第91期ヒューリック杯棋聖戦

第一局

渡辺明三冠の心情を推し量る。
本人も述べられているように、「羽生・藤井政権の間にあたる」という認識。
https://news.livedoor.com/article/detail/17105968/
自分は将棋の天才であると自認し、それでもなお、「将棋星人」と言いたくなるほどの強さを持つ2人。
http://i2chmeijin.blog.fc2.com/blog-entry-11898.html

政権交代はいづれ訪れるとしても、その転換点が自身であることは何が何でも阻止したい…と考えるのではないだろうか。
理由として
①最盛期(タイトル、勝率等)
②客観的なレーティングでもトップ(挑戦者の藤井七段除く)
③自他ともに認めざるを得ないほど棋界のトップ(対抗に豊島二冠・永瀬二冠がいるが)
④この状態で負けるということはキャリアのどの時点で(2020/6/8時点での)藤井七段と対戦しても勝てない…という評価に結び付けられかねない。
(ここで負けたら「藤井七段称賛」と「一生自虐ネタ」で擦り続ける未来が待つ。)
⑤タイトル初挑戦(+最年少記録更新)で、タイトル奪取(+最年少記録更新)を、
ただのタイトル保持者ではなく、その時代での棋界最強者に対して成し遂げるというマルチインパクト。
(「ただのタイトル保持者」という表現は語弊があるがあえて。「三冠」と比較した場合という意味)
⑥単純に自身が政権交代の転換点として明白な当事者になることへの忌避
(タイトル奪取を退ければ、今棋聖戦時点では政権交代にまではならなかっという証明になる。)

第一局における敗北は、上記を背負った状態としてはあまりにも痛すぎる。
感想戦で珍しく…本当に珍しく、歯切れの悪さが出ていたように思う。
(自分の記憶では、渡辺三冠がここまで歯切れが悪い感じだった記憶がない)
普段であれば、
①場面場面での形成の良し悪し
②番勝負中では同型にならないと予測される場面での具体的な指し手の意見交換
③詰・不詰の読み切り場面
等を自分から率直に発言するし、相手の意見を聞くことを厭わない。が、今回はいつもほどの明朗さがなかった。
(感想戦がかなり短かったことも影響はあると考える。
それにしても、自分の中に落とし込みまとめることがあれ程できていない様子……、
渡辺明三冠からは(棋士の中でも最も)縁遠いと思われた「茫然自失」という状態に陥っているように感じてしまった)

個人的には「22銀と打って相手に手渡しを行っても、自玉は不詰め」と藤井七段が読んだ(朧気にでも見えた?)場面がどこかが気になったが、
それが明確に判明することはなかった(何を言っても推測にしかならない。)


渡辺明三冠史上、相当上位に入るであろう「一戦」であり「対局内容」だったのではないだろうか。


棋界における「世紀の瞬間」を見たい気持ちもあるけれど、
阻止する未来も同じくらいみたいんだよなぁ~。(むしろこちらの未来がみたい)
どっちの未来だとしても、このタイトル戦を振り返られる時間が経った時、
渡辺三冠が「タイトル戦前」「タイトル戦中」「タイトル戦後」それぞれの時点において、
どういう心境で、どういう感想だったのか……、
あの率直な語り口で語られる未来が待ち遠しくてたまりません。


※以下 6/28追記

第二局

渡辺三冠の先手番。勝者は藤井七段。内容は圧巻。渡辺先生のブログを読んでもどこで形勢を悪くしたのかは不明と書かれている。……つまり、どういうことだってばよ??あれだけ大局観に優れた渡辺三冠が、『先手番』にもかかわらず、苦しさも感じずにいつの間にか形勢を悪くするとか意味不明。今後、研究は勿論されるのだろうけど、果たしてどんな結論を出されるのか。


※以下 7/10追記

第三局

局後

①動画名 第91期 ヒューリック杯棋聖戦 五番勝負 第三局 渡辺明棋聖 対 藤井聡太七段
②投稿者 ABEMATV将棋チャンネル
③URL  https://abema.tv/channels/shogi/slots/Aku8KJpDpGsddh
④引用する部分の時間・分・秒  10:17:10頃~
⑤内容 村瀬記者のインタビュー

以下、局後インタビュー内一部文字起こし(筆者が気になった部分)

