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全裸の王子様 #03

3話 『相対する盗っ人達』

〇〇:見せてやんよ…俺の天能…《立替》をよぉ!

長男:た…《立替》…?

得体の知れない全裸少年の、明かされた天能にフロックは反応を示す。

しかし、〇〇の行動は天能を使用する者では、ありえないほどの愚行を行う。

自身の天能の"テーマ"を明かす事。それは天能使用者同士の戦闘中において"圧倒的不利"もしくは"敗北への一手"と呼ばれるほどの物だった。

しかし、少年はそんな事を一切気にする様子なく、ただ自信ありげに、自分の天能を晒した。

〇〇:"我が所有物を穢せし者達に代価を…"

少年の詠唱が終わると、少年の目は紅く灯る。

――い、一体…何が…

少年の打ち明ける、《立替》と呼ばれる天能と赤く光る目に、フロックは思考を巡らせる。

しかし、その後、フロックの予想を裏切るかのように、何も起こらなかった。

長男:あ…?んだよっ…べ、別に…なんとも…

〇〇:ほう、つまり《回転》の天能は自分自身に"回転"をかけるだけじゃなく、自分が触れたものに"回転"という行動を与えるって事か…

自分自身の体に異変のない事に安堵するフロックの言葉を遮り、〇〇が行ったのはフロックの天能の詳細を暴露する事だった。

〇〇:つまりお前は俺に触れて天能を発動するだけで勝ちだったんだ

〇〇:俺に触れ、一部に《回転》を発動してれば俺は自動的に捻れて死んでたはずなのにな…

〇〇:でもそれをせずにインファイトに持ち込んだのは…俺をボコボコにして見せ物にするためなんだな

長男:あ?んだよっ!んなもん今更分かったところで変わんねぇんだよ!!

図星だったのか、フロックは〇〇の長ったらしい話をまともに聞かず、間合いを詰める。

〇〇:脳みそにも回転をかけれたら…多少はマシだったんだろうがな…

長男:く、クソガキがっ!お前だけは絶対殺す!!もう油断はしねぇ!慢心もだ!!

そう叫ぶと、フロックは拳を握る事をやめ、確実に〇〇を捻り殺すため、掌を広げ、詰め寄る。

触れられたら終わる。

その敗北条件を理解しながらも、〇〇は、理解し難い行動を行う。

それは、"静止"だった。

――あぁ?こいつ…どうして動かない?まさか…何か手が…

ほんの一瞬、戦いの最中、相手の不可解な行動にフロックは様々な視野を広げる。

しかし、このまま触れてさえしまえば自分の必勝と言う、未来への形を彼は見据えていた。

――いや!このまま、首か腹部に触れ、左と右に分け回転をかけることが出来れば…捻り殺せるっ!

そして、その勢いのまま、フロックは飛びかかり予定通り、首と腹部に掴みかかる。

――取った!

首と腹部を掴むことに成功したフロックは、この瞬間自分の勝利を確信する。

長男:じゃあな!クソガキ!

言葉と共にフロックは普段通り、詠唱を丸々飛ばし天能を発動する。

長男:お前の負けだよ!雑魚野郎が!!

勝ちを確信したからかフロックは、最大限の蔑みと嫌味を込め、罵る。

そして、彼が話し終える手前、その場には、肉と骨が抉れる音が響く。

それは一瞬の事だった。

甲高い悲鳴と共に、大量の血飛沫が舞う。

《回転》の天能を食らった者の両腕は、見るに耐えない形をしていた。

水を切るために絞られた雑巾のような、もしくは飲み干され、最大限、小さいサイズにするよう捻じられたペットボトルのようだった。

"天能"と言う、人間の限界を超越した力の前では、こんな事態、容易い事だった。

しかし、一つの点においては、違和感があった。

それは……。

長男:うぁぁぁ!!あぁぁ!あぁぁ…あぎゃぁぁ!

両腕から、大量の血を流し、断末魔を挙げていたのは、《回転》の使用者であるはずの"フロック"だった。

次男:やっぱり、そうか…お前は"盗める"んだ!!

そう確信して、トーハは尊敬する兄を打ち負かした男を見上げる。

次男:何かしらの条件を達した相手の"天能"を奪い、自身のものに出来る…それがお前の天能…

〇〇:ご名答〜よくわかったね、次男坊

かなり上から目線でそう言うと、トーハは、悔しそうに歯を食いしばりながら少年を睨みつける。

次男:お前の目的は…なんなんだよ!!いきなり俺たちに絡んできて!俺らが何をしたってんだよ!!

