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「夏と秋」マガジン 第8号

【はじめに】

こんにちは。こうさき初夏と秋月祐一の創作ユニット「夏と秋」のマガジン第8号をお届けいたします。西村曜さんによる、こうさき初夏「ぽと梟」鑑賞文や、瀬戸さやかさんと秋月祐一のセッション「読者投稿欄でぐでぐ」など、お楽しみいただければ幸いです。

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今回のマガジンは、
【短歌「らむね」/秋月祐一】
【こうさき初夏「ぽと梟」鑑賞文/西村曜】
【読者投稿欄でぐでぐ(4)/瀬戸さやか・秋月祐一】
【カピバラ温泉日記/秋月祐一】
という内容でお送りいたします。

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【短歌/秋月祐一】

    らむね   秋月祐一

らむねらむねしゆわつとみなをしあはせにするねすごいねおまへはらむね

れもねいどがらむねになつたはるかなるじかんをおもふらむねをおもふ

さびねこのくうちやんぼくがしやうがいにかふただいつぴきのねことして

そなさんはそなぽんになりくうちやんはちやんちやんちやんになつてゆくひび

ひとづまのしたばらでなくぽんぽんとよぶべきだらうこのぽんぽんは

くうちやんがねーうねーうとなくよるにいつからむねがくるひをおもふ

おくさんとねこのことしかかんがへてないとうはさよあきづきさんは

じつはさうでもなくてそなさんくうちやんとらむねのことをかんがへてゐる

てぶくろをしよつちゆうなくすそなさんのちひさなゆびをぎゆつとにぎつて

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【こうさき初夏「ぽと梟」鑑賞文/西村曜】
 
 こうさき初夏さんの「ぽと梟」を読みました。さいしょに言ってしまうと、これはこうさきさんの詩観を巡る連作だと捉えました。

 「私は詩そのものである」梟が語る時代はいつごろだらう

 一首目は「わたしは詩そのものである」という梟の自己紹介です。

 ぽつと鳴かなくなる梟は現在下腹部上にをります

 二首目。破調として読みました。一首目に出てきた梟は、いまはこの人の「下腹部上にを」るそうです。

 ふくらんでゆく梟の胎内はふくらふくらと詩情を集め

 三首目では梟のさらに「胎内」を詠んでいます。どうやら梟はなにかを孕んでいるようです。

 ぽつ ぽつぽと梟が鳴いてゐたよと吟遊詩人(バード)啼き ぽつ

 四首目の「(バード)」(bard)は「吟遊詩人」のルビかと。二首目にてこの人の下腹部上で鳴かなくなった梟の鳴き声が、吟遊詩人には聞こえたらしいです。

 梟のつつくピーナツ奪ふ父 ポォーーポーーポォーーーーー

 五首目でとつぜん「父」が現れます。ちょっと現実に引き戻されたきぶんになりました。しかもその父の行動! 下句はそのまま梟の抗議の鳴き声に聞こえます。あっ、梟、鳴きましたね。

 身一つの夜間飛行へ旅立てば月が二つに見えて、梟

 六首目。「身一つの夜間飛行」へ出たのはこの人なのか。それとも梟なのか、両方なのか。ちょっと読みきれませんでしたが「月が二つに見えて」その前景に「梟」がいる景色が浮かびました。梟は夜空へ飛び立ったわけです。

 ぽ ぽ ぽぽ 梟ふくふく「通行手形を」 ぽ ぽ ぽぽ

 七首目も梟が鳴く歌です。「通行手形を」と促しているのは梟でしょうか。この歌を踏まえて六首目に立ち戻ると「夜間飛行」に出たのはやはりこの人な気がします。

 旧姓の印鑑くはへた梟と真夏の夜にかはす密約

 八首目の「旧姓の印鑑」というアイテムは効果的です。五首目の「梟のつつくピーナツ奪ふ父」もそうですが、ともすれば幻想的な雰囲気に流されてしまいそうな連作を、すこし現実に引き戻しつつ、しかし不思議さをより強める役割を果たしていると感じます。

