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伸びる

 正月の料理用に買っておきながら、好物なのになんとなく食べそびれた百合根。知らぬ間におがくずの中で根を張り、ついに瑞々しい緑が蓋を跳ね上げた。気付いてびっくり。

食用とは思えない逞しさ

 特に水やりもしていなかったのに、すっくと伸びた艶々の葉。慌てて鉢や土を買い揃え、植え替えをした。
 
 生命力って、すごい。おがくずしかない狭いパックの中は逆境だったはず。幾ら今年が暖冬で場所が24時間換気システムの室内であるとはいえ、何の手入れもないままよく育ったものだ。
 然るべき時まで静かに根を伸ばし、自ら外に出ようとする。はねのける。強いな。

 でもここからはもっと大きな場所と人の手が要る。新しい鉢、受け皿、鉢底石、園芸用の土、乾燥予防のバークチップ。きちんと順に、深さを見ながら丁寧に植え付ける。おがくずはそのまま土とともに鉢の中へ。これも養分になるはずだ。
 植え付け前には下調べもした。球根から百合を育てるなんて、はじめてだ。植物も命、いい加減な方法論で枯らしてしまってはどうしようもない。幾つもの情報サイトや経験者の文章などを読んだが、あまり手がかからないものらしくホッとした。
 

 植物を育てるとき、甲斐甲斐しく世話をしすぎるとかえって良くないらしい。人の手が頻繁に触れるのは、植物にとってストレスになるそうだ。

 ここ最近、あれやこれやから意識的に距離を置くようにしている。生活の変化が主な理由だが、時間の使い方が変わったからといって百合に対してあまり手を掛け過ぎないようにしようと思う。
 上手くいけばいつかは花が咲くだろう。ダメならダメで、元々は食べて消える運命だったのだから致し方ないこと。

 食用、コオニユリかオニユリか。咲いてみなければわからない。わからないことが生活の中にあり、そのわからなさを承知した上で謙虚に学ぶことはいいものだ。時折また情報を丹念に探しては、必要なものだけを揃えていくつもり。

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」