しつけ

犬を飼っている。

中型犬と小型犬で、
10歳と9歳だ。

飼い始めたのは、14歳になる年で
まだ、生き物の世話をするのがどういうことか
なんてわからないまま飼い始めた。

犬はとにかく神経質で臆病な性格だった。
硬水に慣れるまで、いつまでも下痢をしたし
あまり人にも慣れなくて、吠え癖が
なおらなかった。

当時のわしも神経質だった。

犬はきちんとしつけないといけない。

そればかりを考えて世話をしていた。
完璧主義でもあったのだ。

犬の飼育方針で、母と人生初の大喧嘩をした。

母は犬にたくさんおやつを与えた。
中型犬の方は避妊手術以降、食欲が増加して
まんまるに肥えた。
気づいたときにはもう手遅れで、体重が
20㎏まで増加した。
わしは何度も、犬の肥満は人間に比べて
病気のリスクが上がることを訴えたが、
エサの量は変わらなかった。
見かねて自分でエサをやるようにしても、
わしがエサをやれない日に母がたんまりと
あげてしまう。

そんな犬の飼育方針の違いが積み重なり、
わしは上げたことのない怒声を母にぶつけた。
結果は何も変わらなかったが、
代わりに自分の考え方が変わった。

学校に行っている間の犬の世話は
母がしてくれているんだと思い、
自分のいる時間にできることをすればいいのだと
ある種の諦めだった。

そうして飼い始めて11年目の今年、
1人で犬の世話をするようになった。

10年も経って今更、
犬と向き合った。

10年間、きっちりしつけをすることに
重きを置いて世話をしてきたわしは、
犬を可愛がった記憶があまりないことに
気づいてびっくりした。

きっかけは獣医さんの一言だった。

「目を見てほめてあげて。
この子はちゃんと飼い主をみてる。」

ハッとした。

しつけをすること、世話をすることばかり
考えていて、純粋にかわいく思うことが
あまりなかった。
犬の目を見てほめたことはあっただろうか。
あったとしても、それはしつけの一環だった。

犬の意志。
飼い犬である前に、犬も1つの命だ。

うまく言葉にできないけれど、
いままで大事な何かに気づかずに
犬と過ごしていた。
気づくまでに10年もかかってしまった。
知らなかったなんて言い訳にもならないような、
なんてことをしてしまったんだろう。
けど、命の半分以上をかけてそれを犬が
教えてくれたんだから、
残りのじかんを大事に過ごすことが
わしにできる犬への恩返しなんじゃないかな
って、思わないと、
いつまでも後悔してしまいそうだ。

いい飼い主ではないかもしれない。
けど、今日も変わらず目を見てくれる犬に、
病院を変えたことで出会った獣医さんに、
感謝しかない。

犬がいてくれたことで、わしが逆にしつけられた
そんな気持ち。
すぐにわしの生活習慣とか犬の世話の仕方が
変わるわけではないけれど、
けど、愛おしいってこういうことなんだって
思えるようになった。
犬がわしをどう思っているかはわからないけれど
でも、目をみると、すきでいてくれていることは
わかる。気づかなくてごめんね。
生き物って、なんて尊いんだろう。
真っ直ぐな命に頭が上がらない。
教えてもらうことばかりだ。

ほんにありがとうね。
わがままを言うと、寿命いっぱい生きてほしい。
そして、いなくならないでほしい。
ひとりでいける自信がない。
10年も使ってくれたのに、残りのじかんも
お願いしてばっかりで、
ほんとにもう、ね。人間って、ね。

_φ(・_・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?