見出し画像

ひとつだけ

多分わたし以外は誰も気にとめていないことだと思うのだけれど、もしも、もしも本人が見ていたならば・・・・・・と思って、ここに置いておきます。

あのエピソードの話。

点滴を何度も失敗されたら、多分怒る人もいるとは思います。そっちの方が多いのかな。Twitterでも同様の話はよく聞くし、辛い時に辛さを重ねてしまうならば、その気持ちはわからなくはない。

でも少なくともわたしは、苛々したり怒ったりはしていなかったし、その日の担当を変えて欲しいとも思わなかった。あったのは多少の当惑くらいかな。
Sさん、あなたで良かったと、ずっと思ってましたよ。

そりゃあ痛いときは、痛い。
何回もトライして、さらに駆血帯でぎゅうぎゅうのままだもの。締めたままなのを忘れて考え込んでしまうさまがコントみたいな流れで、つい面白くなって(ごめんね)自然とにこにこ笑っていたけれど、まあ腕は痛かった。
でもね、もっと痛いことなんて、生きていく中ではたくさんある。それはもう数えきれないくらいに。
わたしはそうしてここまできたから、良くも悪くも痛みには慣れてしまった。

それにわたしがもし苛々してそれをぶつけたりしたら、真面目なあなたはより焦ってしまうかも知れない。痛い人が増えるだけ。
あなたの心まで痛くなってしまう。

それはわたしの望むものじゃない。

入院前からずっと笑って過ごしていたけれど、それは強がりでも何でもなかった。
わたし、武将なんです。近しい人をがんで亡くしたから、これは敵討ちだった。
だから治療には迷わなかった。超初期だけれど、戦術は確かでないとね。
あの場所では、確かな人たちがわたしに力を与えてくれる。心強いから、笑っていられた。

あなたはおそらく初陣からまだ日も浅いのに、色々とままならない術後すぐにも力を貸してくださいました。たくさんの戦場に同時参加している中で、わたしの布陣でもともに戦うひととして。
いつも一所懸命で、対応の難しい患者さんにもとてもやさしくしているのを、見ていました。それはわたしにとって、確かな光だったのです。

一所懸命にコミュニケーションを取ろうとして話しかけてくださるのだけれど、ちぐはぐで漫才みたいになってしまうお決まりの流れ、あれ結構気に入ってたの。

あなたで良かった。
ありがとうございました。

 
 

*******

実はちょっと気になっていたのだけれど、あなたにしてみたら失敗談のひとつであろうことを、個人がわからないようにしたとはいえ文章にしてしまってごめんなさい。
苦情は受け付けます。
ああ、ひとつだけにならなかった!
 

なつめ がんサバイバー。2018年に手術。 複数の病を持つ患者の家族でもあり いわば「兼業患者」