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#75 社会問題としての小論文教育④

 今日は「小論文」という言葉の「小」という文字が秘めている具体的な意味内容を解説したいと思います。作文と小論文の違いが意外とわかりにくいことと同様、論文と小論文の違いも意外とわかりにくいものです。よく「小論文は論文のミニチュア版」といったイメージを持っている人がいますが、その理解の仕方は明らかな誤りです。
 
 大学で書くのは論文。高校で書くのが小論文。このように綺麗な区分はできません。論文と小論文とはそれぞれに別々のベクトルを持つものです。どちらが「良いか悪いか」とか「上か下か」と言ったものではありません。例えて言うと、ラーメンとそばの違いのようなものです。要するに、それくらい別物です。
 
 現在多くの高校生が書かされている小論文。意外と知られていない「小」の字の意味。「小」が付くことで何がどう変わるのか。それを知ると、現在の高校生が向き合っている「知のあり方」が少しわかるかもしれません。

(1)目的の違い。

 小論文はあくまでも「執筆者の資質(知識・知性・感性)」を問うものであり、執筆者に対する「評価の判断材料」に用いられるものです。一方で、学術論文は「論文内容の品質」を問うものであり、すでに何らかの「公益(社会的生産性)」を有しているものです。

(2)執筆状況の違い。

 小論文は「直前まで課題内容(執筆テーマ)が不明瞭」な状況下で、かつ「時間制限」「字数制限」がある中で書くものです。その場で「即興」で書き直しが不可能な状況下で書き進められます(長くとも180分・2000字・原稿用紙5枚程度)。それに対して学術論文は「内容(テーマ)」を自分で決定することができ、「時間をかけて」何度も書き直し、磨き上げられるものです(12000~20000字・原稿用紙30~50枚程度)。

(3)完成度の違い。

 小論文は(2)に挙げたような様々な制約があることから論文としては必ず「未完成」となります。学術論文のように「完成」された内容にはなりません。「完成」された内容にするためには、ある程度の時間と字数が必要であり、特に内容面では客観的な根拠や理由が必要とされます。そうした場合は、やはり学術論文と同等の時間と字数、そして充分な資料や文献が必要となります。

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 皆様、いかがだったでしょうか。以上が「小論文」と「論文」との違いです。これらは言われればわかるけど、言われなければあまり意識しないような点ではないかと思います。しかし、このように高校で書く小論文と大学で書く論文も、共に困難さがあることが分かります。性質が異なるだけで、どちらが上とか下とかはありません。「小」論文だから簡単なものというわけでもありません。現在、小論文は高校生が書くものとされていますが、もし企業の昇進の際に小論文の課題が課せられるようなことがあったら、どうでしょう。そうなった場合、おそらく多くの大人が慌てふためくと思います。なぜなら、小論文は「直前まで課題内容(執筆テーマ)が不明瞭」な状況下で、かつ「時間制限」「字数制限」がある中で書かされるものだからです。現在の高校生が向き合っている「知のあり方」というのはこのような形です。
 
 次回は小論文の「評価方法」についてお話しします。なかなか数値化しづらい小論文の評価の在り方についてのお話です。ご興味ございましたら、是非お読み下さい。では、また!

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