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フレデリックとの音楽の旅

「フレデリックの音楽の楽しみ方はいろいろあります。踊ったり手を上げたりして一体感を楽しむ、それぞれの楽器の音や歌のニュアンスをじっくり聴く、歌詞を聴いて自分なりに解釈してあなたの人生に落とし込む……自由に、あなたなりの楽しみ方を見つけてください」

ミュージックジャーニーで健司さんが投げかけてくれた言葉。

フレデリックの好きなところは、聴き手が楽曲を自由に解釈できる余白があること。
新曲がリリースされた時、SNSで他の人の感想を見ているとまるで同じ曲とは思えないくらいバラバラな感想が流れてくる。他の人からすれば私の感想もそう見えているのだと思う。
音楽の趣味がかなり似ている友達とでも、ライブの後にお互い感想を話していると全く違う捉え方をしていたことを知る。
そこが良いな、と思う。

100人いれば100通り出てくるような解釈を、フレデリックはどれも受け入れて認めてくれる。さまざまな感情を持った観客が、ライブ中は一糸乱れぬクラップをするところも好き。一体感と自由さのバランスがすごく丁度いい。


フレデリックの楽曲を聴くと、無意識にずっと抱いていた自分の感情に気付かされることがある。
このツアーでそんな瞬間に何度も出会い、その度に救われたような気持ちになった。私も各地へ音楽の旅に出て、振り返ればそれは心の旅、人生の旅でもあった。



2022.11.3/水戸LIGHT HOUSE
2022.11.14/金沢EIGHT HALL
2022.12.16-17/Zepp Osaka Bayside
2023.1.15/Zepp Sapporo

ライブハウス編とZepp編で参加した5公演、その中でも毎回セトリや演出やアレンジが変わり、一つとして同じライブはなかった。

このツアーで聴いて印象が変わり、自分の人生と共鳴した楽曲のことを書き残しておこうと思った。この先ずっと忘れたくなかったから。

ここからは私の解釈、フレデリックの音楽と人生を旅した私のはなし。



ツアー初日の9月15日、私は入院をした。翌日に手術を控えていた。
もともと決まっていたことだったから、ライブハウス編はなるべく終盤の公演を選んだ。
自分の状態によっては水戸も厳しいかもしれない、と思いながらもチケットを取った。


手術は無事終わり、地獄のような術後数日を過ごして少し落ち着いてきた頃、入院生活のストレスが身体に出てくるようになった。
常に続く鈍い痛み、1人になれる時間があまりにも少ないこと、先が見えないことや退院後の不安、いろんなものが重なって連日眠れなくなった。
日中ですら暇を持て余しているのに、夜に眠ることすらできなくなった。今日は眠れるだろうか、と思って消灯時間を迎えてもやっぱり今日もダメだった。


昼も夜もずっと、退屈で仕方なかった。
考え事をしてどんどんネガティブな方に行ってしまうのは大抵、退屈な時だ。


〈これから命をどうすんの そうよこれだから退屈は〉

ライブハウス編で参加した水戸と金沢は、日替わりの曲が偶然どちらもbunca buncaだった。

そうだった、あの時私はそう思っていた。
入院中の私の感情がこのフレーズに凝縮されていた。



金沢は会場の特性なのか、他のどの会場よりも音が身体にダイレクトに響いた。特にbunca buncaは音の振動が心臓にも伝わってくるほどだった。

術後すぐから翌朝まで、AEDの簡易版みたいな機械を取り付けられていた。心拍数が下がると胸に貼られたパッドに自動で振動が送られる。
その振動が来る度に、自分が無意識に生命活動をサボっているような気持ちになった。思った以上に死はすぐ近くにあることに気づいて怖くなった。


金沢のbunca buncaはその振動とよく似ていた。似ていたけど、音楽のほうがずっと気持ちよかった。
どうせ心臓を動かされるならこっちのほうがいいや、と思った。きっとこれから先もライブに行く限りあの振動を思い出して、文字通り死ぬほど苦しんだことを忘れずにいられる。

