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花見遊歩

 花見をしようか。

 治療薬の副作用で体重を減らさなければならないが、さりとて本来の症状のために動くこともままならない──そんな人を連れ出すのに桜は力を貸してくれる。ただそこに咲いているだけで。

 土曜日、薄曇りの午後。暑くも寒くもなくて、人出も思ったほどではなかった。ありがたい。

花たちが群れてはさざめくよう
ジンダイアケボノだろうか

 小高い場所に登れば花はすぐ近くで、何枚かを写真におさめた。

枝垂れも咲いていた

 儚いものは美しい。光に透ける花びらの、和紙のような薄さもすきだ。でも、葉桜特有の緑もすきなんだよな。

 他にもとりどりの花。

連翹
ビオラ
水仙
乙女椿

 白い花々も。

シデコブシ
ユキヤナギ
ハナニラ

 春になると思い出す人たちがいる。桜を待ち望んでいた人もいる。
 花が散ったあと、花の魂が天国にのぼってまたあちらで咲いたならいい。咲き誇る花を見せたくても見せられない人たちが、実はあちらで陽気に笑いながら花見なんてしていたらいい。

 我に返る。花見をしている人たちが何かを喋っては笑いあう声。何かを持ち寄って頬張る人たち、酒が入ってあつく語る人とそれを聞く人たち。
 幸あれ。あの人たちにも抱えるものがあるかもしれない、ただ今はとにかく花なのだ。春の貴重なひとときだから。
 とりとめのない、でもやわらかい言葉を交わしながら歩くわたしたち。いつしかゆっくりと訪れた薄暮れ、ライトアップがあたりを照らしはじめた。
 

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なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」