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全裸の王子様 #21


21話 『誤解の先の決意』


〇〇:そろそろ終わらせよう……咲月
 
仲間、もしくは友達の死により、激怒と復讐心に駆られ剣を抜いた美月と、依然として戦いの中に愉悦を見出す蒼乃薔薇が死闘を始めた頃。

王位継承戦の最中である、中央王族ウィルアムス家の王宮内も、岩本家屋敷同様激化する戦闘も終わりを迎えようとしていた。

"誰かの"天能により、炎の球体を複数個、空気中に浮遊させた岩本〇〇は剣を構えた菅原咲月と対峙していた。

咲月:相変わらず戦いづらいね……

咲月:師匠があの時、〇〇くんとだけは戦いたくない、って言ってた事…納得するよ

〇〇:へぇ、まだそんなに喋る余裕があるんだな

その場にはいない、尊敬する師匠を思い出す咲月に、少し煽るような口調で〇〇は呼応する。

〇〇が言ったように、菅原咲月には余裕があった。

彼女の保有する《吸収》、確かにそれは、"手数"と呼ばれる手段に弱かった。

自身の指先が触れた物、もしくは概念を一つだけ取り込む事の出来る咲月の天能力は、一見チート級の能力のように見える。

しかし、彼女の天能には、大きな穴と弱点が存在した。

それは――、

和:彼女に与えられたのが《吸収》の能力だけである事と対象物の処理速度です

桃子:《吸収》のみと処理速度……?

どう言う事だろう?ときょとんとする桃子に和は微笑みながら解説を始める。

和:この話、漏れると不利になるので桃子さんだけの特別ですからね?

桃子:わかった!秘密にするね!!

和:まず、私が言った"大きな穴"、つまり"彼女が与えられたのが《吸収》だけ"…これについてです

周りの老人達にお叱りを受けぬよう小声で話す。

和:まず、桃子さん

和:"吸収"と言う言葉、これの対義語はなんですか?

解説をしていたはずが、予想外の質問に桃子は戸惑いながらも決して悪くはない頭を使う。

桃子:えぇ、んと……"放出"?とかかな?

和:正解!流石桃子さんです!!

和:そう!吸収を行い、体内に取り込んだ物を体外へ押し出す、それが放出

和:言うところの原理、もしくは循環、これが一般的な人達の解釈です

和:だから私も最初は思いました

和:咲月ちゃんの《吸収》により、体内に吸収された物は体外に放出できる!そんなの強すぎる!って

和:でも、それは違ったんです

和:彼女に与えられたのは、一方的な《吸収》の能力だったんです…

桃子:なるほど、天能は一人一つ、わかりやすく言えば咲月ちゃんは"二対となる物の片側を得た"

頭の根幹で和の言いたい事を理解した桃子は、話の本筋の終着点へと帰着した。

桃子:つまり、咲月ちゃんは、吸収が可能だとしても、放出を出来ない以上…受身になる事しか手が無い……

桃子:防御性能が高くても、攻撃性能は劣るって事か

和:そうです、これが大きな穴、という訳です……

桃子:なるほど、そう言う事だったんだね…

和の本質を捉えた解説に全てを納得した時、桃子はもう一つの議題に触れた。

桃子:じゃあ、さっき言ってた弱点…ってのは?

なぜか和は、説明を終えたような顔で試合の展開をじっと眺めていた。

和:えっ?あ、あぁ!そ、それはですねっ!!

――さては、この子…忘れてたな……

意外に抜け目のある和は、せめて桃子の前だけは堅物真面目キャラを貫こうとするも即座に失敗と終わる。

それを誤魔化すため、早急に解説へと入る。

和:彼女の能力の対象物にアクションを起こす処理速度にインターバルが必要になる事です

桃子:インターバル?

和:例えば……あっ、あれ!あの火の球がありますよね?

