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全裸の王子様 #8.5


8.5話 『それぞれの持つ力』

祐希:皆さん…本当に大丈夫でしょうか…

蓮加とあやめにより保護された祐希は、戦場に出向いた四人の身を案じながらバルコニーからその勇姿を眺めていた。

あやめ:祐希ちゃん…

蓮加:大丈夫だよ、あの四人は簡単に死んだりなんかしない…絶対に…

まるで蓮加自身にも不安な気持ちがあるのか、自分に言い聞かせるよう噛み締めながらそう言った。

蓮加:あっ、そういえば、私まだ祐希さんに挨拶してなかったよね?

祐希:そういえば、昨夜からお世話になっております、与田祐希です!現在は十七歳で、役に立たないですが召使いとして、お世話になります

祐希:よろしくお願いします

相変わらず祐希は、丁寧で気持ちの籠った挨拶を披露する。

蓮加:へぇ、じゃあ同い年だね!じゃあ私の事は蓮加って呼んでね?よろしく!祐希!

祐希:えっ、いえいえ!そんなことは…

蓮加:私の名前は岩本蓮加、歳は祐希と同じく十七歳で、〇兄とあやめの妹!自己紹介はこんなものかな…

と、お馴染みの祐希の「ご主人様に対して…」を気にかける事なく、自己紹介を強行し、距離を詰める。

祐希:あ、あのっ、蓮加様…

「流石に言わねば」と、雇われる側としての意見を繰り出そうとした時、祐希の口は蓮加の人差し指によって阻止された。

蓮加:いい?これはご主人様命令よ?私の事は蓮加、そして敬語もダメ?OK?

祐希:しかし…

蓮加:へぇ、ご主人様の言う事が聞けないんだ〜

祐希:そ、そこまでおっしゃるなら…ですが本当によろしいのですか?私のような元奴隷が…

蓮加:関係ない、貴方が元奴隷であろうが、今は私の家族、妹なんだから文句は言わせない

蓮加:祐希の文句を言う奴がたとえ、祐希自身でも許さない

蓮加:いい?!わかった?!

良く言えば礼儀正しい、悪く言えば少ししつこい祐希に、蓮加は強く言う。

祐希:う、うん、わかった…よ、よろしく…れ、蓮加…

蓮加:ふふふっ、よろしい!

お互いに笑いあった後、妹は、新たにできたお姉ちゃんに頭を撫でられていた。



祐希:そう言えば、〇〇様の天能…あれって一体どんな能力なのですか?

戦場を見渡しながら、祐希は尋ねる。

あやめ:う〜ん、どう言ったらいいんだろな…

突然の祐希の質問に、なかなか説明する文節がまとまらず、顎に手を置き思考を繰り返す。

あやめ:分かりやすく言えば、"自分自身がされた事を相手自身にされた事と等しい量を返す"かな?

祐希:等しい…量…?

蓮加:やっぱりそうなるよね

上手く説明が出来ないことに悔しがりながらも、蓮加とあやめは楽しそうに説明を続ける。

あやめ:じゃあ、まずはさっきの〇兄が話してた事を思い出してみよう

あやめ:たしか〇兄と祐希ちゃんは昨日、不良と町で喧嘩したって言ってたよね?

祐希:はい、〇〇様に、私を助けて頂きました…

「あぁ、またこの子は〇兄にお礼を言うつもりなのだろうな」と悟ったあやめは、話を元に戻す。

あやめ:その時、〇兄はきっとその相手のうちの何人かの天能を使用しなかった?

祐希:はい、確かに〇〇様は、彼らの天能を使用してました

鮮明に、昨日見た光景を語る。

あやめ:だよね?!そして、その前におそらく〇兄は彼らに何か取られてたよね?

祐希:あっ!衣服を…

祐希:服とネックレスと…指輪…ですか?

あやめ:そう!〇兄は彼らに眠っている間に"身につけていた物"を盗まれた

あやめ:だから〇兄も彼らが"身につけている物"つまり彼らの持つ天能を"立て替え"たんだ

あやめ:取られたから、取り返す

あやめ:つまりは"取られた"から相手の物を"取る"事で、立て替えは成立するの

祐希:なるほど……

今の説明は頭をかなり要したのか?祐希の頭部からは、オーバーヒートでも起こしたのか湯気が出ていながらも、納得していた。

あやめ:本当に?ちゃんと納得してんの?それ?

祐希の様子からは、一切納得したようには見えなかった。

祐希:な、なんとか…でも、一つだけ、気になる点があるんです

蓮加:気になる点…?

祐希:その"等しい量"って言うのがいまいちピンと来ないと言うか…

祐希:天能自体は十分理解出来ました。〇〇様が所有する物を"盗まれた"場合、彼らの持つ、同価値のものを"盗み出せる"

祐希:かなり理にかなった能力です…

祐希:しかし…

祐希:装飾品を奪われた、だから天能を奪える

祐希:つまり、装飾品=天能…この二つをイコールで結びつけるにはあまりにも価値の度合いが…

祐希:あっ、ごめんなさい!決して〇〇様の身につけていたものに価値がないと言うことでは…!

