見出し画像

「夏と秋」マガジン 第3号

(2018年10月16日発行)

【はじめに】

 こんにちは。こうさき初夏と秋月祐一の創作ユニット、「夏と秋」のマガジン第3号をお届けいたします。今号は、歌人の瀬戸さやかさんにご協力いただいて、「読者投稿欄でぐでぐ」が誕生いたしました。どうぞお楽しみください。

* * *

今回のマガジンは、
【秋月祐一の短歌「ぽんぽんとちやんちやんちやん」】
【読者投稿欄でぐでぐ(1)】
【カピバラ温泉日記】
という内容でお送りいたします。

* * *

【秋月祐一の短歌】

 ぽんぽんとちやんちやんちやん 秋月祐一

そなさんはキャラメル好きと知つたこと。それは言はずに、ふふふ、と思ふ

風呂上がりの妻を見てゐて、ぽんぽん、と何はさておき、ぽんぽん、と思ふ

くうちやんを、ちやんちやんちやんと呼んでゐる、日常といふ恐ろしきもの

時折、ぢやないですか、と敬語つかふ妻のこと、ぼくも「さん付け」で呼ぶ

そなさんは初めから、そなさんだつたから、妻になつても、そなさんと呼ぶ

<うちややんは誤殖だらけのゲう刷りのやうな」寝相でねむリをねむゐ。。

え、えつ、えふッ、と嚔の妻におどろいて、やけに凜凜しいくうちやんの顔

「人間は風呂に入らずとも死なぬ。」「然り。然れども、セックスは断る。」

そなさんは声がいいから、あの時も。「あの時つてなに?」あの時はあの時

見かけとはちがひ勝ち気な妻がつくるハード・ボイルド・エッグ ほほばる

* * *

【読者投稿欄でぐでぐ(1)】

夏と秋・読者投稿欄「でぐでぐ」それは一通のメールから始まった。

歌人の瀬戸さやかさんからのご投稿メール──

【原作】
風の音耳元で鳴らす風鈴のようなピアスを垂らす真夏日 瀬戸さやか

秋月祐一
「このコーナーの記念すべき初投稿は、瀬戸さやかさんの短歌でした。ご投稿、まことにありがとうございます」

こうさき初夏
「ほんとうにありがたいですね。夏と秋・読者投稿欄『でぐでぐ』第1回は、読者との相互作用のもと予定を急遽変更し、瀬戸さやかさんと直接メールしながら、改作を行なっていく様子を、実況中継的にお送りします。「風鈴のようなピアス」って、涼しげな音が聞こえてきそうな表現だと思いました。秋月さんはいかがでしょう」

秋月祐一
「そうですね。まず、上の句から見ていきましょう。『風の音耳元で鳴らす』は、『風鈴』の一語にすでに含まれているような気がしました。そこは思い切って省略、『風鈴のようなピアスを垂らしつつ』を上の句にして、そこからの展開を探ってみては、いかがでしょうか。

次に下の句です。この『真夏日』はどのような場所なのか? そして、そこには何があるのか? 具体物を入れることによって、一首のイメージがより鮮明になり、読者も想像をふくらませやすくなると思います。一例にすぎませんが、巨大なショッピングモールで落とした鍵とか、波止場のカフェのソフトクリームとか、自由に想像を広げてみてください。」

こうさき初夏
「なるほど。『具体を入れる』は、短歌でよく言われることですが、秋月さんがショッピングモールとか波止場のカフェと述べているように、作者の方がどんな場面を思い描いているのかを意識すると、より適切な具体物を選べるようになるのかもしれませんね。それでは瀬戸さんにこの旨、メールを送りましょうか」

こうさき初夏より瀬戸さやかさんへメール
「作品がよりよくなる可能性を感じたため、ご提案させていただきたいのですが、もしよろしければ、この後の改作を進めていただき、その過程のやりとりをふくめて、メルマガで公表させていただければ、と願っております。

(ここで上記の秋月のコメントを紹介)

読者との相互的なやりとりは秋月、こうさき共に「夏と秋」をスタートさせた時から悲願でありました。有料会員第一号である瀬戸さんと一緒に取り組めましたら、とてもありがたく、うれしい気持ちです。