和は、空気中に舞った火球を指差した。

桃子:うん

和:あれが今のように少数に分割されず、大きな一つの塊として咲月ちゃんに放り投げられたとします

和:そうなった場合、咲月ちゃんは余裕で吸収する事が可能です

和:それは、対象物を"一回"で取り込む事が可能になるからです

桃子:一回……

和:咲月ちゃんは、吸収を連続で使えないんです

和:あの天能は、一度使うと十五秒ほどのインターバルを必要とします

和:つまり、あの子は連続射撃型の遠距離攻撃や飛び道具にめっぽう弱いんです…

桃子:なるほど、それは確かに弱点だね……

和:えぇ、だから今の状況……ほぼ絶体絶命です……

先ほどから認めたくなかった事実であるからか、和は解説をしてく次第に、焦ったような表情へとみるみる変化していってたのだ。

――咲月ちゃんが負けるのがそんなに嫌なのか…

――なんか可愛いなこの子……

そんな和とは裏腹に、桃子は必死にポーカーフェイスを保とうとする和に母性をくすぐられていた。

和:でもっ!実はこんなもの!大したにことはないのです…

――さっきと言ってる事違うな…かわいぃ…

和:だって咲月ちゃんには"例のアレ"がありますので!

負けず嫌いな和は、解説したり落ち込んだり喜んだりと忙しない情緒の変化を見せていた。

和:彼女の加護である〈仮想領域〉が……

ちょうど和の含みのある発言が繰り出された時、語り合いを終えた〇〇と咲月は、目の前の友との決着に幕を閉じようとしていた。

咲月:はぁああ!!

〇〇:うぉぉおおおぁ!

二人は対峙する者に向かい走りだす。

見えない。もしくは存在しない二人から発された大量のオーラはぶつかり合い。共鳴する。

そして、その時、王宮内に大きな穴が空いた。



史緒里:警護……暇だね〜……

よく晴れた空の下、王宮の外門の警護をしていた史緒里は何も起きない事に退屈をしていた。

美波:暇だからいいんでしょ?何か起きたらどうすんの

同じく、史緒里と同業の任を任されていた美波は、史緒里とは裏腹に警護にあたる人間の志としての正論を振りかざした。

史緒里:そーだけどさー、暇すぎるってのもなぁ〜

美波:まったく…

史緒里の一言に呆れた美波は、ため息をした。

だが、彼女自身も少し退屈していた。

王位継承戦が開始してからおよそ五時間半。王宮内も王宮外でも、事件などは全く起こらず。ただただ、二人で適当な話をして時間を潰しているだけだった。

――確かに、このまま何も無いまま継承戦が終わるまで待機するのもな……

何か史緒里を楽しませれる術がないか、どうにかモチベーションを立て直してくれないか。博識な脳みそを使い様々な思考を立てる。

そんな努力の最中、声を発したのは史緒里だった。

史緒里:美波はさ、本当に〇〇様の事が好きなの?

美波:えっ?

突然の史緒里からの質問に、美波は咄嗟に反応することはできず、少し、動揺した。

史緒里:前々から気になってたんだ

史緒里:騎士団兵の育成機関にいた時の美波、あんた正直私たちの事どうでもよかったでしょ?

美波:うっ、い、いや……そんな事は……

史緒里:図星か。まぁ、そうだろうとは思ってたけどね

美波:……

事実、図星だった。史緒里の見解が正しいからこそ、すぐに言い訳をする事も出来ず、ただ黙った。

未来を想像し、嫌な汗が滲み、額を伝う。けれど、美波が創造した未来は訪れる事はなかった。

史緒里:だから私、めっちゃ嬉しかった!

