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全裸の王子様 #06


6話 『屋敷案内と緊急報告』

あやめ:じゃあ、早速!屋敷の中を案内するついでに探検するよ!祐希ちゃん!

お互いの自己紹介が終わり、お互いの愛称が決まった途端、あやめは祐希の手をひっぱり、ありえない広さを持つベットから勢いよく飛び出した。

祐希:はい!あやめん様!

――ふふっ、あやめん様…かわいぃ…

あやめん様と祐希ちゃん。普通、主人と召使いという間柄では、このように親しみの籠った愛称など存在しない。

しかし、屋敷内に同年代の人がいないあやめにとって、一つ上の祐希は"友達"と呼べるほど近しい人間だった。

頑なに「無理です!あやめんなんて…失礼な呼び方をするなんて…」と拒否する祐希に、あやめは妥協し、あやめん様と呼ぶ事を主人命令とし、義務付けていた。

そんな出会って数時間、すぐに打ち解け、仲睦まじい二人は探検を開始する。

あ:さぁ!岩本家探検へ!ゴー!

あやめの掛け声と同時に、二人は左右に分かれ、豪快にドアノブを回して扉を開けた。

祐希:え?ここも…何かの…お部屋…ですか?

あやめ:何言ってるの?今部屋を出たばっかりなんだから廊下に決まってるじゃん

部屋の外に出ると、広がっていたのは赤い絨毯が敷かれていた長い廊下だった。左右どちらにも道は続き、途中途中に、扉が存在していた。

そして何よりも衝撃だったのは、天井だった。

祐希とあやめが睡眠を取っていた部屋を出て、すぐに上を見上げると、廊下に取り付けるには明らかにおかしいと言えるほど、高級感漂うシャンデリアが吊るされていた。

祐希:これが…廊下…

今までの祐希の暮らしからは考えられなかった、この豪邸…いや、大豪邸は何もかもが異常と呼べるほど規格外だった。

祐希:すご…すぎる……

あやめ:ふふふっ

一つ一つに驚く祐希のリアクションを見て、あやめは楽しくなってきたのか、次々とこの豪邸の中を案内し始める。

あやめ:ここが大浴場!

あやめ:お兄ちゃん以外のみんなでよくここでお風呂に入ったりしてるよ!

祐希:広っ…このお風呂場、五十人は入るんだろな…

あやめ:そしてそして!ここがリビングになります!

あやめ:みんなでご飯を食べたり、たまにパーティーやお泊まり会をしてます!!

祐希:パーティー…

あやめ:もちろん次のパーティーは、祐希さんの歓迎会だよ!!

祐希:やった!ありがとうございます!

あやめ:そして次は…ぐぬぬぬ、こ、ここ!!

小柄なあやめには、少し重かったのか、扉はスムーズに開くことはなかった。

しかし、努力の末開いた部屋には、あり得ないほどの本が収納されており、まるでそこは…。

祐希:図書館みたい…

そう、まさしくここは、図書館にも負けず劣らずと言えるほどの量の本が並べられていた。

祐希:すごい…

祐希のリアクションは、毎度同じ言葉を使うが、驚きはそれぞれ別のものだった。

あやめ:そしてそして!ここが最後!基本的に大切な話をするときに使われる会議室です!

両手を広げ、最後の部屋のドアに注目させるためか、あやめは手をひらひらと振った。

祐希:おぉー、会議室!

少しずつあやめの対応に慣れてきたのか、祐希は音をたて拍手しながら大きな二つ扉を眺めた。

あやめ:多分、〇兄や他に会ってない人達はここにいると思うから、挨拶を兼ねて凸っちゃおう!

流石に"会議室"に突撃はマズイ。

そう思った祐希は、ご主人様とは言えあやめの行動に異議を唱えた。

祐希:あやめん様!流石に会議室に突撃は…

あやめ:いいのいいの!気にしないで!じゃあ祐希さん!会議室へ!レッツゴー!

まるで他人事のように適当にいなし、あやめは勢いのまま会議室の扉を開けた。

――もう…どうにでもなれ…

そんな玉砕覚悟な気持ちで、あやめの行動力に付き添い、祐希は会議室へと足を踏み入れた。

するとそこには…。

〇〇:おぉ、あやめと祐希だ、おはよう

王子様がいた。

あやめ:おはよう!お兄ちゃん!

