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私たちには「スローショッピング」が必要だ

休業、休業、休業……


今回のコロナショックで、様々な業種がとても厳しい状況に置かれていますが、伝統産業界も例外ではありません。



百貨店は休業、あらゆる催事が中止となり、工房での体験教室で収益を上げることも難しくなりました。
例年ゴールデンウィークにたくさんの人が訪れる、益子焼や有田焼の陶器市も中止で、オンラインでの開催となっています。


もちろん今はどの業界も厳しい。

でも、今回のような危機に直面した時、多くの職人さんや販売店さん、つまり作り手や売り手だけが在庫を抱えてしまう製造小売業の現状を「しかたがない」とは思えず、強い違和感を覚えたのです。


一人の買い手として、私たちがもっと「スローショッピング」、つまり「余裕をもって買う」「急がないものは待つ」ことを心がけるだけで、多くの企業やブランドが救われるのではないか。


1ヶ月、2ヶ月、モノによっては半年待ったっていい。
よく購入するものは、過剰にならない範囲で自宅にストックすればいい。


あらゆる業態でドラスティックな変革が起こりつつある今、製造小売の業態では、そんな買い物のあり方への変化が必要なのではないかと感じています。






7 年前の今日、2013年4月24日。
バングラデシュにあった「ラナ・プラザ」というビルが崩壊し、縫製工場で働いていた方々を中心に、1100人以上が命を落としました。

あれから何が変わったのでしょうか。


たしかに、風向きは変わりました。
私は2013年当時、カンボジアのシルクブランド「メコンブルー」の運営をお手伝いしていたのですが、このラナ・プラザの事故の衝撃は大きく、これを境にいろいろな取り組みが加速したのを目の当たりにしました。

アパレル各社が生産者の待遇改善や生産プロセスの透明化に努めたり、「エシカル(倫理的な)」と呼ばれるブランドが増えたり、消費者の理解を促す取り組みが行われたり。



しかし、こと在庫の扱いに関していえば、企業やブランドの大小を問わず葛藤が続いているのが現状ではないかと思います。

売れない在庫に頭を悩ませるのは、批判されがちなファストファッションだけではなく、高級ブランドやエシカルなブランドであっても同じ。
少し前には、バーバリーが在庫を廃棄しようとしたことに批判が殺到し、中止に至るという出来事もありました。




そもそもアパレル業界に限らず、在庫をいかに少なく抑えるか・無駄にしないかという点は、ものづくり産業の永遠の課題です。


前職の化学メーカーでは、在庫の「回転日数」の推移を夢に出るほど眺めていたし、アップルが優れたデザインや機能の商品を生み出すだけではなく、無駄な在庫を徹底的に圧縮していることは有名です。



また現在の職場の「0歳からの伝統ブランドaeru」では、職人さんから在庫をすべて買い取って販売しているのですが、限られた資源から丁寧に作られた商品たちを残さずお届けできるよう、いったん発売した商品は一生定番。

原材料調達ができなくなるなどの場合を除き、原則として廃盤にすることはありません。

大人の世界では、シーズンごとに新商品を出さなければ、飽きられてしまいがちだ。
ただ、子どもの世界は違う。毎年あらたなお客様をお迎えする上に、お財布を握る大人たちは、同じ商品を別の子に向けて、なんども買うことだってある。
(中略)
「0から6歳の伝統ブランドaeru」は毎シーズンごとに新商品を発表しない。
SS / AWといったアパレル業界のせわしないトレンドに振り回されることもなく、売れなかった在庫を倉庫いっぱいに抱えることもなく……


それでも、適正な量を作って在庫を抱えすぎず、一方で売り損じは生じさせないように、できる限り正確に需要を予測するのは至難の技。

これらは当然の企業努力で、規模の大小や業種を問わず、どこも必死に取り組んでおられることと思います。
いつでも買える、注文したらすぐ届く…というお客様にとっての便利さを追求することは、売上の向上にもつながります。

しかしどんなにがんばって予測してもピタリ賞は無理で、多くの業界で過剰に作られてしまった在庫は、大幅に値下げして売られるか、倉庫でいつやってくるかわからない出番を待つか、場合によっては廃棄されてしまうか……

そして、今回のコロナのような突発的な危機において、在庫を抱えていることは大きなリスクとなり、最悪の場合は倒産に至ります。



これは一体、誰が幸せなのだろうと思うのです。

丹精込めて作る人も、愛情いっぱいに届ける人も、お店やブランドを愛するお客様も。






一消費者としての自分の買い物の仕方を振り返ると、在庫の負担を、意図せずして作り手や売り手に押しつけてしまっているのが現在の構造ではないかと思います。



例えば、トイレットペーパーや食料品。


緊急事態宣言の前後に買い占めが起きた時、わが家ではちょうどトイレットペーパーがあと1つ!というタイミングで焦ってしまいました。
食料品の備蓄も手を抜いてしまっていたので、慌てて足りない分を補充することに…

メーカー各社の倉庫に大量の在庫があるとニュースで目にして、メーカー側の努力に感謝すると同時に「日頃から備えていない私のような人がいるから、企業が余分に在庫をしておかないといけないんだな…」と反省しました。

一人一人が無理のない範囲で、過剰にならない量をストックする習慣が浸透していれば、今回のような緊急時に慌てる必要はなく、メーカーも需要の急増を必要以上に恐れず済みそうです。



また、オンラインショッピングで何かを買う時、それほど急いでいないのに、なんとなく「最短日時で配送」を選んでしまうことはないでしょうか。

私はあります。
早く届くならまぁその方がいいか、と。


でもよくよく考えれば、すぐに手に入らなくて良い場合も多々あるのです。
であれば、購入の際に「急ぎません」「〜日までに届けば大丈夫です」など一言添えたり、選択肢があれば先払いの「予約注文」を選んだり。

たった1日や2日で意味があるのか…?と思うなかれ。
企業側は、在庫を抱える日数を、1日でも0.5日でも短縮するために必死なのです。



在庫削減に取り組む企業としては、たんに需要予測の精度を上げる、外部に生産委託する…といったアプローチだけではなく、お客様にいかに「スローショッピング」を選んでいただくか、試行錯誤の余地があると思います。

そもそも「予約注文」が選択できるようにすること、その場合は少し安く購入ができるような設計や、届くのを待つ時間が楽しくなるような取り組みも考えられそうです。



私は、大好きなお店やブランドや職人さんに、長くものづくりを続けてほしい。
作り手と売り手と買い手が、みんなで少しずつ負担を分け合って、環境への負荷も下げながら、愛するものを長く届けられる構造に変えていく。


今よりほんの少しゆとりのある「スローショッピング」をすることで、それを微力ながらでも支えられるのであれば、私は喜んで待ちたいなと思うのです。


Twitterもよろしければぜひ。 https://twitter.com/natsumi_tbs