南のシナリオ大賞のこと

南のシナリオ大賞というコンクールを知っていますか?
日本放送作家協会九州支部が毎年行っているラジオドラマのシナリオのコンクールです。他のシナリオコンクールに比べると、賞金も少なく、知名度もあるとは言い難いですが、毎年、300作品ほどの応募があります。

なぜ、こんなに応募数が多いかというと、15分の短いシナリオなので、初心者でも応募しやすいということが1つありますが、最大の魅力は、大賞受賞作はオーディオドラマとして制作してもらえ、1年間、九州支部のホームページ上で聴くことができることだと思います。

私も過去に5回ほど応募したことがあります。最終選考に3回、二次進出に1回、一次落ちが1回です。最終選考に残った作品と一次落ちした作品の差は、今でもよくわかりません。ただ、一度も受賞はできなかったという事実だけが残りました。

実は、南のシナリオ大賞の目玉はもう一つあります。最終選考ドキュメントと称して、最終選考に残った作品の講評が議事録としてHP上に掲載されるのです。あの日、私は、最終選考に残った作品の講評を読もうとドキドキしながら、ページを開いて愕然としました。褒められるどころか、ケチョンケチョンにけなされていました。「なんで・・・」他の作品も同じようにけなされていて「何!この人達!」と悔しさがフツフツと湧いてきました。
「どんな人達が最終審査しているのか、審査会場を見てみたい」と、家族に愚痴を言った気がします。

私のこの願いが、何年も経って、なんと先日、叶ったのです。うーん、叶ったというのはちょっと違うかも。なにしろ、もうそんなことも忘れていたのですから。ちょっと長くなるのですが、どうやって叶ったのか?という話をしますね。実は、3年前に九州支部の会員に推薦していただきました。あの頃はTCPの最終に残ったり、コンクールで受賞したりが続いたので、声がかかったのだろうと思います。
会員になったその年に、南のシナリオの一次審査を頼まれました。いわゆる下読みというものです。自分が出していたコンクールの一次審査をさせていただくというのは、正直、迷いました。「私でいいのかな?」という気持ちと、審査員を引き受けてしまったら、もう自分は「南のシナリオ大賞」に応募することができないという複雑な気持ちがありました。

結果、審査を引き受けることにしました。その時に決めたことは、応募者の作品に向き合うということです。コンクールに応募する人達の気持ちは、痛いほどわかります。誰しも一生懸命、考えて書いたものを応募するのです。そんな心のこもった作品を、1つ1つ丁寧に、見落とさないように読んであげたいという気持ちで審査させていただくことに決めました。

昨年、私が一次審査で選んだものが、大賞を受賞しました。本当に嬉しかったです。審査する喜びというものを味わいました。
そして今年は「南のシナリオ大賞の実行委員になりませんか?」というお話をいただきました。実行委員は最終審査に参加させていただけます。重責でしたが、お受けすることにしました。今回は、一次審査と最終審査に参加させていただくことになりました。

で、最終選考会の話です。審査員の4名と私の5名での選考会になりました。驚いたことに、受賞者が決まるまで、担当者以外の4名には、最終選考に残った作家さんの個人情報はあかされません。名前はもちろん、年齢も性別も一切の情報がなく、作品のみで審査していきます。これはとてもいいことだなと思いました。作品のみに集中できるので、審査しやすかったです。今回、私が一次審査で選んだ作品も入ってました。きっと最終選考に残る作品だと思って選ばせてもらったので、再会した時、嬉しかったです。

最終選考に残った作品はどれも甲乙つけがたいほどよい作品ばかりでした。
で、わかったんです。どの作品も素晴らしいので、マイナスを見つけないと受賞作が決まりません。選考会ドキュメントを読んで「口が悪い」と批判される方もいるでしょう。私もそう思っていました。
でも、最終選考に参加してみて思ったのは、審査員がそれぞれの作品に真剣に向き合って討議しているということです。もちろん、プラスの意見もたくさん出ます。でも、長丁場では全部の議事録を掲載することができません。もしかしたら敢えて厳しいアドバイスを選んでいるのかもしれません。なぜなら、そこが改善されれば、その作品はもっとよくなるという期待が込められているんだと思います。

お昼も食べずに4時間の選考会を終え、その後、別件のミーティングも入っていたので、帰る頃は夕暮れでした。
帰りの電車の中で、流れ行く窓の景色を眺めながら、受賞できなかった作品の物語を1つ1つ思い出していました。笑えるもの、切ないもの、優しいもの、温かいもの、どれも素敵な作品ばかり。
皆さんの作品を読ませていただき、幸せで温かな時間を過ごせたことに感謝を伝えたいです。本当にありがとうございました。

と、そんなことを思っていたら、降りる駅を間違えてしまい、結局、駅のベンチで夜空を眺めて、次の電車を待ちました。
朝からトースト一枚しか食べてなかったんですが、全く空腹は感じませんでした。2022年10月22日、幸福感がその日の食事になりました。

今回、実行委員をさせていただいて、思ったことを書いてみました。
南のシナリオ大賞に応募していただいた皆さん、本当にありがとうございました。どうか、また来年も、沢山の人達に応募していただけたらと思います。最終審査員は口は悪いかもしれませんが、心根の温かな方たちです。
なにより、シナリオを愛している面々です。
タイムマシンがあれば、昔の私に教えてあげるのですが・・・。







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