 昨日より目を見開いた梟の小さな眠り羽根を休める

 九首目の「昨日より目を見開いた梟」は、わたしには生まれたての梟のことに読めました。三首目にて梟が「詩情を集め」孕んでいた子が、この歌で生まれたのではないでしょうか。

 目をとぢて夢に落ちれば明日にはわたしの知らないぽと梟が

 十首目。梟が目を見開くかわりに、この人は「目をとぢ」ます。「明日にはわたしの知らないぽと梟が」の箇所をどう読むのかが問題かとおもうのですが、わたしは「ぽと梟」で一つの名詞と捉えました。「ぽつと鳴かなくな」ったり鳴いたりするこの梟は、その鳴き声をとって「ぽと梟」。

 詩そのものである「ぽと梟」が詩情を集めて(養分として?)生むはまたべつの詩そのもの、べつの「ぽと梟」です。詩情とは「詩にみられるような趣。詩的な情景。」(デジタル大辞泉)詩そのものは詩情を内包するけれど、詩情だけが独立して存在することはない。わたしはここにこうさきさんの詩観があると感じました。わたしたちが鳴き声を聞かなかったり聞いたり、その存在を掴むことができるのは「詩そのもの=ぽと梟」だけで、詩情はその胎内にあるのだと。ぽと梟はぽと梟を生み「明日にはわたしの知らないぽと梟が」居るだろう。その不安と期待のままに、十首目にてこの人は夢に落ちたのです。明日には明日の、夜間飛行も待っていますから。

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【読者投稿欄でぐでぐ(4)】

*投稿者の瀬戸さやかさんと、秋月祐一のメールのやりとりを紹介させていただきます。短歌の推敲がどのようにして行われているのか、その様子をご覧ください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

こんばんは。
また歌を作ったので、
推敲のお手伝いをしていただければ幸いです。

【原作】
風呂上がりヒートテックをふと避けたフリージアの花ぽんぽんと咲く

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

春の到来を実感している歌ですね。

風呂上がり/ヒートテックをふと避けた/フリージアの花ぽんぽんと咲く

3つの要素から成る歌ですが、各パートごとに切れがあり3段切れになっています。まずは、それを解消したいと思います。

たとえば、「風呂上がりに」とか「風呂上がりの」と初句に助詞を補うやり方。

つぎに、「(ヒートテックをふと避けた)風呂上がり」と語順を入れ替えて、初句二句を定型にそろえてゆくやり方。

さらには、一首に3つの要素は多いのでないか、という考え方もあろうかと思います(=要素を減らす)

以上のことをふまえて、改作をしてみてください。

あと、「ふと」というのは、取り扱い注意な言葉です。なぜならば、短歌というのは、基本的に、「ふと」心が動いた瞬間を切り取ったものだからです。音数合わせで、つい使ってしまいがちですが、ここぞというとき以外は、避けたほうが無難です。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

要素をひとつ減らす方向で考えた改作が

はらりんとヒートテックを脱ぎ捨ててフリージアの花ぽんぽんと咲く

そして、語順を変えてみて、

ぽんぽんとフリージアの花咲き始めヒートテックをふうわりと脱ぐ

この二つを作ってみました。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

要素を減らしつつ、三段切れも解消していただきました。語順を変える技法は、すでに体得されている感がありますね。

しかし、今度は「○○して△△」という経過感や因果律のニュアンスが歌に入ってきたのを、おわかりいただけますでしょうか?

短歌は短い詩型なので、これらの要素が、まだるっこしく感じられるときがあります。

たとえば、一首目は、三句を「脱ぎ捨てる」と終止形にして、結句を「ポンポンと咲き」と連用形にしてみるのは、どうでしょうか?

二首目は、二句三句を「フリージア咲く○○○○○」という体言止めにしてみる可能性は?

ご検討のほど、よろしくお願いいたします。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

一首め、秋月さんのアドバイスで改作すると、

はらりんとヒートテックを脱ぎ捨てるフリージアの花ぽんぽんと咲き

確かに、少し変えただけで、上の句と下の句の関係が変わりますね。

2首めについて。

ぽんぽんとフリージア咲く春の宵ヒートテックをふうわりと脱ぐ

「春の宵」はこの短歌を作る段階で出てきていた言葉なのですが、「春」という言葉を入れていいものかと迷って、結局、削ったんですね。やはり「春」という言葉は使わない方がいいでしょうか?