村瀬記者
結果は勝利といういい結果だったわけですけど、
勝利にも色々…「快勝」ですとか、「苦しみながらも掴み取った勝利」ですとか色々あると思うのですけど
この一局はどんな勝利だったという印象でしょうか?
渡辺三冠
(答えている間も考えながら途切れ途切れに、)(初めに10秒程度考えてから)そうですね…、
作戦が当たったところがあるので……、
勝ち方の「ぶり」としては、それはあまりいいモノ(勝ち方)ではないんでしょうけど、
カド番だったので、(勝ち方にこだわるような)贅沢を言える将棋ではなかったのかなと思うので……、
勝ちという結果に満足して次に向かいたいと思います。
(※筆者注()内は筆者の脳内補足。補足が正しくない可能性があるので悪しからず。)


少し気になったこととして
申し分ない勝ち方に思えるのに、インタビューで「勝利」としてどういう印象かを聞かれた時にネガティブ目な返答だったこと。
将棋の内容以上に、藤井七段にかかる期待の大きさを渡辺三冠まで感じ過ぎてしまっている感じがした。
ヒール役を意識させられているというか…。

研究を深くまで行うことが悪いことであるわけはない。
もしかしたら、普段渡辺三冠であればしないような研究の仕方をしたのかもしれないが、そこに負い目を感じる必要は、わずかですら、ないと思う。
(渡辺三冠の感覚として普段と違い、勝利の要素として研究部分の占める割合が強すぎて「実力勝ち」という感覚を得られないことも大きかったのかもしれないが…。)

渡辺三冠が、
いつもどうしても「カメラの背」なポジションにされがちなことに対し、言葉にしづらい何かを筆者は感じずにはいられない第三局の局後。
同情なのか怒りなのか哀しみなのか諦観なのか…どれも含まれるようなこの微妙な感じ。
このシリーズ、筆者としては渡辺三冠に勝ってほしい気持ちが強まった一局…というか『局後』だった。


※以下、7/16追記

第四局(決着局)


藤井七段が有利になってから緩んだ手は一つもなく、付け入る隙はなかった。
この第4局だけでなく、棋聖戦番勝負中全てで有利になってから逆転を許すことがなかったように思う。
ただでさえ凄まじいことなのに、攻めの鋭い渡辺三冠を相手にして全く寄せ付けないというのは尋常ではない。
普段、渡辺三冠は形勢が悪い将棋でも終盤の一瞬の切れ味で逆転し勝ち切るという場面をとてもよく目にする。
これは単に相手がミスをする……ということではなく、
相手に隙を作らせる、という技術が卓越しているから起きることである。
たまたま起きた隙ででなく、意図的に作らせた隙。

将棋界で語り継がれる伝説の一つである、第21期竜王戦羽生名人対渡辺竜王の打ち歩詰めによる逆転劇は将棋ファンならずとも知っているであろう。
かの伝説の一局も、渡辺竜王(当時)が羽生名人を打ち歩詰めの局面に誘導しきっての勝利であった。
その後(ご存知の通り)、3連敗からの4連勝(しかも棋界最強羽生善治に対しての逆4タテ)し、
初代永世竜王は渡辺竜王が獲得する結果となった。
(当該局に勝てば永世竜王獲得であった所を惜しくも敗れたことにより、
その後、羽生名人が永世竜王の称号を得るまでに更に9年かかることになる)

その渡辺三冠をもってしても崩れない・崩せない藤井七段。
最後の最後も自玉の不詰めを読み切って踏み込み続け、鮮やかに相手玉を討ち取る。

結果、藤井七段が見事な勝利をおさめ、
第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負は三勝一敗という戦績にて
「藤井棋聖」誕生
と相成った。

史上最年少タイトル獲得という偉業は勿論のこと、
現、最強棋士である渡辺三冠からの奪取という事実。
タイトル戦全ての局が名局賞候補で違和感のないほどの熾烈な激闘・内容であり、今後の将棋界の歴史で間違いなく伝説として語り継がれるタイトル戦となった。


勝った藤井棋聖に心からの祝福を。

藤井聡太さん、棋聖獲得おめでとうございます!







(しかし、内容があまりにも凄まじすぎて、「これ番勝負で誰が勝てるの?」という疑問がどうしても頭から離れない。
これからのタイトル戦、藤井棋聖が挑戦すれば獲得し、防衛戦にあたっては防衛をし続ける未来しか浮かばないのだけれど……。
今後の棋界が(藤井棋聖無双になりすぎるのではないか?と)逆に心配になる、そんな第91期ヒューリック杯棋聖戦でもあった。
現実は小説よりも奇なりとはいえ、限度がある。fictionも真っ青青なんだよなぁ。こんなん現実感がなさ過ぎて小説の方が裸足で逃げ出してまうわ。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?