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全裸の王子様 #01

1話 『最悪な登場』


私を助けてくれた人…それは――、



普通、"暴力"なんて、人気のない場所か、その行為自体が許される場所で行う物だ。

しかし、人で溢れ返った街の真ん中で、その愚行は行われていた。

長男:おいっ!俺が受け取る前にさっさと荷物持てやっ!こんの…ノロマがぁっ!

上品とはかけ離れた言葉遣いを使う男は、勢いのまま、前方を歩く荷物待ちの少女の背中を強く蹴っ飛ばした。

??:きゃぁっ!

次に聞こえて来た声は、多少上品とも呼べた。

しかし、普段耳にしないような、何かに突発的に危害を与えられたような、悲鳴のような声だった。

長男:何一丁前に驚いてんだ…このゴミがぁっ!

自分より、下に見える人間を嫌うのか、派手な格好をした男は、蹴り飛ばされ、アスファルトの上に倒れ込んだ少女に、再度暴力を振るう。

??:ごめんなさいっ…ごめんなさい…ごめんなさいっ!!

理不尽に手を挙げられながらも、少女は打撃音により、かき消されそうなか細い声で何度も謝る。

長男:謝るならっ…!最初からっ…!俺をっ…!イラつかせてんじゃねぇ!!

長男:無能のくせによっ!今の時代っ…無能って…どんだけ役立たずなんだよっ!!

祐希:あがっ、ごめん…なざい…

男は少女の謝罪に、聞く耳を持たず、リズムに合わせるように何度も少女を足蹴にする。

街のど真ん中。異様な光景を見ていた二人の人間は、その惨状を止めることなく、笑っていた。

次男:アハハ!さすが兄貴!

三男:あぁ、女相手でも全く容赦ねぇ〜

おそらく彼の弟であろう二人組は、その光景の異様さにも気がつかず、兄に称賛の言葉すら送っていた。

次男:で、でも大丈夫か?ここまで大ごとになるとよ…いよいよ…やべぇんじゃねえの?

そう言いながら、次男は、いつの間にか周りに群がっていた群衆達をグルリと見渡した。

三男:ははっ、何言ってんだよ兄貴、大丈夫だよ

三男:騎士団でも来てみろよ、損をするのはあいつらバカ共だぜ?

少し心配する次男に対して、三男である男は自信に満ちた表情でそう言った。

三男:だって兄貴はあの〈渦の支配者〉だぜ?奴らも下手に手出しなんて、できっこねぇよ

次男:た、たしかに…そ、それも…そうか!!アハハ!!たしかに気にする事ないな!

心配症な彼は再度大きく笑った。それは、心配の種が解決したからだ。

自警団や騎士団、彼らが来ない事に安心したのではない。来ても意味がないと言うことを思い出して彼は安心した。

そして、その安心要素の一つである長男は、少女を足蹴にするのにも飽き始めたのか、血を流し、床に倒れ込んだ少女を見下ろした後、兄弟の元へ歩き出した。

次男:もしかして…兄貴…

長男:すまん!トーハ、頼む!この通り!

先程まで、ゴミを見るような目で少女をタコ殴りにした男は、好青年のような目で、次男の名前を呼び、顔の前で手を合わせた。

次男:も〜、また〜?

次男:治すんなら最初から壊さないでよ、天能だってタダじゃないからね?

長男:悪いって、でも仕方ないだろ?だって…あのグズが悪いんだからよ

次男:まぁ、それもそうか!アハハ!

そう言って、トーハと呼ばれる次男坊は、血を流しながら横たわる少女の元へ歩み寄り、両手を前に差し出した。

そして、唱える。

次男:"怪我となる外的からの要因よ…我が天能により、自然完治と化せ"

次男:「heile die Wunde」

唐突に先程までと異なる言語で何かを言った途端、差し出した彼の手のひらから出た淡い光が目の前の少女を包み込む。

ほどなくすると、先程まで血を流しながら、倒れ込んでいた少女のかぼそかった呼吸は、安定し始めた。

そんな不思議な現象に呼応するかのように、少女の身体中から流れていた血は止まり、何度も蹴られ、腫れ上がっていた彼女の腕は、みるみる元通りとなる。

次男:ふぅ〜…これで…大丈夫…はぁ…はぁ…

大きな息をした後、次男は息切れをしていた。

長男:よくやったトーハ、ありがとな

頼んだ通りの仕事をこなせたからか、不機嫌だった長男は、温厚な兄貴のような声でそう言った後、次男坊の頭を撫で、少女の元へ歩き出す。

長男:おい、ユーキ、立て

祐希:は、はい…

そして少女は、何もなかったかのようにパッと目を開き、返事をして立ち上がった。

長男:どうして今、お前がここまでタコ殴りにされたかわかってるよな?

男は再度ゴミを見るような目で、祐希と呼ばれる少女の髪を持ち、そう問う。

祐希:え、えっと…それは…その……

長男:あぁ?!!ハッキリ喋れや!カス!!

祐希:わっ…私が!…私がご主人様の荷物を迅速に受け取る事なく、職務怠慢を犯したから…です…

ひどく怯える少女が、半ば強引にそう言い終えると、男は先程までとは違う柔らかい表情で「良くできました」と言った。

そして目線を彼女から外し、振り返る。

長男:お買い物中の皆様、この度はとんだご無礼を失礼しました

長男:先程、この者が申した通り、奴隷の身である彼女が職務怠慢を行なったもので、私も心が痛いのですが、少し"躾"を行っておりまして

長男:大変見苦しい物を見せてしまい、本当に申し訳ございませんでした!

