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#81 社会問題としての小論文教育⑩

 今日は小論文を構成する上での「思考の枠組み」についてお話しします。簡単な言い方をすると「考え方」についてのお話です。
 
 小論文では書き方についての指導はよくなされます。具体的に言うと「起承転結」や「序論・本論・結論」といった、文章の形式についての話です。これらは一般的に言うところの「構成」に関する話です。論理的な文章にするためには非常に大事な要素です。しかし、これらは小論文に限らず、広く一般的に大事な話とも言えます。物語の展開においても、仕事をする上でも大事な要素と言えるでしょう。
 
 しかし、ここでは日本の入試に出題される小論文特有の考え方についてお話ししたいと思います。小論文には原則として答えがありません。一般入試などで出題される〇×問題のような明確な答えはありません。それにもかかわらず、小論文には原則として時間制限と字数制限があります。しかも、出題される内容の多くは解決が困難な社会問題です。
 
 そうすると、どう考えたらいいのか? どう取り組むべきなのか? どのような意識・姿勢で取り組んだらいいのか? そういった意味での考え方や思考の枠組みについてお話ししようと思います。昔と時代が変わり、今の時代の教育現場に求められている「知のあり方」の一端についてお話しできたらと思います。

(1)「問題発見」「問題解決」の論理的不可能性。

 近年教育界の様々な変革に伴い、「問題発見」「問題解決」という言葉が頻繁に使われています。特に「問題解決」のほうに力点が置かれています。が、しかし、小論文において課題とされる「問題」は、その大半が社会問題です。社会問題とは、通常の思考や一般的な枠組みでは解決できない問題です。もし通常の思考や一般的な枠組みで解決が計れるような問題であれば、そもそも「問題」として措定されません。「問題」として措定されている以上、それは基本的に「解決困難な問題」です。それゆえに近年注目されている「問題解決能力」といった代物は、論理的に成立しないものと言えます。少なくとも、小論文では様々な制約(例えば時間制限・字数制限)がある状況下で執筆しなければならないため、解決の実現可能性は極めて低いと言わざるを得ません。

(2)「問題分析」「問題設定」の必要性。

 小論文の課題(文)には、例外的なものもありますが、その大半には通常の思考や一般的な枠組みでは解決できない問題が存在します。それは高校教育外の、もしくは高校教育を越えた知識・知性・感性でないと解決できないような問題です。
 
 それを解くためには、まず何よりも問題の内実を的確に、かつ深く把握(発見・分析)する必要があります。具体的には問題の原因、さらには原因の原因を追究する必要があります。そして問題の総体を様々な手段によって新たに捉え直す(新たに問題を設定し直す)。そうすることで、問題の本質に近づくことができます。またそうすることで、問題解決の道も開けます。
 
 ただし、小論文では様々な制約があることから、物理的に(時間的かつ分量的に)問題解決の具体策まで打ち出すことは難しいです。また出題者(大学)側もそこまでは求めていないはずです。なぜなら、実現可能性のある解決策とは、時間制限や字数制限のない大学入学後のレポートや論文でしか打ち出すことができないからです。だから、小論文を書く際に持つべきイメージは、「問題発見」「問題解決」よりも、「問題分析」「問題設定」のほうが良いでしょう。いわば、そちらのほうが、課題内容がどのようなものであろうとも、現実味(リアリティ)が持てます。

[まとめ]

 大切なことは、的確な原因分析と捉え直しです。発見と解決は現実問題として考える非常に難易度が高い知的活動です。そのため、小論文ではまずは「問題分析」「問題設定」のイメージで取り組んだほうが良いでしょう。それが小論文における伝統的な「思考の枠組み」です。

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 皆様、いかがだったでしょうか。次回は小論文指導を巡る「教育現場における社会問題」についてお話しします。これは小論文の性質や内実に関する話ではありません。小論文の指導に際して社会的に解決すべき問題についての話です。これは分量が多いため合計8回に分けてお送りします。ご興味ございましたら、是非お読み下さい。では、また!

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