全裸の王子様 #23
23話 『殺意と楽しみ』
美月:絶対に……殺すっ……
蒼乃:あははは!いいね……その勢いで来いよ!俺が殺してやるよぉ!!
美月の剥き出しとなった殺意に対し、幾度もの死を乗り越え、菅原光輝に勝利した蒼乃は応える。
そこからの戦いは、まさしくに異次元だった。
蒼乃:まずはお手並み拝見……だっ…あぁ……?
怒りに飲まれた美月の実力を測るため、「一度なら命を投げ打ってでも構わない」と踏ん切りをつけ、捨て身覚悟で蒼乃薔薇は剣を構えた。
しかし、彼の視界に映っていた山下美月は、一瞬のうちにして消えた。
そして一瞬の瞬きを終えた後、彼の目に映ったのは、自身の頭部のない胴体だった。
蒼乃:は、は……?
――首を…落とされた……?
美月の使用した《平行》を使用した平行移動により、蒼乃薔薇の首は鮮やかに一刀両断されていたのだった。
蒼乃:これが……平行……
刎ねられたはずの頭部は、酸素が尽きる前に、微かな声で美月の力量を測る。
勝敗は決した。しかし、彼には"例の能力"がある。
刎ねられた頭部から繊維が伸び、離れた切断面とつながった細胞が治癒を開始した。
――さぁ……第二…ラウンド……
そう立て直そうとした時だった。
美月:舐めんな……雑魚が……
耳が聞こえた。つまり未だ耳は健在である。体のあちこちから激痛が走る暗闇の中、彼は気がついた。
――っ?!暗闇?
――なぜ?!今の俺は目が見えない?それに…痛い…ううっ…い、痛い……痛ぇ!な、なんなんだよ!これは!
蒼乃:な…なに…が…
自身の天能により徐々に修復されていく体から掠れた声が響いた。
違和感。首を刎ねられたはずの蒼乃薔薇が抱いたのはそれだった。
*
《否定》
自身の所有している一つの"物"の変化を"否定"する。
それが蒼乃薔薇と名付けられた人間が、天に選ばれ、生まれながらにして持った天能の名前と詳細だった。
戦闘において、この能力は何も"強み"を生まず、ただただ"訳の分からない"能力と称され、廃れた。
"物の不変性"なと、戦いにおいて意味は無い。
当時、彼の生まれた国は、戦時中だった。
生まれてきた子供達は十二歳になると皆戦争へ。そして戦争に駆り出されるために天能を。そして授かった天能が強ければ強いほど、彼らは求められた。
だが、彼は違った。
当時の彼は、自身の持つ一太刀の刀に《否定》の能力を組み込み、腐敗、錆、もしくは壊れる事を"否定"し"死ぬことのない刀"として活用した。
しかし、彼自身には何も強みはなく、ただただ、持つ武器が優れているだけの雑兵として扱われた。
雑兵は、初陣にて死んだ。
そして、彼は今際の際に、全てを悟った。
蒼乃:俺は……物なんだ…
蒼乃:国の…道具なんだ……俺なんて……
悟り、諦め、全てが無に帰ろうとした時、覚醒した。
その時――、彼は自身の死を"否定"した。
*
蒼乃:ああっ!うぐっ、がはっ、はぁはぁ…がばぁっ…!
何も見えない暗闇の中、蒼乃薔薇の体は、一つ一つ機能を失っていく。
目を突かれ、耳を切り落とされ、喉を潰され、腕や足を切断され、腹に刀を押し込まれ。
常人では目で追えぬ速さで、山下美月は蒼乃薔薇の体を切り刻み続ける。
美月:あんたがっ!あんたがっ!!
美月:団長を殺したんだ!はぁはぁ…なんで団長が殺されなきゃならないっ!!
抑えきれない不満を刀に乗せ、ひたすらに斬る。
美月:あの人が死ぬと!困るんだよ!!
美月:咲月が!〇〇が!団のみんなが!私がっ!!
美月:ふざけんなよっ!!
