【再掲】〈もう 全部作っちまうさ〉の精神で──フレデリック「FRDC DIY STUDIO」に寄せて

※この記事は2022年3月末でサービスを終了したrockin’on.com「音楽文」へ2021年6月に投稿したものを再掲しています。


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6月26日、21時。
フレデリックの公式YouTubeチャンネルで一夜限りの動画がプレミア公開された。
その名も「FRDC DIY STUDIO」


昨年末にも「FRDC STUDIO」と題してYouTubeでアーカイブなしの生配信が行われた。
年末フェスの中止が次々と決まる中で、フェスのステージを再現し、かつ普段のリハーサル風景のような雰囲気もある、ステージの表と裏を同時に届ける配信だった。


前回のFRDC STUDIOと、今回のFRDC DIY STUDIOの違い。
まさしく、今回の配信は〝DIY〟だ。
ステージに立つ「演者」であるフレデリックが、企画からセットの装飾、音響、照明、撮影、映像編集に至るまで、すべて自分たちで作り上げた。


FRDC DIY STUDIOは、タイトルの通りスタジオで収録された。できることは限られているように見えて、公開された映像は想像を超えるものだった。
アリーナの景色を彷彿とさせる演出や生音が強く感じられる聴こえ方、「配信映え」するような映像やカメラワーク、ライブハウスや野外フェスのような熱気、ミュージックビデオを観ているかのような世界観。
一曲一曲の表現に、フレデリックの魅力を知ることができる場所のエッセンスが詰まっていた。


また、通常のライブでは転換をするであろうタイミングで全国ツアーやグッズのCMを流したり、ラストの曲の前にVo./Gt.の健司さんのコメントがあったりするのも面白いと感じた。生配信ではないため曲間をそのままカットしても映像は成り立つように思えたが、そこがあえて残されていることに生のライブらしさを感じた。


ライブや映像などの演出は、ステージを作るさまざまな要素の絶妙なさじ加減で成り立っているのだろう。それを作るというのは、極限まで考え抜かれて、どこまでも精緻で、底が見えないほど奥の深い世界だというのは素人の私でも分かる。
フレデリックは、それを作ってしまったのだ。


元来、フレデリックは「魅せ方」を考え続け、試し続けるバンドだった。
好きになってからまだ日が浅いため、私が実際に観たものはごくわずかだ。しかし、過去の映像やふとした時にメンバーの口からこぼれる思い出話に、その断片が垣間見える瞬間がいくつもある。


表現したいものは、欲しいものは、見たい景色は、全部自分たちで作ってきた。
FRDC DIY STUDIOは、バンドの新しい試みであると同時に、原点回帰でもあったのだ。


この配信について、「作りたかったのは『居場所』」だ、と健司さんは言った。
彼らの「居場所」は、フェスのステージであり、ライブハウスやアリーナでのワンマンライブであり、ミュージックビデオであり、レコーディングスタジオであり。
FRDC DIY STUDIOは、それぞれの場所で感じられるフレデリックの魅力をぎゅっと濃縮した時間だった。観る前は30分という配信時間を短く感じていたが、終わってみれば一本のライブを観た後のような満足感があった。


メンバーが「今後も続けていきたい」と語るこの企画が、回数を重ねるごとにさらに進化していくのが今からとても楽しみだ。そして、ここで培ったDIYの技術やアイデアは生のライブや楽曲制作の場面でもプラスになっていくのだろう。というより、絶対にプラスにしていくフレデリックの姿が想像できる。


〈望遠鏡ばっか見てたら妄想で終わっちまうな もう 全部作っちまうさ〉-TOGENKYO/フレデリック


意志は変わらず、絶えず進化し続けるフレデリックに、さらに期待を寄せたくなった。