初めて長期間入院して大きな手術を受けて、聴こえ方が変わった楽曲が多かった。
結果としてそうなったけど、自分の心のより深いところまでフレデリックの音楽が浸透していったような気がした。



金沢公演のアンコールで、新曲「MYSTERY JOURNEY」の配信リリースが発表され、Zepp編からライブでも披露された。

ツアー中に制作されたMYSTERY JOURNEYは、フレデリックの楽曲の中でも特に歌詞に共感できる。私もこんな気持ちでライブや遠征に行くし、外に出たり人に会いに行ったり、新しいことを始めたりするのも総じて「旅」なんだと思える。

〈退屈がくたばる歌を あなたに届けるまで〉

ラストに健司さんがマイクオフで歌い上げる姿に毎回心が震えた。同じ空間でしか感じられない熱が歌にこもっていた。

フレデリックの歌詞には「退屈」というワードがよく出てくる。bunca buncaもそう。

私を苦しめた退屈はくたばっていったよ。
ミュージックジャーニーは、私の新たな人生の始まりそのものだった。



もうひとつ、札幌公演で印象が変わった曲を。

Zepp編大阪1日目と札幌の
砂利道~他所のピラニア~人魚のはなし~ラベンダ
の流れが、水辺から深海へ潜り、そしてまた陸へと上がっていくように物語が繋がって美しかった。

「人魚のはなし」は健司さんのシアトリカルな語りから始まる金沢公演も、セイレーンに導かれるまま海の底へ沈んでいくようなZepp編の始まり方も没入感があって、ただただぼうっと音楽に見蕩れていた。

自分の美しさを疑わず、自信に溢れていた主人公が外の世界と出会い挫折を経験する。初めて聴いたときからそんな物語を思い描いていた。


札幌公演の前日、友達と遊んでいてノリで占いに行ってみることになった。
占いはそんなに信じていないけど、占い師さんと1対1で話すのには興味があった。ここのところ上手くいかなくて気持ちが沈んでいた毎日のことも少し聞いてみたかった。
全体的にへー。ってなる結果だったけど、「自分を責めすぎている」「自分に自信がないことで一歩踏み出せないでいる」という言葉にはやっぱそうだよな、と思った。


「自分を信じる勇気を持て」
中学校の卒業式で担任の先生がくれた一言。クラスの一人一人に別の言葉で宛てたものだった。
それまでさほど意識したことはなかったけど、その言葉で自分に自信がないこと、人からもそう見えていることを知った。
それから十数年経っても、私は何も変わっていなかった。

フレデリックがきっかけで出会ったラジオ番組がある。その番組のメインターゲットは10代の学生で、毎週さまざまな境遇にある学生の声や悩みが届く。
メインのリスナーと比べれば私は大人だけど、大人になんてなれていなかった、と聴いていると思う。10代の頃の自分と比べれば世界も広がったし自分の扱い方も分かってきたけれど、10代の頃に解決しておくべきだった問題から逃げ続けたツケが今回ってきている。




〈外の世界を知らず 自分が一番美しいと思ってた
彼女はナニモシラズに ただ鱗を磨いていました〉
〈広い世界をわからないでいた あの頃の時間を
少しも考えずに 気づかないでいた 時間は過ぎてく〉


自信がなくて嫌いな自分にずっと甘んじていた。自分の悪い部分が許せないから自分で価値を下げて傷つける、そうすれば免罪符になるし、何より楽だった。他人からの評価がすべてですぐに流されて。

それもまた自意識過剰だった。

人魚とは対極にいると思っていた私も、なにもわからず、誰かが認めてくれるのを愛してくれるのをただ待っていた、井の中の蛙だった。

「自分を愛する」なんて甘い響きのくせになんて難しくて苦しいんだろう。でも乗り越えなくちゃ変わらない。変われない。
原因は分かっているし直そうとしていても、すぐに卑下の誘惑に負けてしまう。
9月の手術だってこれまでの自分を変えたくてやったんだ。あとは心だけなんだよ。自分の良いところも悪いところも自分でちゃんと認めてあげたい。他人に左右されない自分の軸をしっかり持ちたい。