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

一首目。ぼくが勧めたのは、俳句的な切れを入れる方法でしたが、短歌はもうすこしなめらかに言葉がつながってるほうが、よかったかもしれません。

こちらも、上下を入れ替えてみては、いかがでしょうか?

フリージアの花ぽんぽんと咲く○にヒートテックを……

みたいな感じで。

二首目。春だなあ、という気分を読者に感じとってもらいたい歌なので、「春の宵」と言ってしまわないほうがよいと思います。三句はシンプルに夜であることを示してみたら、よいのでは?

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

ぽんぽんとフリージア咲くガラスびんヒートテックをふうわりと脱ぐ

ぽんぽんとフリージアの花咲く今宵ヒートテックをふうわりと脱ぐ

どうでしょうか?

「今宵」は、歌の中の他の言葉に比べると、硬いけど、カッコいい感じがします。「夜に」とか「夕べ」とかも考えたんですけど…

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

一首目、「ガラスびん」はわざわざ言う必要がないような。カタカナが3つになってしまうのも、視覚的にどうかと思います。

二首目、「今宵」で硬い印象を出しておいて、下句「ふうわりと」でまとめるのは、いい感じですね。

これを完成稿としてもよいと思うのですが、一点だけ確認させてください。

二句の「フリージアの花」の字余りがもたつくような気がするのですが、いかがでしょうか?

乱暴な提案ですが、フリージアに格別の思いがあるのでなければ、4文字の他の植物名にする手もあるかと思います。念のため、ご検討ください。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

フリージアに格別の思い入れはありません。たまたま、今、部屋に飾ってあるだけで。強いて言えば頭音がハ行の音であるということですかね。

四音で、季節的にも合っていて、ぽんぽんと咲くような花は、やはり、水仙ですかね。俳句の季語としては冬ですが、花の咲く時期は4月までとありましたので。

ぽんぽんと水仙の花咲く今宵ヒートテックをふうわりと脱ぐ

どうでしょうか?

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ぽんぽんとした形状の花であること。ハ行音の名前を持っていること。春の花であること。これらを総合すると、やはり、「フリージア」が望ましいような気がしました。

で、フリージアにした場合、三句を「咲く夜に」としたほうが、若干韻律がやわらかくなり、字余りのゴツゴツ感が和らぐと思うのですが、いかがでしょうか?

ぽんぽんとフリージアの花咲く今宵ヒートテックをふうわりと脱ぐ

ぽんぽんとフリージアの花咲く夜にヒートテックをふうわりと脱ぐ

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

確かに、「夜に」の方がやわらかい感じがします。

ぽんぽんとフリージアの花咲く夜にヒートテックをふうわりと脱ぐ

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

では、このかたちを最終稿とさせていただきます。

今回は、歌のテーマが最初から明確だったので、細部をいかに表現するかの技術論となりました。

丁寧なご改作をありがとうございました。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

こちらこそ、丁寧なアドバイスをありがとうございました。

*これでやりとりは終わったかと思いきや、
 雑談の中から、ふたたび推敲が始まってゆきます。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

以下、雑談ですけど、ぼくの誘いに、瀬戸さんが決して乗らなかったのが、初句六音でした。初句六音というのは、抵抗があるものですか?

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

フリージアの花ぽんぽんと咲く夜にヒートテックをふうわりと脱ぐ

という感じですかね?

今回は結果的に初句六音にはなりませんでしたが、特に、初句六音を絶対に避けるということはないです。

それより、今さらなんですが、花の名前、水仙をネットで調べた時に、ラッパズイセンというのがありまして、この名前にちょっとふらっとしましたね。

ただ、カタカナで書くとカタカナが多くなるし、漢字で書くと喇叭水仙となって、硬くなるし、頭音の関係もあるしで、とりませんでしたが。ぽんぽんという雰囲気のある花だなとは思いました。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

喇叭水仙ぽんぽんと咲くこの夜にヒートテックをふうわりと脱ぐ

みたいな感じでしょうか。これは追加採用してもいいぐらい、素敵ですね。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

初句七音でも大丈夫ですか?
あと、やっぱり喇叭水仙は、漢字表記の方がいいですか?

