見出し画像

#85 社会問題としての小論文教育⑭

 今日は学校現場の小論文指導を巡る環境についてお話しします。結論から言うと、現在の学校現場のほとんどは小論文指導に適した環境ではありません。これは小論文というジャンルが孕む原理的な問題です。しかし、時代の趨勢により小論文の需要は高まっています。
 
 ゆえに、現在の学校現場には、ある意味で「歪な状況」が生み出されていると言ってもいいかもしれません。適した環境ではないのに需要だけが高まっています。
 
 今日はそういった学校現場と小論文を巡る不思議な環境についてお話しします。そして変化する時代の中で小論文指導に適した学校現場とはいかなるものなのか、ご説明します。

(4)小論文実践に適さない環境と適している環境

 小論文では基本的に高校教育外の、もしくは高校教育を越えた知識・知性・感性が問われます。言い換えれば、通常の受験では問われない領域が問われます。そのため、受験教育に力を入れている環境では、実質的に小論文実践は難しいと言えます。
 
 一般受験や学校の定期テストでは学習範囲や傾向が割と明確になっています。しかし、小論文にはそれがありません。例えて言えば、一般受験や定期テストにはルールがありますが、小論文にはルールがありません。格闘技で例えたらわかりやすいかもしれません。一般受験や定期テストはボクシングのようなものだとしたら、小論文は総合格闘技です。そのため、定期テストの教育や受験教育に力を入れている環境は、小論文の指導に適していないと言えます。
 
 では、どのような学校が適しているのか。それは上記した環境とは別の環境が整っている学校です。例えば、中高一貫校で、かつ大学附属の高校です。いわゆるエスカレーター式の教育現場です。そういった学校は受験教育に力を入れる必要がありません。そのため、より多彩な教育が可能となります。そしてそれが小論文実践のための土台となります。生徒は受験教育では得ることのできない、高校教育を越えた知識・知性・感性を得ることができます。また教員も受験指導がないため、充分に小論文を指導することができます。本来あるべき受験教育の労力を生徒・教員双方が小論文実践へ回せるのです。実際に大学附属で在校生のほとんどが一般的な受験をしないような学校では、小論文ではなく高校のうちから卒業論文を書かせる学校もあります。いわば、大学教育の先取りのような制度です。したがって、こういった環境整備こそが小論文実践の1番の近道と言えます。
 
 ただし、このような環境は日本全体で見てもかなり少数でしょう。どうしたって全国のほとんどの高校は大学受験を気にせざるを得ません。なぜなら、大学進学率がその高校のわかりやすいバロメーターとなるからです。そうすると、自ずと小論文指導に適した環境は少ないと言わざるを得ません。それが「原理的」と語る所以です。
 
 しかし、読者の皆様の中にはこう考える人がいるかもしれません。「なら、一般受験と小論文を半々に指導すればいいじゃないか?」と。実際、このような謳い文句を掲げている学校は一定数あります。「本校は一般受験にも対応しますし、AO入試にも対応しますよ。」といった具合で。しかし、これははっきり言って理想論以外の何物でもありません。机上の空論と言っても差し支えないと思います。詳しくは研究ノート⑬でも述べましたが、そもそも学校の教員は小論文指導に適した人材ではありません。それに現場の教員の多くは小論文の指導を忌避しています。全員とは言いませんが、大半の教員は小論文の指導を避けています。表面上一生懸命やっている〈ふり〉をしている教師はたくさんいます。が、本気で小論文の指導に取り組んでいる教員は本当にごくわずかです。
 
 なぜなら、コストパフォーマンスが悪いからです。すでに指摘しましたが、小論文はある意味でルールのない総合格闘技のようなものです。学習範囲がありませんし、傾向も不明瞭な場合が多いです。また指導の際には添削も必要となってくるため、教員には相当な体力が必要です。そのような不確実性が高く、負担も重い課題に本気で取り組む教師はごく稀です。
そのごく稀な先生は本当に良い教師だと思います。しかし、現実問題として言えば、今も昔も良い教師の数は少ないものです。そのため、小論文指導に必要なのは教師の質よりも、やはり環境です。しかし、環境整備こそ1番に難しい課題かもしれません……。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 皆様、いかがだったでしょうか。今回も簡単には解決しない問題でした。これこそ学校組織という社会の問題と言えます。解決のためには学校だけでなく、社会の構造を変える必要があります。しかし、それはかなり大掛かりな話となるため、ここで論じることは控えたいと思います。
 
 次回は学校の先生に「忙しさ」についてお話しします。そしてその「忙しさ」が小論文指導にどう影響するのか、といった点についてお話ししたいと思います。ご興味ございましたら、是非お読み下さい。では、また!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?