怒りと殺意を込めた一太刀は、人間の形を保てなくなった蒼乃薔薇の体を、無惨に刻み続ける。
そして、その末に、蒼乃薔薇は人としての形を保てなくなった"人の破片"へとなった。
美月:はぁ……はぁ……はぁ……
息を整えながら、散らかった肉片を眺めた。
美月:これでお前は……もう……死んだ……
美月:じゃあな、クソ野郎……
その言葉を言い残し、美月は蒼乃薔薇から背を向けた。
蒼乃:ま、待て……
しかし、美月には聞こえない。
神経も通っていないはずの蒼乃薔薇の孤立した左腕は、背を向けた美月へと手を伸ばす。
しかし、息絶えたように、動く事をやめた。
*
月下:君は"遺骸器"というものを知ってるかい?
杖を天高く掲げ、悍ましい雰囲気を放つ大樹を呼び出した月下は、攻撃を仕掛ける様子はなく、持った杖を見せびらかすように問いかけを行った。
〇〇:知らねぇよ
月下:だろうね。だってこれは僕が作ったオリジナルの物だからね
笑みを浮かべながら雄弁に語る月下の姿に、〇〇は怒りを隠しきれずにいた。
〇〇:あ?何笑ってんだよ
月下:いや、すまない…
月下:この語り口調で解説に入ると、どうしてもあの日の事を思い出してしまうんだよ
月下:君達が尊敬していた、山下美月の父、"山下総隊長を殺した"日の事をね…
〇〇:っ!てめっ…
ファジル:まぁ、待ちなよ……まだ満が話しているだろ?
怒りのままに剣を握り、目の前の男に斬りかかろうとした時、〇〇の首元には大きな鎌の刃が姿を現した。
月下:ありがとう、ファジルさん…
月下:それで"遺骸器"の話だったね
月下:遺骸器、これは僕の中で大発明だと思うんだ
月下:これの作成方法はいとも簡単、僕が作ったこの短剣を死した人間の胸部に刺す、そして唱える
月下:するとこの短剣内に、刺された人間の"情報"つまりは"天能"そのものが記録される
月下:つまりこの短剣は、殺した人間の天能を奪うことの出来る優れ物なんだ…
月下が説明を終えたその時、彼は自身が着用した衣服の中から、大量の"短剣"を取り出した
月下:そして僕の狙いは最初からコイツだったんだ
先程までの敬語を使い、下手に出ていたような態度はまるでなく、亡骸と成り果てた国王の体を蹴り付けた。
月下: 初めて聖天認定をされた天能――《黒棺》
月下:この天能を見るの初めてじゃないだろ?〇〇くん
《黒棺》
月下:この能力は強力だが、僕自身はあまりこの天能には唆られなかったんだ
月下:自身が殺した者を永遠の棺の中で生かし、脳と記憶を書き換え、手駒とする
月下:能力自体は魅力的だが、僕がいまいち惹かれなかったのは条件がネックな事なんだ
月下:この天能は、相手を"殺した時の状態のまま棺の中に保管"するんだ
月下:つまり、その"死者"を使用するには、五体満足なまま相手を殺さなければならない
月下:例えば、僕が今君を殺す事に成功をしたとしよう
月下:しかし、君を殺すためには、きっと物理的な意味としても骨が折れるだろう
月下:君を五体満足な状態で君を殺す、そんな芸当が僕に出来るとは思わない
月下:僕の天能とも相性が悪いしね
月下:でも、僕は気づいたんだ!
月下:このクソ国王を殺し、天能を奪う、そしてこの短剣達を黒棺を用い、保管した時、彼らは完全となる
月下:短剣は彼らの"情報"を得る、つまり黒棺内で"遺骸器"と成り果てた人間達の情報を完結させれば、俺の手駒は無限へと成り変わる!
あまりにも、大きく語られたその理想に〇〇は自身の感情を言葉にできず、固まった。
――何を……言っているんだ……?
戸惑いが走る。彼がその理想を得た時、この世界はどうなってしまうのだろうか。死んだ人で溢れ、彼が新たな王となり、世界は終わる。
――止めなくちゃ。あいつが理想を体現する前に。でも既にあいつは《黒棺》を手にした。
つまり、全てがもう、手遅れだった。
自身に今、何が出来るか。どうすれば彼を止め、この世界を救えるのだろうか。
それは――、
〇〇:いや、まだ間に合う…
――彼を今すぐに殺す事だった。
〇〇:殺すっ!
