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日本のクサアリ検索

森林でよく見かけ、黒くて艶のあるクサアリ類は、日本のアリの中で特に同定の難しい仲間です。図鑑で紹介されるような二択を繰り返す検索キーでは正直難しいと感じていました。最近ようやく各種の違いが腑に落ちてきましたので、同定形質を並べることで理解しやすい検索を試みます。


ワーカー5種の同定

クサアリ類の同定には、腹柄節の形状が重要です。しかしながら、複数の形質を確認できると良いでしょう。

腹柄節の形状

腹柄節の形状

クサアリ類は、基本的には腹柄節の形状のみで同定可能です。腹柄節の形状を側方からと前方(あるいは後方)から確認します。側方は丸いか尖るかを確認し、前方からはフシボソクサアリとテラニシクサアリを識別することができます。ヒラアシクサアリでは側方から見た時に、前側に角があります。

個人的には側方から見て丸いか尖るかの違いが、特にモリシタクサアリなどで僅かなため、二択の検索キーで誤る可能性があると感じた点でした。

触角柄節の断面形状

フシボソクサアリとヒラアシクサアリでは触角柄節の背腹-左右方向の幅の差があまり無く(>0.7倍)、丸い形状をしています。

他の3種では背腹方向に扁平になっており、左右方向に比べて0.7倍より幅が小さくなります。背側から検鏡すれば確認できます。

前胸背板の立毛

重要な形質で、後述する女王の識別にも関係します。

長いか短いかは、おおよそ立毛と立毛の間の幅と比べての長さで、次の図のような違いを想定しています。

前胸背板の立毛 長いと短いの例

体長

絶対的ではありませんが、同定前におおよその当てをつけるには使えます。フシボソクサアリとテラニシクサアリはとても小さい個体を含みます。対して5mmを超える個体が多いコロニーは、それだけでヒラアシクサアリか後述のオオクロクサアリにほぼ絞ることができます。

宿主

クサアリ類はどの種もケアリ属に一時的社会寄生をします。宿主は概ね種(群)特異的で、環境でいそうな種の当てをつけることができる場合もあります。
例えばフシボソクサアリは宿主のヒゲナガケアリのほうが見つけやすく、ヒゲナガケアリの生息する森林で見られます。

クロクサアリ種群の同定

クロクサアリは、学名が変遷して2024年現在も学名未決定の種です。
上記の5種の検索の中で「クロクサアリ種群」について詳しく同定します。

経緯

はじめは Lasius fuliginosus とされていた

Lasius fuji Radchenko, 2005 が記載され、ユーラシア大陸の東側はこの種ということになる

日本のクロクサアリには複数種が含まれることがわかってきたが、どうやら L. fuliginosus でも L. fuji でもないらしい

ひとまず学名未決定の3種ということになっている

クロクサアリ種群の同定

日本産アリ類図鑑(朝倉書店2014) には次のように記されます。

体長以外は相対的な表現をされているため、
私は今のところワーカーでの識別は理解していません。

体長について、私の観察ではクロクサアリで4.5mm程の大きめなコロニーを観察していますが、5mmは超えていません。オオクロクサアリでは6mmに達する個体も見受けられました。

女王については中胸背板の立毛で識別可能とのことですので、次の図のようなことかと思っています。

立毛の長い女王と短い女王
日本のクロクサアリ種群については不明

女王の同定

女王の識別はワーカーに比べれば少し簡単で、腹柄節(ワーカーと同じ)に加えて前胸背板の立毛の有無・長さと、後脚脛節の形状が使えるようです。

※前胸背板の立毛は検証不十分のため誤りあるかもしれません
 クロクサアリ種群は前項参照

後脚脛節の形状は肉眼でも確認しやすく、ヒラアシクサアリとテラニシクサアリでは顕著に平たくなっています。ヒラアシクサアリは以前クサアリモドキと呼ばれていましたが、女王の形態をもとに良い名前がつきました。

ヒラアシクサアリ女王の扁平な後脚脛節



以上、クサアリ類 4+3種の同定形質を紹介しました。
既存の図鑑よりはわかりやすくなったはずです。

どの種も日本に広く分布しており、見つける機会はあるでしょう。
さて最後に、生態写真を載せておきます。

4種のクサアリ類
見た目は…同じ

参考文献
日本産アリ類図鑑
Key to Lasius Dendrolasius workers of the East Palaearctic
岐阜のアリ
クサアリ女王たちの見分け方 : ありんこ日記 AntRoom


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