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

初句六音より、初句七音のほうが、受け入れられる率は高いかと思います(塚本邦雄が定着させた第二の定型として)表記はお好みですが、喇叭水仙にインパクトを感じたもので、つい。

*ここまでのやりとりを受け、
 数日後、秋月が次のような提案をしました。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

こんにちは。

数日考えておりましたが、先日の最終稿、

ぽんぽんとフリージアの花咲く夜にヒートテックをふうわりと脱ぐ

よりも、

喇叭水仙ぽんぽんと咲くこの夜にヒートテックをふうわりと脱ぐ

の方がいいような気がしてきました。判断の理由は、二句の字あまりが解消されて調べが良くなることと、「喇叭」の「パ」で、ハ行・パ行の韻が実現できていることの2点です。

あらためてご検討のほど、よろしくお願いいたします。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

そうですね、唯一気になる点は、喇叭水仙の漢字表記ですね。インパクトがあってよいのですが、歌の他の部分と表記のバランスが取れているかな、というところです。

秋月さんがおっしゃる点はもっともだと思いますし、ネットで見た花の姿も「ぽんぽん」としているのですよね。ラッパ、ぽんぽんですから、半濁音の弾んだ感じがいいですよね。

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

歌の視覚的要素も重要ですね。他がやわらかいので、一箇所、硬いことばを入るのもありだと思います。水仙が冬の花であることを措いても、韻律的には、喇叭水仙を推したいと思います。ラッパ、ぽんぽん、弾む感じが春ですね。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

では、これで行きましょう。

喇叭水仙ぽんぽんと咲くこの夜にヒートテックをふうわりと脱ぐ

*これで決着したかと思いきや、
 瀬戸さんから次のような質問と改作が届きました。

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

すいません!
もう一つ、気になったことが。
秋月さんは、フリージアの代わりに喇叭水仙を歌に入れたときに、「この」という言葉を加えたんですよね。それもちょっとだけ気になりました。前の歌にはなかった要素なので。
それがなんとなくちょっとだけ気になっていたのですが、かわりになる言葉が見つからなかったので。

それでモヤモヤしていて、思いついたのが、「宵闇」です。

喇叭水仙ぽんぽんと咲く宵闇にヒートテックをふうわりと脱ぐ

どうでしょうか?

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

ご改作ありがとうございます。

一般論でいえば、「この」も取り扱い注意な言葉で、詰めの甘さを感じさせる部分もあるかと思います。

しかし、この歌の場合、「喇叭水仙」「ぽんぽん」「ヒートテック」など、つよい言葉がたくさんあるので、「宵闇」はそれらとぶつかるような気がしないでもないです。三句は、できるだけ意味のない言葉で埋めようとしたのが「この夜に」でした。

それよりも、歳時記的には、「喇叭水仙」は冬、「宵闇」は秋の季語で、季節が混在している点が気になっています。

推敲の可能性としては、「ふうわり」を寒さを感じさせるオノマトペにして、晩秋か初冬の歌にすることもできそうですね。

あるいは、春の歌であることを明示するために、

喇叭水仙ぽんぽんと咲く春の夜にヒートテックをふうわりと脱ぐ

喇叭水仙ぽんぽんと咲く春宵にヒートテックをふうわりと脱ぐ

とするか?

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瀬戸さやかさん→秋月祐一

辞書を引きました。

春隣

はどうでしょう。

喇叭水仙ぽんぽんと咲く春隣ヒートテックをふうわりと脱ぐ

春隣は、春の字は入っているけど冬の季語で、喇叭水仙と同じ季です。あと、春隣の言葉の意味が、歌全体の雰囲気に合っている気がします。

問題は、歌の中に季語が二つになってしまうこと(短歌なのでそこは問題ないか?)これを「はるどなり」とすんなり読めるかということですね。意味は漢字を見てなんとなくわかるのではないかと思います。

どうでしょうか?