フレデリックは過剰な謙遜をしないところが好きだ。自分たちの実力や魅力を理解していて、何より自分たちの音楽と生き方に自信を持っていて堂々としている。
その姿は、外の世界に辿り着いた人魚が出会った〈あの燃えてる球体〉と少し似ている。



ライブ中の自分はそんなに嫌いじゃない。
好きなことをしている時間でもあるし余計なことを考える暇もないくらい音楽に集中できる。
ここまで書いた感想もリアルタイムでこんなに言葉が出てくるわけではなくて、音楽を浴びている瞬間に感じるのはもっとぼんやりとした、言葉にもなっていない感情。何かに怯えることもなく自分の心を素直に受け止めて、音楽と感情が溶け合う場所で揺蕩う時間は心地好くて安心できる。
そう感じるのは、心に柔らかく触れてくる音楽で互いを認め合い、寄り添ってくれるフレデリックだからこそだと思う。


そうやって自分を許せる時間を、日常でも少しずつ増やしていきたい。簡単なことではないけど、自分の心にナイフを向けたくなったとき、このツアーで感じたものをふと思い出せたらいいなと思う。


次にフレデリックのライブに行く頃には、また曲の聴こえ方も変わってくるかもしれない。
また会う時までに、ハローの次に使う言葉を考えてみたい。


今までフレデリックのライブで得られる感覚を一言で表すことができなかった。ただ、同名の作品がリリースされることをきっかけに新たな言葉を覚えた。意味を知って、フレデリックにぴったりだと感じた。

フレデリックのライブは、優游涵泳。




余談、ツアーの仕掛けのこと。

このツアーでは旅をテーマに、ライブ本編以外にもいろいろな仕掛けがあった。その中でもお気に入りをいくつか。


まず、FRDC MUSIC JOURNEYプレイリスト。


ファンが選ぶ「移動中に聴きたいフレデリックの曲」とメンバーが選ぶ「ツアー中に聴きたい曲」を合わせたプレイリスト。飛行機での移動中は毎回これを聴いていた。このプレイリストのおかげで!!!にハマりそう。

曲の繋がりがすごく良いプレイリストで、特にGrand IllusionからRAINY CHINA GIRLの流れが美しすぎて演出かと思った。初めて聴いたとき、それまでうとうとしていたのに一瞬で目が覚めた。

家を出てから帰るまでの時間の流れも感じられる。大阪公演のとき、着陸前に飛行機が雲から抜け、大阪の街や淀川が見えてきたタイミングで流れたのが

〈川を渡る 君が住む街へ〉

スピッツの水色の街。大阪の2daysは大阪に住む友達と一緒に行くことになっていたのもあって、さらに感動した。


次はこちら。めちゃくちゃお世話になった。

FREDERIC MUSIC JOURNEY MAP · FRDC TRAVEL AGENCY


地元のファンが選ぶ各地のおすすめスポットが載っているマップ。王道の観光地から地元民に愛されるマイナーなお店まで網羅されている。
ミュージックジャーニーで各地を訪れた時もそうだし、札幌でも知らなかった場所があって行ってみたりして、フレデリック以外のアーティストのライブで遠征した時にも役立った。今後も参考にさせてもらいます。



そして一番テンションが上がったのは開演前と終演後のアナウンス。ライブハウスを飛行機に見立てた遊び心が最高。ややウケ前提のチーフパーサーのMCが好きです。
それから本物の飛行機のアナウンスもちゃんと聴くようになった。


他にも入場時に貰える搭乗券やMYSTERY JOURNEYのフォトスポットなどなど、ライブ以外の時間もこれまで以上に楽しむことができてたくさんの思い出ができた。



最終便まで楽しく駆け抜けられますように。また次の旅路で逢いましょう!
最高の旅をありがとう!!