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ギャンブルをやめられないのは人間進化の帰結(報酬系と脳内麻薬)

 この記事は一応、投資やトレードについての技術を紹介するつもりで書いているが、トレード中毒の人、競馬やパチンコ等のギャンブルをやめられない人ソシャゲのガチャに大金を注ぎ込んでしまった人などにも読んでほしいと思っている。

 かく言う私もFXで1000万円以上お金を溶かしている生粋のギャンブル中毒者なので安心(?)してほしい。
 まだ時折、発作のようにミスを犯すこともあるし、正直マジで死にたいと思ったこともある。どうかこれ以上同じような悲しい思いをする人が増えないよう有益な情報になったらいいなと思う。


ポジポジ病とは?

 主にFXトレーダーが陥る病気。「とにかく常にポジション(玉)を持っていないと気が済まない」という心理状態を指す。

 以下に症状例を列挙するが、トレード初心者に多く、原因はトレード技術の未熟さ、リスク管理の甘さなどと言われている。
 ポジポジ病に罹患すると、証拠金を溶かすだけでなく、トレードをしていない時間でもイライラしたり、仕事や他の作業に集中できなくなったり、日常生活にも悪影響を及ぼす深刻な疾病である。


症状例

①一日の取引回数が数十回に及ぶ
 スキャルピングをしている訳でもないのに、とにかくエントリー回数が異常に多い。そして負ける回数も多い。

②勝率が低く収支がマイナスである

 勝率が低いのは、条件が不十分でもとりあえずエントリーしてしまうからである。

③どれもこれも「勝てそう」に見える
 自分の中ではエントリー前は優位性が高いと信じて挑戦しているが、ポジションを持った直後から含み損を脱することなく損切りに終わる。ロスカット直後に途転して翻弄されたり、同じトレンドにひたすら逆張りを繰り返したりしてしまう。

④ナンピン癖がある
 限度やルールを持たずにナンピンしてしまう。最初のポジションの含み損が拡大しても損切りができずに、かえってナンピン玉を追加することもある。

⑤ポジションを持っていないと落ち着かない
 相場が動いているのを見ると、何となくソワソワしてしまいエントリーしたくなる。ティックや現在値がゆらゆらと脈動しているのを見ると焦燥感が出てきて、気づいたらエントリーしている。

⑥休んでいるともったいないと感じる
 ポジションを持っていない時に大陽線が伸びたり、トレンドが進行していくのを見ると「しまった。もったいない」と思ってしまう。待つことがなんとなく怠けているような錯覚に囚われて、急かされるようにエントリーしてしまう。

⑦トレードをしていない時も相場が気になる
 現在トレードをしていないのにも関わらず、マーケットが開いている時間になると相場のことが気なる。仕事や家事の際中、トレードができない出先などでもついつい相場をチェックしてしまう。

⑧トレードをやめられない
 負けているのに熱くなっていつまでも取引を繰り返してしまう。また、途中まで勝っていたとしても、不意に欲が出てエントリーしてしまい、結局その日の利益を失ってしまう。



ポジポジ病はギャンブル依存症の一種


 勘違いしている人が多いが、いわゆる「ポジポジ病」は単なるスラングではない。トレードというスリリングなゲームに中毒になっている状態であり、れっきとしたギャンブル依存症である。

(一財)ギャンブル依存症予防回復支援センター

ギャンブル依存とは
「ギャンブル依存とは、その人の人生に大きな損害が生じるにも関わらず、ギャンブルを続けたいという衝動が抑えられない病態をいいます。勝ちを追い求めて、最後には掛け金をたいてい失ってしまいますが、そのような行為を人に隠したり、貯金を使い果たしてしまったりします。借金が膨らんで、盗みや詐欺行為に手を染めてしまうこともあります。そして、最終的には生活が破綻して、深刻な事態に至ります。」
 「環境要因として、ギャンブルを始めた初期に大勝ちした経験がある、ギャンブルにアクセスしやすいなどの環境はギャンブル依存のリスクを高めると考えられます。ギャンブル依存は、若い人や中高年によくみられますが、ときに高齢者にもみられます。性別では、男性に多い傾向があります。」

 この説明を読んでドキッとしなかっただろうか?「ギャンブル」の部分を「FX」とか「トレード」に置き換えても意味が通じてしまう。
「ポジポジ病」は、ちょっとふざけた可愛らしいネーミングにしているが、その実態は精神疾患なのである


報酬系と脳内麻薬

 ギャンブル依存が起こる仕組みは、人間の脳の作用が深く関わっている。

 人間の脳には「報酬系」と呼ばれる神経回路が存在する。ここでは人間の生存に必要な報酬、つまり「食物」や「魅力的な異性(セックス対象)」を発見すると、脳内に「ドーパミン」という神経伝達物質が分泌される。