一人考察に熱を入れた祐希だったが、自分の失言に気づき、早急に謝罪をした。

蓮加:ふふふ、大丈夫

あやめ:〇兄もきっと気にしないよ、

焦る祐希を見ていると、どこからか母性が湧き手くるのか、蓮加は祐希の頭を何度も撫でては、優しい言葉をかけていた。

蓮加:よく気付いたね、それはね

蓮加:天能使用者の"解釈"によって話は変わるんだ

口を開きながら、継続して祐希の頭を撫で続ける。

蓮加:むしろ、〇兄の中でさっきのイコールで結ぶ式は、間違えだった

蓮加:おそらく〇兄の中では、"装飾品>天能"この理論が正しいと思うんだ

当然、〇〇の着用している衣服は、本当にただの衣服だった。

しかし、家族思いの彼が妹や家族達から貰ったコートを、大事な物だと思わないはずがない。

尊敬する母を早くに亡くした彼が、母親から受け継いだ形見のネックレスに愛情がないわけがない。

無論、憧れの父からもらった指輪しかり、彼は持つ物全てを、愛着を持って身につけていた。

だが、それだけでは成立しない。

それほど"天能"と呼ばれる物は貴重で、生まれた時にしか手に入らない代物だ。

しかし、そんな代物と装飾品が"同等の価値"となった。それには一つの要因があった。

あやめ:相手の価値観だよ

彼ら三兄弟は、一国の王子。つまり王族、彼らは生まれた時点で"天能"を待っていて当然なのだ。

王族にとって重要なのは、天能を"持つ"か"持たない"かではなく、"どのような天能"で生まれてくるか、だった。

あやめ:だからこそ、自分の天能に対して、彼らは疎かになりがちなんだ

あやめ:〇兄は、それを利用したんだよ

〇〇の天能を説明し終えたあやめは、どこか自慢げだった。

祐希:流石〇〇様……やはりすごいです…



蓮加:美月の姿、よ〜く見ててね?

蓮加はバルコニーの柵から少し身を乗り出し、敵を屠る美月を見つけ出し、指さした。

祐希:うん……

蓮加の指示通り、祐希は美月の姿を丁寧に目で追いかける。

一人の兵士の豪快な剣戟を巧妙にいなす。

兵士は痺れを切らしたのか、手に持った剣を両手で持ち上げ、美月に縦切りを一閃。

しかし、美月も刀で受け止める。

勢いのある二人の剣戟は、その場で停滞する。

そんな隙を伺ったのか、槍を持った兵士は、剣士と対峙する美月の背中目掛け、槍を突き出す。

――あっ、やばい、刺さる…

直感的に祐希はそう悟った。

美月が槍兵に気がつくには、あまりに遅すぎた。後数秒すれば、彼女の腹部には致命傷が入る。

「マズイ、逃げて!」と言いかけたその時だった。

祐希:あれ?美月さんが…消えた…?

そう、消えたのだ。槍と剣の間に挟まれ、殺されかけた瞬間、美月はその場から姿を消した。

祐希:えっ?うそ!どうして?!どうして…

状況を飲み込めず、戦場の中に視点を移し、美月の姿を探す最中、兵士の断末魔が響く。

祐希:え?

蓮加:祐希、あれ見て

困惑する祐希に答え合わせの手を差し伸べたのは蓮加だった。

祐希:あれは、美月さん?

蓮加の指が刺した場所に視点を当てると、そこには新たに敵を屠る美月の姿があった。

蓮加:美月の天能は《平行》、"自分を含むあらゆる物に平行の運動を与えられる"

蓮加:これが美月の天能だよ

祐希:平行の運動…

蓮加:つまり、さっきの美月の瞬間移動の正体は、ただその場から平行移動しただけ

蓮加:強めの平行移動を自分に与える事で、美月は瞬間移動したように見せたってわけ

祐希:なるほど、やっぱり美月様もすごい…

天能を所持していないからなのか、祐希は天能を駆使して闘う者の姿に、興味があるらしい。

奮闘する美月から、なかなか目が離せずにいる。

祐希:ちなみに史緒里様のあのナイフを分身させる天能は一体なんなのですか?!

蓮加:史緒里の天能は《用意》、"数的不利に対して平等を用いるため望んだものを適当数用意される"

蓮加:簡単に言えば、敵と対峙した時、相手の数の分だけ、武器が分身するって事

祐希:つまり、三対一の構図になった時、史緒里様は天能を使用なされば、三本のナイフが用意されるって事?

蓮加:そう!ふふふ、賢いじゃん祐希!

流石は〇〇の妹、やけにテンションの高いまま蓮加は、祐希の頭を撫でた。

祐希:も、もう大袈裟だよ…

頬を赤く染めながら、祐希はそう言った。

祐希:じゃあ!次は美波さんの……天能って……

流れ的に美波の天能の詳細に触れようとした、しかしそうするわけにはいかない。祐希は説明を求めるのをやめ、バルコニーから身を乗り出し、戦場に起こったある異変を眺める。

祐希:あれは……

あやめ:どうしたんですか?祐希ちゃん…

祐希:あやめん様!蓮加!美波様達を今すぐ撤退させてください!

蓮加:え?

祐希:あの三人は危険です!早く三人にお伝えください!

祐希:あの三人は…

祐希:私の母……"先代神伐者"を討ち取った者たちです!

…to be continued

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