お忙しいところ大変恐れ入りますが、ご検討のほどお願いできませんでしょうか。お返事お待ちしております」

瀬戸さやかさんよりご返信
「ご提案ありがとうございます。私は、今のところ結社に属さず作歌活動をしていますので、いつも作歌は手探りで、歌会に参加した時ぐらいしか、具体的なアドバイスがもらえません。ですから、今回のご提案は、私にとってもうれしく、喜んで受けさせていただきます」

【改作】
風鈴のようなピアスを垂らしつつトランク持って立つ無人駅 瀬戸さやか

秋月祐一
「ご改作、具体的な場面が提示され、心情もはっきりして、とてもよくなったと思います。一発OKといった感じです。
『トランク持って立つ無人駅』は、たとえば、故郷を離れて、都会でひとり暮らしを始めようとする場面などを想像しました。あるいは、長旅に出るところでしょうか。いずれにしても、これから先の自由と、一抹の不安のようなものを感じさせます。

ここで重要なのは、原作では単なる小道具にすぎなかった『風鈴のようなピアス』が、上記のような繊細な心情を託された〈喩〉として機能している点だと思います」

こうさき初夏
「ええ、この一首自体が映画の一場面のように、景を浮かばせるための力を増したように感じます。改作案の『トランク持って』は、『トランクを持って』と助詞を補ったほうがよくありませんか?」

秋月祐一
「助詞については、歌人によって考え方がさまざまで、字余りになっても助詞を入れたほうがいいという人もいます。

この歌の場合、トランク「を」持って、の意であることが明白なのと(ぼくは、抜ける助詞は抜く派なのです)、その前に「ピアスを」とあり、一首に「を」がふたつ入ると散文っぽさが増すため、改作案のかたちのままでよいのではないか、と思います。

以上のような点をふまえ、
瀬戸さんの改作案を最終稿とさせていただきます」

【最終稿】
風鈴のようなピアスを垂らしつつトランク持って立つ無人駅/瀬戸さやか

こうさき初夏
「作品をお送りくださった瀬戸さやかさん、ありがとうございました。「夏と秋」では短歌や俳句を中心とした投稿を募集しております。『風呂上がりのフルーツ牛乳』プランの会員の方はどなたでもご応募になれます。よりよい作品を作りたいあなたのご参加をお待ちしております。(掲載の前には秋月が選をさせていただきます)」

(構成・こうさき初夏)

* * *

【カピバラ温泉日記(秋月祐一の日記)】

■10月1日(月)

[写真]ましかく写真の撮れるチェキの新製品「SQ20」が、11月に発売されるそうです。期待していた Wi-Fi 機能は搭載されなかったけど、デジタルとアナログの折衷のようなこのカメラに、とても興味があります。

■10月2日(火)

[音楽]今日のBGMは、韓国の聖子ちゃんこと、IUの『Modern Times』と『Modern Times - Epilogue』。ジャズ、ボサノヴァ、ラテンなど多彩なサウンドに乗せて、ちょっぴりハスキーで甘い歌声を聴かせてくれます。

■10月3日(水)

[川柳]川柳作家・芳賀博子さんの句集『髷を切る』(青磁社)より五句選。紅白を基調とした装幀も美しい本です。
新しい鍵はドイツの確かさで

セキュリティシステムエラークロッカス

みずかきをぱっと開いて転校す

嘘ばっかりついて美しかった鈴

最後には雨の力で産みました

■10月4日(木)

[展示]齋田優美&瀬戸さやか二人展@津田沼・高山写真館。瀬戸さんは、ぼくが所属している「未来」彗星集の歌会に、ゲスト参加してくださっている歌友です。齋田さんが絵画を、瀬戸さんが短歌と写真を。ご夫婦での展示ということもあって、「夏と秋」のふたりも大いに刺戟を受けました。

■10月5日(金)

[読書]「短歌研究」10月号。「『塚本邦雄全歌集』を大いに語ろう」(船曳建夫、井辻朱美、黒瀬珂瀾の三氏による討論)を興味深く拝読。後期塚本を再読してみたくなりました。

