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消しゴム顔(SS)

ここは顔相学の権威たる私の相談室。
今日も悩める子羊を迎え入れる。

相談者との間には磨りガラスの仕切りがある。先入観を排しヒアリングに注力するためだ。
尤も私に言わせれば、千の言葉より一つの黒子の方が雄弁に人を語るのだが。

「では、悩みをお聞かせください」
ガラスの向こうで影が頷いた。梵鐘のような声が響く。

「僕は保育士なのですが、子供たちを怖がらせてしまうのです。この顔のせいで」

話してみると、何かと考え込む性格らしい。常に眉根を寄せているのだろう。口下手なのも恐さに拍車をかけている気がした。

「節分の豆まきで鬼の役をやったときなんて、お面を外したのにお面を外せと言われて……」

あらかた事情を聞いたところで、私はいよいよガラスを取り払って男の顔を拝むことにした。

鉢の広い毬栗頭。鋭い眼の上には毛虫が2匹。
角ばった顎から太い首が伸びている。

「ふむ、消しゴム顔ですな」
「というと?」
「実にMONOMONOしい」

男は黙って部屋を出た。

(410字)

こちらの企画に参加させていただきました。
お世話になっております。

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