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Oral history 孫家溝(スンジャーゴウ)

磧口からバスで1時間ほどの三交サンジャオで降りて、また1時間ほど谷あいを歩くと孫家溝スンジャーゴウという人口800人くらいの小さな村があります。

私は昨年11月にこの村を訪れました。元代に始まる古建築が残されている村だと聞いていたので、写真を撮りに行ったのです。

そして当然のように、ここにも日本軍の足跡はしっかりと刻み付けられており、突然の日本人の到来に、ワヤワヤと村人たちが集まってきました。日中村にいるのは老人と学齢前の幼い子たちばかりですが、その中の3人の老人たちから話を聞くことができ、例によって、MP3に録音して、後にサンア老師ラオシに標準語に翻訳してもらいました。

今回はこのときに撮った写真を渡すのが目的でこの村に行ってきました。私は時々に撮った写真で、あとで現像してあげるからと約束したものは、どんなことをしてでも本人に渡したいと思っています。中国人の知り合いがいうには、「いいのよ、そんなの相手も本気にしていない」らしいのですが、なんだか私はそれが義務というか、信義というか、郵送もおぼつかない“僻地”で撮った写真など、それを届けるのが第一の目的で、中国に限らず、時に数百キロの大旅行すら敢行してしてしまうところがあるのです。

で、孫家溝に入ってすぐに写真を見せたら、さっそく彼らの家に案内してくれました。「本気にしていなかった」からかどうかわかりませんが、とても喜んでくれて、たった1枚の写真で正月の餅や粥までたらふくごちそうになってしまいました。

これまた中国人の知り合いが「いいのよ、残しても」というのですが、出されたものが質素であればあるほど、全部たいらげて、「おいしかった」といってあげるのが礼儀=相手が喜んでくれると考えてしまうのは、きわめて“日本人的”な心情なのかもしれません。もっとも、中国人の食事はとにかく量が多いので、その量に苦労することもたびたびですが‥‥とまれ、小麦粉をカラ煎りして、落花生と豆腐を潰したものを入れて煮込んだ粥というか、塩味のスープは、身体も心もほんのり温めてくれました。

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ちょうど小学校の校庭で太鼓と踊りの練習をしていました。腰に付けた太鼓を敲きながら踊るヤオグーというのがこの地方の伝統で、元宵節(正月最後の日)には近隣の村々の男衆が集まって勇壮な踊りを見せてくれます。張芸謀の映画で見た、茫々たる高原の黄砂をもうもうと巻き上げて激しく踊り狂うこの本場のヤオグーを見るのが、実はここに来て私がもっとも楽しみにしていることのひとつなのです。                                       (2006-02-03)

孫明海老人(75歳・男)の記憶  孫家溝

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日本人と金皮隊(*日本軍に雇われた中国人の‶ならずもの″集団)は三交を出発しては村人から略奪した。私が日本人の工事をやらされていたとき、彼らに一緒に来いといわれて行った事がある。ときに日本人はトーチカの上から我々を監視していたこともあった。彼らと金皮隊が村に行って略奪した。なんでもかんでも略奪した。帰ってくるときはみんな背中に大きな荷物を背負っていた。

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