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秋月祐一→瀬戸さやかさん

なるほど、春近い冬で一首をまとめようとする作戦ですね。

春隣。ハ行の韻も踏めるし、意味的にもいい感じだと思います。季語が重なることは、短歌なので許容範囲ではないでしょうか。

粘りづよいご改作、ありがとうございました。季節感が統一できたのと、韻律も整って、より良くなったと思います。これを最終稿としましょう。

【最終稿】
喇叭水仙ぽんぽんと咲く春隣ヒートテックをふうわりと脱ぐ/瀬戸さやか

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【カピバラ温泉日記/秋月祐一】

◾️2月2日(土)
[短歌]短歌ムック『ねむらない樹』vol.2の特集「ニューウェーブ再考」に、「ニューウェーブの末っ子」という文章を寄稿しました。他にも笹井宏之賞の発表や、座談会「俳句と短歌と」などが掲載されています。ご覧いただければ幸いです。

◾️2月9日(土)
[俳句]今日は雪のちらつく中、俳句グループ「船団」の句会に参加。兼題は「むささび」で、楽しい句がたくさん集まりました。

◾️2月11日(月)
[演劇]維新派・松本雄吉追悼の夕べ「阿保らし屋の鐘が鳴る」@新宿ロフト。出演者も客席もみんな、松本さんや維新派のことを偲んでいる、密度の濃いイベントでした。

◾️2月13日(水)
[音楽]今宵のBGMは、荒野愛子・新實紗季『「智恵子抄」によるピアノとクラリネットのための小曲集』。言葉によらない音楽で、高村光太郎の詩の世界に迫った名盤です。

◾️2月15日(金)
[演劇]ARICAの「孤島 On the Island」横浜公演。倉石信乃さんのテクスト、西原尚さんの美術、安藤朋子さんの演技、福岡ユタカさん・西原尚さんの音楽が有機的に絡みあい、重層的なゆらぎを持ちながら、孤島に暮らす老女の悲哀を描き出しています。ARICAの代表作のひとつになるのではないかしら。

◾️2月16日(土)
[演劇]サファリ・P『悪童日記』@横浜美術館。原作のストーリーではなく、文体と世界観を身体表現によって舞台化する試みが、とても刺激的でした。

◾️2月18日(月)
[写真]人生の岐路に立たされたとき、新しいカメラが欲しくなる癖があります。いま、新しいカメラが欲しくなっています。

◾️2月22日(金)
[映画]『ひかりの歌』を、ようやく観ることができました。脚本・監督の杉田協士さんの、世界を見つめるまなざしの温かさを感じさせてくれる、すてきな作品でした。劇場で上映されているうちに、もういちど観られるといいな。

◾️2月24日(日)
[短歌]春コミことコミックシティ東京に、「夏と秋」名義で初出店。短歌界隈とは異なる場で、歌集をお買い求めいただいたり、フリーペーパーをお配りしたりと、貴重な体験をさせていただきました。『迷子のカピバラ』以後、自選30首のフリーペーパーも配布。

◾️2月25日(月)
[読書]河北新報社 編集局『挽歌の宛先 祈りと震災』(公人の友社)を読んでいます。津波でご家族を亡くされた方々の魂の叫びと、死者への祈りの気持ちが、ひしひしと伝わってきます。

◾️2月27日(水)
[短歌]夕方の明るい商店街を行く人でよかった葡萄でなくて/盛田志保子

大好きな歌です。見せ消ちの技法によって、私が葡萄である世界の残像が、二重写しになって揺れているように感じられます。

◾️3月1日(金)
[写真]スカイツリーから飛び降りるようなおもいで、欲しかったフィルムカメラ「CONTAX T-3」を購入。最初のフィルムを装填して、妻やサビ猫くうちゃんを撮影。

◾️3月4日(月)
[飲食]夕食にピエンローを作りました。ピエンローは漢字で書くと「扁炉」。干し椎茸のだしで、白菜、鷄もも肉、豚ばらを煮込み、ごま油をかけ回して、各自が塩と一味で味つけをして食べる鍋です。締めの雑炊もおいしい。

◾️3月7日(木)
[音楽]いろんなためいきの『聴こえてきたこと』というCDがじつにいい。リラックスした雰囲気のクラリネットの演奏で、元は美術展のBGMとして制作されたそうなのですが、書きものをするときに流しておくのにぴったり。