美波:えっ……

少し呼吸が苦しくなった時、かけられた言葉は、思いもしたものとは違っていた。

史緒里:私は育成機関に行った時、ずっと不安だった

史緒里:だから、みんなに話しかけて、親しくなって、役に立てなかった時、史緒里だから許してあげよう、助けてあげよう

史緒里:そう、思われるために、頑張ってた

史緒里:でも、あなたは違った…

史緒里:恵まれない能力を僻む事なく、あなたは自分自身を鍛え、前だけを見て進んでた

史緒里:そんな美波が、本当に羨ましかった

史緒里:だから今、こうして肩を並べて、私達二人が大切にしてる物を守れてるのが嬉しい……

史緒里:気軽におしゃべり出来てるのが…嬉しいの…

突然の史緒里のカミングアウトに、美波は驚きながらもはにかんだように笑った。

美波:私…やっぱり……ここに来てよかった…

美波:あの頃は、好きとか嫌いとか、何も分からないから、ただひたすらに強くなりたかった

美波:でも、今はみんなと史緒里と出会えた

美波:あなたが思うほど、あの時の私は無愛想な人間でもなかったんだよ?

美波:ちゃんと、あの時から、騎士団兵の第三期生のみんなの事を守るため、私は強くなったんだよ?

史緒里:えへへ……うそつき!後付け!!

美波:そんな事ないよ!本当だよ?

史緒里を楽しませるため、新たな話題を考えていたはずの美波は、新たな事実を知り、笑っていた。

そして、新たな決意をした。

美波:史緒里の言いたかった事、全部分かった

史緒里:んっ?

美波:私、ちゃんと〇〇様に気持ちを伝えようと思う

真剣な眼差しで屋敷を見つめた美波の発言に、史緒里は目を大きく見開いた。

美波:私もちゃんと言わなきゃだよね、史緒里が私に言ってくれたように…私も……

――え?い、いや……べ、別にそんな深い事を…言いたかったわけじゃ…

美波:ありがとうね、史緒里

美波:あなたのおかげで、ようやく決心がついたよ…

史緒里:えっ、あ、う、うん…

――ただ好きかどうか聞いただけなんだけど…まぁ…いっか!

史緒里:うん!頑張ってね!美波!!きっといけるよ!

無駄に焚き付けた張本人は、知らないフリをした。

そんな時、事は起きた。

"――滲み出す不全と化した一端よ、我が瑕疵により、新たな完全へと結合せよ、進化せよ、そして、成れ"

美波:っ?!

史緒里:なんの音っ?!

美波も、史緒里も、ほぼ同時に異変を察知した。

何らかの爆音が響いた先に視線を移す。二人の目に映ったのは、爆破により割れた空。

そして、穴の空いた宮殿。

美波:宮殿の中央広場から?いや、空から…爆発…?

史緒里:なに…あの威力……

そして二人が同時に察知した"異変"は、二人の中で共通とされた"既視感"へと"変化"した。

美波:あの爆発の威力は…あの時の……

史緒里:"命による制限解除"……

美波:あれは、あの時の《爆滅》と一緒だ…



月下:やぁやぁ皆さん、初めまして……

張り詰められた空気は、一瞬にして呆然へと変わる。

月下:私の名前は月下満です…以後、お見知りおきを…

老人4:な、なんじゃ…貴様らは…

突然の爆発に呆然とする彼らをそっちのけに、穴の空いた壁面から姿を現した月下は自己紹介を始めた。

月下:まぁ、みなさん…驚くのも無理はありません

月下:現国王に"何かあった場合"のために次の国王を決めるこの王位継承戦の最中っ!

月下:何者かにより、王宮内の爆発により、試合も中断……

月下:わかります!大変動揺するのも分かります

月下:でも、もう大丈夫です!!この試合も儀式も終わりですから

一人でに語り始めた月下に、誰も何も言えずにいると、月下は自身の行動の"目的"を吐いた。

老人3:い、一体なんじゃ?!貴様っ…

月下:うるせぇな…まぁいいか…

月下:みなさんには……死んでもらいますから

月下:では、みなさん……さようなら……

"新たな不全よ、完全へと"

月下:《瑕疵》

男の発せられた詠唱と共に、その場にいた"不全"と称された"人間達"は、みな血飛沫をあげ、死した。

…to be continued

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