■10月6日(土)

[眼鏡]作業用のめがねを新調しました。机上の本や書類を見ることに、度数や焦点距離を特化したもの。これで目の疲れが軽減するといいのですが。みなさま、どうぞ目は大切にしてくださいね。

■10月7日(日)

[音楽]今宵のBGMは、松岡直也さんの中期くらいのベスト盤『ONE LAST FAREWELL』。このアルバムは、ぼくの青春と分かちがたく結びついています。松岡直也さんのほかにも、30年以上聴きつづけているアルバムがたくさんあるぼくは、幸せ者だと思います。

■10月8日(月)

[計画]今月の日記に、生活のディテールがとぼしいのは、来週末に受験する漢字検定の勉強に追われているからです。でも今日は、年末にゆく温泉旅行の予定を、初夏(そな)さんと立てました。今からとても楽しみです。

■10月9日(火)

[手帳]手帳マニアのぼくは、文具店に来年の手帳がならぶこの時期は、落ち着きがありません。手帳コーナーに足を踏み入れると、ついつい時間が経っていて。ここ数年使っているアクションプランナーを継続するか、高橋書店の新製品trincoを試してみるか、はたまたD-BROSのクリエイティブ・ダイアリーがいいか、とあれこれ妄想しています。

■10月10日(水)

[音楽]今宵のBGMは、上田正樹さんのアルバム『遠ざかる日本(ふるさと)の歌』。はるかな尾瀬〜、の「夏の思い出」から、ふいに「Summertime」にシフトしたりするのが、スリリングで恰好いい。

■10月11日(木)

[就活]校正の学校が12月に終了するので(その前に校正技能検定試験という山場があるわけですが……)ぼちぼち就活をはじめました。履歴書、職務経歴書、志望動機などをこつこつと書いております。

■10月12日(金)

[音楽]大江千里さんの35周年記念ピアノ・ライブ@TOKYO FMホール。11年前に単身ニューヨークに渡り、ジャズピアニストに転身した大江千里さんのライブ。ぼくが高校生の頃から親しんできたポップス時代の名曲が、渾身のジャズのソロピアノで演奏されるわけですよ。明日からの日々を大切に生きようと思わせてくれる、そんな素敵なライブでした。

■10月13日(土)

[手帳]『手帳事典2019』を読んでいて、田中手帳という老舗手帳メーカーがつくった「カク手帳」に注目しました。名前の通り、いろんな四角形を基調としたデザインで、実用性と遊び心のバランスが良さそう。大阪のメーカーさんの製品なので、東京の手帳コーナーでは、まだ見かけませんが、はやく実物を目にしたいです。

■10月14日(日)

[漢字]漢字検定2級の試験日。会場は新宿。受験者は圧倒的に若者が多かったです。部首の問題をたくさん間違えてしまったけど、受かっているといいなあ。この一か月、漢字漬けの日々だったので、肩の荷がひとつ下りました。

[音楽]今日のBGMは『雷蔵参上』。雷蔵は、あがた森魚さんが1990年に結成したユニットで、アルジェリアのライを取り入れた、ワールドミュージック的なアルバムを、翌年にリリース。いま聴くと、とてもナチュラルなのですが、発表当時は、時代の何歩か先をゆく斬新なサウンドに、驚嘆したことを覚えています。

■10月15日(月)

[読書]多忙な自分をなぐさめるために、茨木のり子さんの全詩集を購入。未発表の詩稿もたくさん収録されているのが、うれしい。

* * *

【編集後記】

季節の変化の影響をもろに受けて長時間睡眠。秋眠中。来号には生き方相談「珍獣ライフ」を載せたい(夏)

このマガジンは、ぼくの iPad mini で作っていて、原稿のファイル名を「003・無料版」のように付けているのですが、ぼくの無意識はこのメルマガを999号まで出そうとしているのかー、としみじみ思う秋の夜長です(秋)

─────────────────
「夏と秋」マガジン 第3号
夏と秋:こうさき初夏・秋月祐一
発行人:こうさき初夏
無断複製ならびに無断転載を禁じます
─────────────────

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?