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早起きは3ポイントの得(SS)

課題のレポートを終えると、聡太は早々にソファで眠ってしまった。時刻はまだ23時だ。大学生の就寝時間としては早すぎる。
俺としてはこのあと、ゲームでもしながら酒を呑み、サークルの愚痴でも言い合うつもりだったんだけど。
仕方なく、なるべく音を立てないようにシャワーを浴びて、日付が変わらないうちにベッドに入った。

翌朝、俺は眩い光に起こされた。まだ日も登らないのに部屋の電気がついているのだ。
どうやら聡太のしわざらしい。パジャマのままソファに寝転がり、スマホをいじっている。

「……眩しいんだけど」
「あっ悪い、起こしちゃったか」
「いや確信犯だよね」
聡太はチラリと俺を見ると、再び画面に視線を戻した。

背後に回り覗きこむと、「めざせ!三文のトク!」と書かれた画面が表示されている。俺は寝ぼけた頭で2ヶ月ほど前のニュースをぼんやり思い出した。
通称「早起きは三文の得」政策。朝4時から6時の間に政府が配信しているアプリにログインすれば、1日につき3ポイントがもらえるというユニークな制度ですと、女子アナが言っていた。
貯まったポイントは買い物に使えるとかで、実家の母親が熱心にやっていたような気がする。

(だからって、友達んちでもやるかね……)
一心に指を動かす聡太に白い目を向け、俺はせっかくだし、部屋の整頓でもしようと起き上がった。

「よし、今日は300円の儲けだ!」
聡太がはしゃいだ声をあげた。6時きっかりだ。
「……3ポイントだろ?」
俺は雑巾がけの手を止め、やつに目を向けた。
チッチッチ、と聡太は人差し指を振る。なんだこいつ。

「実は俺、60人分のログイン請け負っててさ」
いくら政府が奨励しているとはいえ、早起きが苦手な人間はいるし(俺もその一人だけど)深夜や早朝に働きに出る人たちは、アプリの恩恵を受けられない。
そこで、聡太は彼らを相手に1回5円で代理ログインする商売を思いついたのだ。SNSで気軽に頼めること、1日単位で契約できることがウケて、そこそこ利益をあげているらしい。

「三文の得って、こういうことを言うんだよ」
聡太は鼻をそびやかす。俺は適当に相槌をうちながら、
(さっきトイレで100円拾ったのは言わないでおこう)
と心に誓った。

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