月下:ははは!!やっぱりお前は最高だよ!岩本〇〇!
目前に立ちはだかる男を殺すため、迷う事をやめ、剣に力を込め、構えを取る。
そんな一人の救世主、いや、彼にとってはこの戦い最大の敵である岩本〇〇を見つめ、笑う。
月下:いいよ!いいっ!お前はやっぱり最高なんだ!俺はお前と出会うためにここに来たんだっ!
上着の内側から取り出した三本の短剣を、"黒棺"と呼ばれた大樹目掛けて投げ入れる。
すると、歪な形をした大樹は、さらに不吉な雰囲気と殺気を放ち、異形な形をした"人間"を生み出す。
月下:さぁ!ここからが本番だ!岩本〇〇っ!
*
山下美月の手により、残骸となった蒼乃薔薇は、しつこくも少しずつ肉片と繊維をつなぎ、時間をかけ、元の形を形成していく。
蒼乃:ゆ、油断……したな…や、やま……した…み、づき…
未だに完全修復とはいかない蒼乃薔薇の肉体は、上半身だけしか形を保てず下半身の形成に時間を要する。
蒼乃:早く……続きを……
蒼乃:戦いを……俺にっ!!
心の中で強く望み、自信の肉体、もしくは生命の死を強く"否定"した時、彼の力はまた真価を発揮する。
蒼乃:あっ、ぐっ、あがが…はぁ……はぁ…
全身に絶え間ない激痛が走る。
しかし着実に彼の身体は元の状態へと修復され、数秒が経つうちに元通りとなるだろう。
*
岩本家屋敷、門前。当初ここの門兵を任されていた美月は、ようやく持ち場に戻ってきていた。
美月:お、おっとと…
普段つまづくはずのない少しの段差に、先程の死闘の疲れからか、足を引っ掛けよろめいた。
天能騎士団内最強と謳われた少女は、今日初めて、目の前で大切な人を失った。
守れたはずの命。
普段から冷めた態度を取っていた山下美月は、ようやく自分が泣いている事に気がついた。
美月:あれ……私……泣いてる……
潤った瞳からこぼれ落ちた涙に触れ、彼女はその場に崩れるようにへたり込んだ。
美月:守れなかった……私のせいで……団長は……死んだ…
美月:私が弱かったから、私が団長を一人にしたから、私が……
矛先を向けられないほどの邪悪な怒りが、遂に自分自身に差し向けられた時、絶望の底で、また一つの絶望がそこにはあった。
蒼乃:お前はちゃんと強かったぜ?山下美月さん
美月:っ?!
不意に聞こえてきた声に視線を向け、姿形を確認し、剣を抜こうとした時だった。
蒼乃:今度こそは俺の勝ちだな…
そう囁かれた次の瞬間、蒼乃薔薇はなぜか山下美月の背後にいた。
美月:その技…どうして……ガハッ……
目で追えない蒼乃薔薇の見覚えを感じたその時、美月の口内からは、大量の血が溢れ出た。
蒼乃:やっぱり見覚えあるか…
蒼乃:この"遺骸器"の名前、たしか山下なんとかって奴がモデルらしい。月下の奴なんて言ってたっけな?
蒼乃:あぁ、思い出した
蒼乃:山下茂正、元天能騎士団総隊長、百年ぶりの聖天認定天能の保持者……だったっけかな
そう言い残すと、美月の腹部を貫いた"遺骸器"と呼ばれた刀は、付着した血を吸い上げ、青く輝き、鞘の中へと収納された。
美月:あれは……やっぱり……父…さん……だ……
そして山下美月は、糸の切れた人形のように、大量の血を流し、その場に倒れ込んだ。
蒼乃:はい、騎士団最強討ち取ったり…っ……
軽い口調で煽るようにそう呟いた後、蒼乃薔薇に、また新たな刺客が襲いかかる。
楓:はい、クソ侵入者の右腕…
珠美:抉り取ったり〜
蒼乃:はははっ…ほんっとお前ら、血の気の多い女どもがぁよぉ!楽しませてくれるなぁ!!
…to be continued
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