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しおやき


今日のわたしは、「はじめて魚焼きグリルを使ってサバを焼くこと」をモチベーションに生きていたようなものだった。

魚焼きグリルが備わっているコンロを持っていながら、いままで一度も使ったことがなかった。実家でも、たぶん掃除がめんどうくさいという理由で魚焼きグリルが使われていなかったので、大人になってからも使ったこともなければ、使い方すらよくわからなかった。(もうすぐ26さいなのに)

それまで魚はフライパンで焼いて食べるので十分だったけれど、先週くらいにスーパーで買った塩鮭がフライパンの上でみじめに縮んで焼けてゆくのを見て、なんか悲しくて、ついに魚焼きグリルを使ってみようと思い立ったのだった。

ちょうど冷凍していたサバの切り身もあったので、きのうの夜のうちから冷蔵庫に移して準備をして、「今日は家に帰って魚焼きグリルでサバを焼いて食べるぞ!!」という気持ちだけでせわしない月曜日を乗り切った。

はじめての魚焼きグリルは、少しそわそわした。
使い方も知らなければ、魚焼きグリルの常識もないので、自分がとんでもないことをして火事になったりしないよう、コンロの取扱説明書を熟読してから調理に入った。
網にうすく油を塗り、点火して庫内をあたため、サバを網に乗っける。火がついているはずなのに、あまりにも静かで驚いた。
いつか焼いていることをわすれて、魚をまるこげにする日がくるかもしれないと思った。

今日ははじめてだったし、魚焼きグリルにとても注目していたので、忘れて魚を焦がすことはなかった。
ほどよいところでグリルの戸を引き出してみると、デパートの8階とかに入っている定食屋さんの食品サンプルみたいに、きれいに焼き目がついたサバが登場した。うれしくて、思わず声を上げた。
フライパンで調理する時は、両面ひっくり返して、中に火が完全に通るように長く焼くので、表面がカチカチになってしまうことが多々あった。その点、魚焼きグリルは皮はパリッ、身はふわっとしている。

わたしはこれから魚焼きグリルの使い手になることに決めた。



今朝洗濯したバスタオルがどれもよく乾いていなかったので、仕方なく温泉旅館でもらった手ぬぐいで身体を拭いた。
バスタオルのように身体をつつむのではなく、小さくたたんだまま、ていねいに水滴を拭っていると、本当に温泉にいる気分になった。バスタオルのかわりみたいなものだったのに、思いがけず旅っぽくなって良かった。
小さくて薄いタオルは、またたく間にひたひたとなった。


そのあとは、ウォーキングデッドを見ながら緑茶をすすりつつ、スイカゼリーを食べた。
ビニールのふたを剥がすと、人工ぽい、控えめなあまいにおいがほのかに香った。緑茶と、足元のファンヒーターにあたためられて、わたしの存在するところだけ夏だった。

スイカゼリーの賞味期限は2日前に切れていた。