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he's gone,she's gone
いつの間にやら眠りに落ちていた。
効果の確認されていない治療をしていた自由診療クリニックが、民事裁判で敗訴したという。その一報をTwitterで目にした瞬間、ああ、と言葉にならない溜め息が漏れた。
効かないくせに効果をうたいあげることには長けたそれらが、いったいどれほどの命を奪ってきただろう。空っぽの夢、張りぼての理想が切羽詰まった人々を裏切るまでに、どのくらいの時間と金銭が吸い上げられてきたのだろう。
懐かしい顔が幾つも脳裏に揺れた。気付けば、声もなくさめざめと泣いていた。
弱っていく姿を見るのがどうにも耐えられなくて、忙しさや事情にかまけてろくに会いにも行けなかったあの頃。どう考えてみてもつらいはずなのに、こちらを思いやってくれたこと。身内のことすらも認識出来なくなってしまったあの人の中に、認識のかけらを必死で探す面々が苦しかったこと。彼はいない。
「綺麗でしょう」と見せられた小引き出しの中に光る、色とりどりのサプリメント。本当は痛かったはずなのに、気遣って強がって耐えていたあの人。インオペという言葉をはじめて知ったあの日。帰りの車から見た、恐ろしいまでに美しい月。真夜中に鳴った電話の音。彼女はいない。
もういない。
判決文を読みたい、よく知りたい。かたちとなった声を、読みたい。
夢の中でいい。いつかそれを伝えたなら、「あ、そうなんだ」ってあの調子で飄々と聞くのだろうか。渋い顔するかな。それとも喜ぶのだろうか。
もう、姿形はないけれど。
悲しみの中でのご遺族の闘い、そして一緒に闘われた医師に頭が下がる。その思いがいつか報われるといい。これを契機として、食い物にされてしまう人が減っていきますように。強く祈る。
いつの間にか眠りに落ちていた。左目の脇の乾いた筋を、右手でそっと触れた。
なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」