突然、男は演技でもするかのように流暢な言葉で群衆に語りかけ始めた。

長男:私、フロック・バーナーは、皆様がご存知の通り、この国の王、バーナー王の子息、つまりは、私が現在第一王子となります

長男:そんな皆様の手本となるべく私が、無様な姿をお見せして、謝罪一つで済む……などとは思ってはおりません

長男:ですので、みなさん…もしよろしかったら…

長男:このまま、楽しんで行ってください…

男の一人喋りが終わったと思えば、男は先程までタコ殴りにした祐希を前に差し出し、彼女の着用していたワンピースに不思議な力で切れ目を入れた。

祐希:き、きゃぁっ!!

胸元と下腹部が露わになる瞬間、少女はその場にしゃがみ込み、露出面を最低限の被害で抑えた。

長男:今、西洋で流行りの…ストリップショーでございまする…

その一言により、群衆達の心に、火がついた。

群衆:いいぞー!脱げ脱げ!!

群衆:お前ら音を合わせろよ!合わせねぇと姉ちゃんも服投げねぇだろ?!ダハハハ!

そんな野次馬の様な男達の声と、息の合った手拍子が、怯える少女に降り注ぐ。

群衆:脱ーげ!脱ーげ!脱ーげ!

群衆達は、煽り続ける。少女は、身動きひとつすら取れず怯え続ける。

三男:兄貴…今日調子いいな…いつも以上にひでぇ奴だよ…

一人の奴隷を扱い、あっという間に群衆達を沸かせた長男の姿を見て、三男はそう言った。

次男もそれに呼応するように「あぁ」と答えた。

次男:まぁ、それもそのはず…なんたって今日はよぉ、俺たちもツイてるからなぁ〜

と、言葉に合わせ不適な笑みを浮かべながら次男は自らのポケットに忍ばせていた何かを取り出した。

その"何か"が日の目を浴びた途端、"何か"は輝いた。

自らが光を発したわけではなく、陽の光そのものを乱反射させた。

それは、一際輝きを見せる宝石だった。

素人の目から見ても一千万はくだらないほどの輝きを見せる宝石付きのネックレスだった。

三男:うわっ、眩し…兄貴ずりぃよ、俺もそのネックレス欲しかったなぁ…

言葉とは裏腹に三男は、悔しそうな表情どころか嬉しそうな表情でポケットから何かを取り出す。

三男:まぁ、これが手に入ったし…かまわねぇか

そう言うと、三男も次男の持つ物に匹敵するほどの輝きを見せる宝石を取り出した。

次男:まさか、あんな所で貴族が寝てるとは…誰も想像出来ないよな

三男:あぁ、それに…あの貴族もバカだよな!金品全てを身につけたまま野宿とは!アハハ!やっぱり金持ちはバカばっかりなんだよ!

次男:まぁ、どうせそんなことする奴だ…盗られたって困りゃしねぇよ!アハハ!

二人は周りにの群衆がいるにも関わらず、高らかな声で自分たちが犯した罪を掘り返す。

しかし、そんな話がくだらないと感じてしまうほど群衆は、一人の男と奴隷に注目していた。

群衆:おい!嬢ちゃん!早くしろよ!!

群衆:なんだ?まさかここまで俺らを焚き付けてやんねぇってのか?!

長男:はぁ…仕方ねぇなぁ…

このままでは、メンツが立たないと危惧したのか、男は祐希の元へと駆け寄った。

長男:おい、ユーキ、ひとつ提案してやるよ

周りの群衆達には聞こえない声で、そう言った。

一つの希望に縋る様に、祐希は光の灯った目で男の方を見つめると、男はニヤリと笑った。

長男:今日から、俺の性奴隷になれよ

長男:お前があそこまで豊満だとは俺もつゆ知らず…お前の使い方を間違えてたなぁ…

長男:だからよぉ、今日から正しい使い方をしてやるから、早く首を縦にふれ、な?

長男:お前が、俺の性奴隷に"なりたい"と言うのなら、俺が、この場を収めてやるよ

長男:ユーキ…さぁ、どうする??

――どうすれば…私は……

ご主人様からの提案に、祐希は頭を悩ませる。

この場で多くの人間からの恥辱を受け、笑い物として生きていく。

さもなくは、それらを回避するため、この世で一番気に入らない人間に、自分自身の全てを捧げる。

そんな最悪な選択に祐希は頭を抱える。

最悪な一人か、恨みのない大勢か…。

――いや、どうせ目をつけられたんだ。それに私は…明日…もう私に希望なんて…

一人の奴隷は、「わかりました、ご主人様」と、目の前の男にそう告げ、自分が着衣していた物を全て脱ごうとした。

全てを悟り、諦めかけた。

あぁ、全部奪われるんだ。ならばいっそ…今日という一日の終わりに、全て終わらせよう。

奴隷である人間の末路。突然の結果だ。奴隷になった時点で決まっていたような終焉。

屈辱、ではない。

ただただ、何故か涙が溢れそうになる。

そんな感情を堪え、気丈に振る舞いながら立ち上がろうとした。

そんな時だった――。

〇〇:あんた…本当に奴隷なんだな…

祐希:えっ…?え…えぇ?!

〇〇:よくもやってくれたな!クソ盗賊団ども!

どこからか聞こえた、威勢のいい声。

長男:あ?なんだよ…てめぇ…って、は、はぁ?!ど、どうして…お前…ぜ……

それに呼応するように、勢い良く怒鳴り返した男の声は、次第に減速していく。

その場にいた全員が、突如として現れた者の存在感に引けを取る。

それもそのはずだ。

現れた男は、まさしく…



――全裸だった。

…to be continued

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