次男:確かに俺たちがしてた事は決して褒められたものなんかではなかった!

次男:それでも!!俺達は…俺たち家族は、、お前に危害を加えてないじゃないか…

〇〇:それは違うよ…

息を切らしながら必死に〇〇を悪だと決めつけようとするトーハの言葉を遮り、〇〇はフロックの身につけたネックレスを持ち上げた。

〇〇:これは、八年前…治ることのない難病に侵されていた母様が、死の間際俺にくれた形見のネックレス…

そう呟いた後、彼はトップの元に歩き出し、かろうじて残った右腕を持ち上げ、指にはめていた指輪を取り上げた。

〇〇:この指輪は、お父上様が誕生日祝いと言って俺にくれたもの…

〇〇:こっちはあやめが…

〇〇:これは…蓮加が……

〇〇は、次々とトーハ達、三兄弟が身につけていた装飾品や衣服を眺めた後、それらの物に染み付いてる思い出を語る。

次男:まさか…お前……あの時の……

トーハは思い出したかのように〇〇を指差し、彼にした事を記憶から甦らせる。

次男:道端で寝てた金持ち野郎か!!だからさっき、盗んだ物を返してもらうって…

〇〇:そうだよ、俺はお前らから服や装飾品を返しにもらいに来たんだよ

自分の行いが正義であると証明した〇〇は、堂々と胸を張り、自信に満ちた顔でそう言った。

次男:くっ…くっそ……くそ!!

トーハはいきなり怒号をあげ始めたかと思えば、悔しさからか膝から崩れ落ちた。

次男:どうしてっ…こんなことに…あぁ、もうっ!!

怒ると拳を握りしめるのは、彼ら兄弟の共通の癖なのか。次男坊も「くそっ!」と呟きながら何度も固く握られた拳で地面に鉄槌を下す。

一変した状況への悔しさからか、トーハは何も言わず、ただただ、その場にへたり込む。

先に声を発したのは〇〇だった。

〇〇:今更後悔したってもう遅いんだよ

先ほどまでのおちゃらけた顔とは違い、真剣な表情でトーハを見下ろし、そう告げる。

〇〇:お前らがした事は絶対に許さない、俺も…あの子も……絶対に……

噛み締めるようにそう言うと、〇〇はトーハから盗み取った天能を発動し、呼吸を荒くしながら血を流す彼らに手を差し出す。

〇〇:勘違いすんな、優しさからなんかじゃない…お前らには"戒めを"残す

次男:戒め…?

〇〇:《治癒》よ…癒せ…

そう言うと〇〇は、フロックの何重にも捻られた両腕を治癒し、トップの左腕を再生させる。

消えかけ寸前だった呼吸は、リズム良く空気を吸い始め、次第に彼らは目を覚ます。

完治された後の代名詞「あれ、ここは?」と彼らが言い切る前に、〇〇は新たな天能を使う。

〇〇:"我が思い浮かべた悪夢の世界よ、かの者達に与えたまえ"

三兄弟:あぁ…う、うわぁぁ!!ごめんなさいっ!ごめんなさい!!す、すみませんでしたぁぁ!!

と、突然三兄弟は逃げ腰になり、その場からそそくさと退散したのだった。

〇〇:消し飛んだ左腕さえも生えさせるか…"掌をかざす"…この条件の代わりに"死"以外は治癒ができるのか…

〇〇:それに《悪夢》…割と使えるな……寝起きの奴にしか使えないのが難点だけどな…

能力の使用後、彼は新たに盗み取った天能の情報を自分の脳みそに補完した。

〇〇:群衆の皆様…大変ご迷惑をおかけしました…

〇〇:この通り、バカ王子達の粛清はこの通り私目が済ませましたので、どうか皆様も、"自分の罪にお気づきでしたら"、この場は穏便に…

先ほどのフロックのような演説を始める。

群衆にとってこの場は、"ストリップ"と言う名目で集まられたはずが、主催者と乱入者のストリートファイトに代わり、文句のある者も少なからずいた。

しかし、先程の〇〇の釘を刺すような演説に、彼らは何も言い返すことが出来ず、渋々その場を離れることしかできなかった。

〇〇:さぁ、これで全部終わり…

登場時とは違い、服を着た少年は、急いで逃げた三兄弟と各自解散した群衆達を見送り、そう呟いた。

〇〇:最後は、君だね…

そう言い、〇〇はうずくまる祐希に、一度〇〇の手元から離れ、少しの間トップが着用していたコートを手渡す。

祐希:ありがとう…ございます……

少し遠慮気味の表情を見せた祐希だったが、自分自身の現在の状況に気づき、受け取るしかないのだと理解した。

祐希:あのっ…

〇〇:ん?