祐希:お、おはよう…ございます…〇〇…様…///

祐希は〇〇の姿を見るや否や、真っ赤になった顔を隠すため、頭を下げ、深く深くお辞儀をした。

相変わらず礼儀正しい客人に、その場にいた全員は少し驚いていた。

あやめ:それじゃあみんなに紹介するね

あやめ:先日お兄ちゃんに助けられて、これからはあやめ優先的、召使いとしてウチで働いてくれる与田祐希ちゃんです!自己紹介どうぞ!

何か少しおかしな点もあったが、他己紹介としては上出来だった。

投げやりな感じで、パスが回ってきたからか、祐希は少しオドオドしたが、すぐに顔をあげた。

祐希:えっと、与田祐希です!先程の紹介の通り、私は〇〇様に助けて頂いて、恩を返したくここにやってきた所存です

祐希:天能は、持っておらず…あまり私個人で役に立つことは無いかもしれません…

祐希:ですが、元奴隷とは言え、一般的な事は学べていると思います

祐希:不束者ですが、何でもしますので、ぜひどうか様々なことをご教授お願いします

天能未所持者、元奴隷。

人には隠したい過去と言うものが山ほどある。しかし祐希は、隠す事なく、全てを話した。

それは皆を騙すつもりがないと言う証明だった。

美波:祐希さん、あの子はきっと大丈夫です

美波:あの〇〇様に余計なちょっかいをかけた低級王族のスパイかと思いましたが、あの子はきっと、そんな馬鹿な人間じゃない…

美波:私はそう思うかな…

史緒里:ふぅん、珍しいね…美波が出会ってすぐの人をここまで信頼するのは…

祐希:あ、ありがとうございます!!

祐希の礼儀正しく、何事にも感謝の気持ちを忘れない彼女の姿に、史緒里の母性本能はくすぶられる。

祐希:あの、えっと…史緒里様…?

史緒里は、急に立ち上がり、ふらふらと歩き出し、祐希の前で一時停止した。

祐希:その、何かありましたか?

何か様子が変だ。祐希は、史緒里の奇行に疑問を持ち一旦心配の声をかけた。

史緒里:もう我慢できないっ!

祐希の眼前で顔を上げた史緒里の表情は、どこか力が抜けた様な表情だった。

すると次の瞬間、史緒里は並び合う祐希とあやめの後ろに回りこみ、二人を抱きしめた。

祐希:えっ?!あのっ…史緒里様?!

史緒里:大変だったね、祐希…うん、大丈夫、お姉さんが味方だから…

そう言って、史緒里は祐希とあやめを強く抱きしめ始めた。

あやめ:大丈夫、これ普段通りだから…

共に巻き込まれたあやめは、慣れた様な表情と口調で彼女の気候を説明し始める。

あやめ:史緒里さん、妹さんが居たんだけど、今は別居してるからよく私が標的にされてたの

あやめ:でも、祐希ちゃんを見たら、妹さんと重なったんじゃないかな?

あやめ:だからこれからもこうなる事は覚悟してた方がいいかもね?

などと、あやめはいきなりの忠告をし始めた。

祐希:な、なるほど…

あまり理解はできていないが、なんとなく「そう言う人もいるのだな」と祐希は納得をした。

史緒里:かわいいっ!かわいぃ!二人とも可愛い…

美波:〇〇様だって可愛いわよ!!

そう言って、二人はお互いにくっつくもの同士、どちらが可愛いかで張り合っていた。

美波:〇〇様が一番可愛い!!

史緒里:あやめちゃんと祐希に決まってんでしょ!?

――はぁ、何この時間…



史緒里と美波の奇行と、ひとしきり全員の自己紹介が終わった頃に、〇〇は気がついた。

〇〇:あれ?そう言えば蓮加は?

いつもいるはずのうるさい妹がいなかった。色々な事が突然起こったからか、いつもならすぐ気づくはずの存在をすっかり忘れていた。

美波:そう言えば、今朝〇〇様を探しに行くと言って隣町まで竜車を使ってましたね…

美波も今思い出したのか、今朝の記憶を頼りに蓮加の現状の情報を付け足した。

史緒里:〇〇様なら隣の部屋にいたのにね

美波:私も蓮加が家を出た後に史緒里から〇〇様が昨夜帰って来たことを聞いたから…

〇〇:みんなを起こすまいと気遣った俺の気配りは逆に厄災を招いたとは…

自分自身の判断が裏目に出ていた事を〇〇は、今になってようやく自覚した。

美波:そ、そんなことないですよ!〇〇様の気遣いする気持ち!素敵です!

