バーチャルだとかリアルだとか―「むこうのくに」

劇団ノーミーツ「むこうのくに」

8月2日、劇団ノーミーツというフルリモートで演劇公演を行うカンパニーの第2回長編公演「むこうのくに」を観劇した。

フォームか何かでしっかり感想をお届けしたいとは思ったのだが、あまりにも書きたい感想が自分語りが多くなりそうで、気恥ずかしいのでとりあえずこれを機に前々から始めようと思っていたnoteに。この記事はバックヤードにおいてある誰かが置いたお土産みたいなもんだと思っていただければ。

今回、友人が「ぜひ」ということで観劇に至った。劇団ノーミーツのことは勧められる以前から存じており、「コロナ禍に合わせて新たなエンタメを試みている人がいるんだ、行動早いなあ」と思った。それから「この人たちコロナ騒動収束したらどうするんだろ」とも思ったのもよく覚えている。気が早すぎるぞ。


観劇を決める前、最初に「むこうのくに」のストーリーを見たとき、よくあるというか、近年擦られている「バーチャルとリアル」みたいなテーマ?確かにリモート演劇だしそういう筋書きじゃないと演出難しそうだしなーという感想を持った。

もうぶっちゃけもぶっちゃけると、興味をそそられた!これは見なきゃ損だ!という確信めいたものはなかった。そもそもリモート演劇ってTVショーみたいにならんか?リモート演劇ならでは面白みってあるのか?と、とにかく半信半疑。半分信じていたのは勧めてきた友人の感性。

そもそも、インターネットやバーチャルの世界を、作品とか公的なものの題材として扱われるのに抵抗感があった。今でも少し払拭されていない。

好きなものの否定は自分自身の否定

私はされたら耐え難いことが一つだけある。「否定されること」だ。特に、好きなものを否定されることが何よりも嫌だし、恐怖を覚える。

それをほとんどされないのが、私にとってはインターネットの世界だった。今みたいに私がうだうだ考えてこねくり回したものを公開しても誰も文句は言わないし、私が何に興味を持ってもネット上ならうわさにならない。それから面白いことを考えて実践している人がたくさんいて、たくさんの情報にあふれている。新しい物事を知ることが何より楽しかった私は、バーチャルのインターネットが大好きな場所だった。さらにインターネット上にあげた作品が同級生になぜかばれた結果、からかいの対象になったという経験も相まって、「現実よりネットのほうが私は居心地が良い!」という思いを強くしていった。

なのに、それに傾倒していた学生時代、先生は「現実の人間関係が大事」というし、作品はインターネットの恐ろしさを啓蒙するようなものが多いように感じられた。確かにそれらも一理あるが、使い方次第なのに私の「大好きな場所」は否定されている。あの子の「好き」は認められるのに私の「好き」は認められない、誰にも迷惑なんてかけていないのに。

そんな意識が長年少しずつ刷り込まれたように思う。だから「むこうのくに」を知ったときも、見ていて悲しい気持ちになるのではないかと勘繰ってしまった。


だからこそ劇中のバーチャルコミュニティ、ヘルベチカのユーザーには感情移入せずにはいられなかった。自分が自分らしくいられる、愛している場所を不当に奪われる悲しみは計り知れない。自分らしくいられる場所が現実じゃなくたって、それが生きる活力になるならば全く問題ないと思う。


優しく、力強いハルジオン

この作品のメッセージのひとつ、「相手の幸せを願う『友達』の関係って、相手の顔が分からなくても、距離があっても、こころのしくみが少し違っても、会えなくても。たとえ相手がこの世にいなくなっても成立する」っていうこと。この時代だからこそ大きな意味を持つ、けれど普遍的なメッセージで心の底からその通りだと共感できる。そしてそういうことを伝えるためにインターネットだとか、バーチャルの世界を使用してくれて本当に、本当に嬉しい。私の好きな世界を、その世界の在り方を捻じ曲げることなく尊重してくれてありがとう。「むこうのくに」を見て、そんなふうに、私の大好きな世界をみんなに使ってもらえたらこれ以上の幸せはない。何様だって言いぐさだけれど、脱水寸前まで泣き腫らしたのに免じて許してほしい。


それから、自分の未熟さが少し憎らしい。

ストーリーはもちろん、リモート演劇は圧巻だった。基本的に定点カメラであるからこその寄り・離れの演技や演出、印象付けられるカメラワーク、エフェクト、演者のスムーズな切り替えなど…。「リモート演劇」ならではの魅力に満ちていた。フルリモートで運営が本格的に信じられない。デバイスの充電がなくなったことに気付かず、電源が落ちてパニックになるくらいには熱中した。画面越しなのが惜しいくらいの熱演で、とにかく素晴らしくて。新たな演劇スタイルの確立を確信した。

これを確立された劇団ノーミーツの方々はものすごくクリエイティブで求心力がえげつないのだと思う。コメントを読む限り、公演期間内にどんどんブラッシュアップしているらしく、先駆者がいない中で模索し続ける姿勢がとてつもなくかっこよくて、そして私からは遠く感じてしまったのだ。この自粛期間中、私は何も成せていないという悔しさがこみあげてきた。興味関心はそこそこあるのに行動に至らない点を猛省する。けれども、とりあえず感想をnoteに書くのが今の私の精一杯。かもしれない。

まだまだ書きたいことは尽きないが(主に私が前説で受けた衝撃だとか、バトラーとコトリが特に好きだとかそういう犬も食わない話なので割愛)、最後に私を「むこうのくに」に連れていってくれた友人と劇団ノーミーツさま、そしてここまで読んでくださった方に感謝の言葉で。ありがとうございました!


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