祐希:助けていただき!本当に…本当に!ありがとうございました!

コートを羽織ると、祐希は立ち上がり、勢いよく頭を下げ、礼を言う。

祐希:貴方のおかげで、私は…まだ、生きていけそうです…

祐希:あの時、というより、私は…以前から、本気で自死する事を覚悟してました…

祐希:でも、貴方に助けてもらったこの命は…絶対に無駄にはしません…

祐希:本当に…ありがとうございました…

そして祐希は改めて、お礼を重ねる。

そんな下手に出る祐希に対し、〇〇はお礼をせびる事なく、謙虚な姿勢で「当然だから、気にしないで」と言った後、祐希の頭を撫でた。

――やっぱり…この人は…私の…

〇〇:えっと、確か…ユーキちゃん?だっけ?君はこの後…どうするの?

その勢いで去ってしまうのかと思えば、少年はその場に居座り、引き続き祐希に話しかけていた。

祐希:え、えっと…この後、とは?

〇〇:あまり言いたくはないけど、君は、あの三兄弟の奴隷…だったんだろ?

〇〇:どれだけ不当な扱いを受けていようが、君には住む場所があった…

〇〇:でも、俺のせいで君は、これから住む所も、食べる方も、今より難しいと思う…

〇〇:だから…

〇〇:もしよかったら…ウチに来ない?

祐希:えっ?!

思いもよらない一言に祐希は、声を漏らす。

〇〇:最近、ウチの召使いが1人、傭兵に駆り出されちゃって…俺、家事できないから…無茶苦茶で…

――確かに、この人家事苦手そう…

と、偏見まみれの意見を祐希は口にする事なく、心の中で呟き、話を聞く。

〇〇:だから、もし君が良いなら、ウチに来て欲しい

まるでプロポーズでもされたのか、祐希は〇〇の提案を聞くと、みるみる涙を流し、心は嬉しいと言う気持ちで満たされていく。

〇〇:えっ?ちょ、どうして泣……

祐希:嬉しい…私…本当に…嬉しい…

その言葉で、目の前の少女の涙の原因が"嬉し涙"であるのだと、〇〇は理解した。

祐希:私は、人に頼られた事なんか一度もなかった…

祐希:だから、私なんかでよかったら…ぜひ…

涙で溢れた笑顔で祐希は再度、頭を下げた。

〇〇:ふふ、じゃあ、よろしくね…祐希…

祐希:……はいっ!よろしく…お願いします!

改めてお互いがそう言い合うと、2人は互いの手を堅く握り、握手した。



"祐希…ごめんね……"

そう言うと、髪の長い女性は、おそらくまだ幼かったであろう、祐希の背中を押す。

祐希:えっ?お母…さん…?

子供の体格など、大人の力を持ってすれば、それなりの距離まで突き飛ばすことなど余裕である。

当時の祐希の年齢は十歳くらいだろうか、幼い祐希は、軽々しく、前のめりに宙を浮いた。

"最後まで一緒にいてあげられなくて、ごめん"

"貴方の成長を見てあげられなくてごめん"

"貴方を、こんな世界で産んでしまってごめん"

"貴方に、全てを背負わせてごめん"

母と思われる女性がそう言葉を残すと、鎌を持った人間は、勢いよく女性の身体を獲物で貫く。

祐希:母さん!!お母さん!!やだよっ!やだよ!

幼児とはいえ、母との別れに感づいたのか、倒れた母親に手を伸ばし、触れようとする。

しかし、彼女の体は、天能によるワームホールの吸収力と母親が突き飛ばした推進力のせいで、その場から遠ざけられる。

祐希:嫌だ!まだ!一緒にいたいっ!

涙を流しながら、言う我儘に、いつも怒っていたはずの母は、最後だからなのか、祐希の我儘に怒る事なく笑った。

"そうよ、たくさんわがままを言いなさい"

"きっといつか、貴方の前にも現れるから…"

"貴方だけの、王子様が…"

"だから生きてね、祐希"

"愛してる"



やっぱりあの時、お母さんが言ってた通りだね。

お母さん、私、やっと会えたよ。

急に目の前に現れて、少し変で、怖くて…でもすっごく強くて、優しくて、頼りになる。

そして、なぜか全裸で。

そんな王子様に。

そんな、私の"全裸の王子様"に。

…to be continued

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