。
なのになぜ、目を覚ますと目の前に彼女が。
相変わらず、読めない美波の行動に、少し呆れながらも、満遍の笑みをこぼす。
〇〇:おはよう、美波さん…良い朝だね…
そう言い放ち、〇〇は隣に潜り込んでいた美波の頭を優しく撫でた。
美波:は、はうっ!〇〇…様…///
朝から致死量級の〇〇成分を摂取した美波は、満足したような表情で気絶した。
〇〇:よし、厄介者は朝のうちに成敗っと…
少し大袈裟だが、彼女は放っておくと何をするのかが検討がつかない。だから朝のうちは静かにしてもらおうと、〇〇は自身の成分を過剰に与えた。
せっかく寝かしつけたモンスターを起こさないように、慎重に動き出し、〇〇はそっと布団から体を抜け出した。
窓を開け、服を着替え、部屋を出る。
いつも通りの朝の行動を終えると、そこにはいつも通り、彼女がいた。
〇〇:おはよう、祐希
祐希:おはようございます、〇〇様
互いに言い慣れた挨拶を交わすと、二人は見計らったようなタイミングで同時に笑う。
祐希:今日も…〇〇様の日課の朝のお散歩、ご一緒してもよろしいですか?
〇〇:ふふっ、もちろんだよ
〇〇:じゃあ、行こっか!
祐希:はいっ!
そう言って、二人は横に並び、互いに歩幅を合わせ、太陽の光に包まれた世界を、二人歩き出した。
…to be continued
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