◾️3月8日(金)
[飲食]夕食にシチューをつくり、そのあと、俳句を七句つくりました。

◾️3月10日(日)
[知命]50歳になりました。妻と猫との暮らしを大切にしながら、短歌と俳句に励み、写真をたくさん撮る年にしたいと思います。就職もはやく決まるといいなあ。

◾️3月11日(月)
[読書]誕生日だからと自分を甘やかして、『金子兜太戦後俳句日記』第1巻を購入。兜太のアッパー系の文章を読んでいると、創作意欲が湧いてきます。

◾️3月13日(水)
[読書]大横山飴さんの『落ちない雨』がいい。読んでて、きゅんとなる。

◾️3月14日(木)
[短歌]自作の歌の中でやりがちなこと3つ

初句六音
句またがり
ひらがなの多用

◾️3月15日(金)
[音楽]今宵のBGMは、吉田慶子さんの『カエターノと私』。ピアノ・ウッドベース・ボーカルのみで、カエターノをカバー。静謐な美しさを湛えた名盤です。

◾️3月16日(土)
[短歌]ボン・イヴェールの『22, A Million』を聴きながら、彗星集の歌会へと。

◾️3月17日(日)
[音楽]カタルーニャのギタリスト、トティ・ソラールの『Vida Secreta』と、池波正太郎の〈仕掛人・藤枝梅安〉シリーズの相性が、ことのほかよい。

◾️3月20日(水)
[就活]今日は、ミドル・シニアのための就活セミナーなるものを、みっちりと受けてきました。

◾️3月21日(木)
[飲食]今日はキーマカレーを作りました。妻にも好評。

◾️3月23日(土)
[読書]

子「桃太郎読んで」
親「昔々」
子「もっと立原正秋っぽく」
親「川の水はおそい午後の日ざしにくだけ散りながら流れていた。向う岸には葉の落ち尽くした一本の欅があった。夫が村の女と逃げて以来、老婆は情念を燃やすことのない日々を送っていた。桃に目利きの男とであったのは、その年の冬だった」

◾️3月24日(日)
[俳句]今日は午後から句会〔つうの会〕へ。就活の忙しさから、数か月顔を出せていなかったので、ひさしぶりの参加はうれしい。

◾️3月25日(月)
[飲食]今日は、まるまると太ったホタルイカをいただきました。春ですね。

◾️3月26日(火)
[短歌]だやさんこと、𠮷田恭大さんの歌集『光と私語』(いぬのせなか座)初読。ぼくのお気に入りの一首が収録されていて、うれしい。

いくつもの呼び名がついて世界とは犬の走った領域だろう/𠮷田恭大

◾️3月27日(水)
[映画]『ROMA』を観てきました。Netflixの制作で、ネットでも観られるそうですが、映画館の大画面とTHXの音響がふさわしい作品でした。70年代のメキシコの中流家庭の暮らしを、家政婦クレオの視点から描いています。ずしりと身体にのこる体験をしたような感じ。おすすめです。

◾️3月28日(木)
[音楽]本日のBGMは、ナタリーワイズの『film, silence』。BIKKEさん、斉藤哲也さん、高野寛さんによるバンドの、2003年のアルバム。ぼくの愛聴盤のひとつです。

◾️3月29日(金)

[片付]昨日は、収納アドバイザーさんにお越しいただき、妻の部屋を大改造。夜は、やきとんの名店〔秋元屋〕へ。

◾️3月30日(土)

[演劇]劇団あはひ『流れる』@早稲田小劇場どらま館。能「隅田川」を下敷きにしながらも、松尾芭蕉やアトムが登場。その外し方が面白かったです。役者さん、みなさん魅力的でした。

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【編集後記】

ウーパールーパーに似ていると言われます。
西村さん、ありがとうございます(夏)

ひきつづき、就活に励んでおります(秋)

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「夏と秋」マガジン 第8号
2019年4月24日発行
夏と秋:こうさき初夏・秋月祐一
発行人:秋月祐一
無断複製ならびに無断転載を禁じます
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