先ほどまでは、"帰っているのなら即報告"と怒り散らしていた美波は、手のひらを返す様に〇〇のフォローに回っていた。

史緒里:でも竜車が来たのは朝の七時くらいだっけ、もう二時前だよ?竜車だったら二時間くらいで着くし、そろそろ帰ってくるんじゃない?

冷静な思考で史緒里は考察する。

あやめ:そうだね、蓮加姉の帰りはみんなで気長に待ちましょっか!
 
そう言って、あやめが戸棚に入っていたクッキーを取り出そうとした時、城門の開く音が響く。

史緒里:あ、蓮加じゃない?

美波:そうだね、城門の鍵を持ってるの今この場にいる人を除けば蓮加だけだし

〇〇:噂をすれば何とやら…だね

などと、三人は呑気に蓮加の帰宅の無事を喜んでいた。

未だ姿は見えておらずだが、あの子ならきっと大丈夫だろう、みんなそう確信していた。

実際、彼女には、傷一つなかった。

女の子一人であんな街に行けばどうなる?祐希の様に不当な扱いを受ける者もいるはず。

しかし、蓮加は誰かに何かをされる事なく、ただプリンを買って帰って来たのだ。

蓮加:もー!やっぱりお兄ちゃん帰って来てるじゃん!

リビングの扉を開けた瞬間、カバンがはち切れそうなほどプリンを詰めた蓮加がそう言った。

〇〇:おかえり、蓮加

〇〇:すまない蓮加、実は昨晩、みんなを起こすまいと帰ってたの報告してなくて…

蓮加:もうっ!〇兄のバカ!プリンあげない!

当然の事だ。本人を心配して朝早起きをして、竜車まで利用していた。

それが全て無駄と分かった。

当然、蓮加が怒るのも納得がいく話だった。

〇〇:ごめんなさい!以後この様な事は決してない様に気をつけますので!プリンだけは!

蓮加:プリン目当てじゃん!!

祐希:ふふふ

ただ、普通の兄妹の仲睦まじい喧嘩をするワンシーンを、祐希は幸せそうに眺めていた。

――この家に来れて、良かった

改めて〇〇との出会いに祐希は感謝した。

しかし、〇〇が解いた祐希の呪縛と因縁は、更にややこしく絡まり、渦となる。

美月:なんだ、みんなここにいたんだ

再度、扉が開いたかと思えば、桃子の説教を受けていたはずの美月がリビングを訪れた。

美月:それより蓮加、家の前にいるあの人だかりはなんなの?さっき話してたでしょ?

と、美月は話を聞いただけでは理解し得ないような会話を繰り広げようとしていた。

〇〇:え?大軍?

蓮加:あー、あの人達ね!えっとね…たしか……

蓮加:バーナー…さん?って言う王族の人達が祐希さんと、〇兄に用があるって

プリンを食べる事に集中しているのか、目線を合わす事なく蓮加は答えた。

〇〇:バーナーさん?どっかで…聞き覚えが…

思い出そうと思えど、どこでその名前を聞いたかなど全く思い出せない。

史緒里:あの人たち、大丈夫なの?

窓から外を眺めた史緒里がそう言った。

史緒里:あの人達、誰一人として武器を持ってない人がいないんだけど…

美波:え、武器持ってるの?!

大量の武器を持つ軍勢達に、一同は驚きを見せる。

そう、綺麗に配置された大量の人間達は、みな剣や刀、槍に弓矢、斧に杖。まるで誰かを殺すと言わんばかりの獲物を手に、この場に集結していた。

美波:一体、何?あの軍勢は…

何百、いや、下手を打てば一千人。あり得ない数の人間達は、リズムを合わせ、歩を進める。

一同は、怯える事はないが、異様な光景に疑問を感じていた。

しかし、怯える者も、いた。

祐希:バーナー家が…ここに…

〇〇:祐希?どうした?どうしてそんなに怯えて…

震える祐希に気がついた〇〇は、祐希の元へ駆け寄り、声をかけた時、思い出した。

それは、昨日街で喧嘩をした男の発言だった。

"私、フロック・バーナーは、皆様がご存知の通り、この国の王、バーナー王の子が長男…つまりは、第一王子となります"

そう、フロック・バーナー。《回転》の天能を所持していたバカ王子の事だった。

〇〇:なるほどな…

〇〇:あいつら、復讐しに来やがった



長男:ぶっ殺してやる…岩本〇〇…

…to be continued

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