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step to

 行きたいライブが遠方で幾つか行われる。このうちスタジアムライブは先行抽選申し込みの権利もあったのだが、今回は早々に見送ることを決めた。

 理由は幾つかある。
 まず、感染拡大していること。定期通院のある身だから、万が一にでも罹ってしまうのはよくない。主治医ズやコメディカルさんたちは、わたしの預かり知らぬたくさんの人を診ているのだ。趣味の遠征をきっかけとしてうつしたりしてしまったら、悲しくなるに決まっている。しばらくその音楽は聴くのもつらくなるだろう。
 ふたつめ、わたしの体力がまだまだ回復途上だということ。WWW Xの階段を4階まで上がるのがやっとなのに、長時間の移動はどうだろう。
 みっつめ、移動と宿泊を含めた総費用があれば、別のライブを見たり円盤を購入したりが随分とできるはずだ。勿論、参加する経験はプライスレスだとも思う。ただ、ひとつめとふたつめの理由にみっつめを足したら、天秤がどう傾くかなんて最初からわかりきっていた。

 理詰めで考えていくのは、冷静に現状を把握して心を落ち着けるためのステップだ。すべてが手に入る人生などないし、仮にあったとしてもつまらなくなってしまうだろう。
 限りがあるからこそ、そこに魅力もある。仕方ないことは、仕方ないのだ。

 こういう考えがスッと出てきてまとまるのは、元々の性格や思考の癖ではあるが、闘病から感染症禍へシームレスに連なったことで諦め続けてきた経緯とその影響も大きいだろう。
 そうではない人々の葛藤や切なさを思う。

 いつか、何も深く考えず、とらわれずに楽しめる日が来るといい。そのために日々奮闘しているすべての人に、ただ静かに感謝の気持ちを贈りたい。
 かならず、いいことがありますように。

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」