 人類の進化的には、食物を得るために採集や狩猟に行って、木の実や魚を発見することに喜びを感じ、あるいは子孫を残すために魅力的な異性に出会うと、ところ構わず興奮していた。人間の脳は「自己の生存」に関わるトリガーに対してドーパミンを分泌し、この報酬系の作用に従って行動した者だけが遺伝子を残すことができたのだ。

 脳内でドーパミンが分泌されると、報酬系の回路が刺激され、脳は興奮状態になり、我々は「気持ちいい感覚」を味わう。ドーパミンによって脳内に生じるこの快楽は、抗うことのできない衝動であり、これがすべての「依存症」の原因なのである

 ラットの脳に電極を埋め込んで、報酬系に刺激を与えた実験(以下リンク参照)では、より具体的に報酬系のメカニズムの恐ろしさがわかるだろう。

 人間についても、報酬系が快楽を求めることは、どんな犠牲を払ってでも優先されてしまう。時間や労力をどれだけ費やしてでも、また恐怖や苦痛さえも乗り越えてでも手に入れたい衝動なのである。



報酬系の落とし穴

 ギャンブル依存症について調べて知ったのだが、人間の報酬系には重大な落とし穴がある。

①ドーパミンは判断力を奪う

脳内にドーパミンが分泌されると、前頭前皮質という冷静な判断を司る領域の活動を停止させてしまう。
 好きな異性を前にすると相手に夢中になって知能指数が下がってしまうのも、店員がイケメンや可愛い子だと何故か買うつもりのないものまで買ってしまうのも全部ドーパミンのせいだった。

②ドーパミンが分泌されると直前の行動が強化される

 ドーパミンが分泌されると、脳はその分泌のきっかけとなった行動(キーイベント)を記憶し、また同じ行動を繰り返したくなる。正確には、ドーパミンの放出の原因となったと脳が認知した行動が強化される。

 つまり、本来なら報酬系が作用しなかったはずの行動にも快感が伴うようになり、その行動を繰り返すようになるということだ。例えば、最初は「セックス」に対して快感物質が出ていたのに、段々と「服を脱がせる行為」にも快感を抱くようになっていき、遂には「下着を見た」だけエッチな気持ちになるようになる。フェティシズムや異常性癖も全部これで説明できる。

 LINEの通知が気になるのも、Twitterのタイムラインをスクロールすることにも微量のドーパミンが放出されている。だから我々は何となくいつまでもスマホを触ってしまうのだ。

③脳は「予想外」を大きく評価する

脳は良いものであれ悪いものであれ、予期せぬことを大きく評価する。
 たとえば、子供の頃イヌに噛まれた経験のある人は、大人になってもイヌを見るとちょっと警戒するだろうし、宝くじに当たった経験のある人は「また当たるかもしれない」と期待しているのではないだろうか。

 逆に、脳は確実に得られると予めわかっている報酬にはあまり喜びを感じない。「感動に慣れてしまう」とも言える。
 この「予想外を大きく評価する」脳の働きのせいで、統計データ上は自動車で交通事故に遭う確率より圧倒的に少ないはずの飛行機の墜落を心配してしまうのだ。人がパチンコや競馬にハマってしまうのも「過去に1回だけあった大勝ち」の喜びを脳が忘れることができないからだ

 ギャンブル依存症やポジポジ病患者にとって最悪なのが、脳は「期待(予測)」と「得られる報酬」の誤差が大きいほど強く興奮するということだ。
 例えば、ポジポジ病の人がいい加減なエントリーをすると大抵は負ける。彼らはトレードが下手なのでほとんど勝てない。しかし試行回数が増えると運よく利確できることがある。これが報酬系にとっては最大の刺激となる。
 この偶然の幸運が報酬系に過大に評価されるため、エッジ(期待値)の低い取引であるにも関わらず、同じミスを繰り返してしまうのである。

④報酬系にリスクリワードの発想はない

 報酬系が快楽を求める場合、たとえそれがどんなにリスクの大きな行動であっても、報酬が得られる期待があると感じれば、賭けに出てしまう。そこに合理的な判断はない。
 我々の先祖は、何万年も続いた狩猟採集時代に森や海に行っては何度も何度も狩りを試みた。失敗しても諦めずに狩りを続けた者だけが生き残った。人類は皆ギャンブラーの子孫なのだ。
 死ぬまで刺激を求め続けたラットの例のように、報酬を手にするためにはどんな犠牲払うことも厭わないのが動物の本能である。危険や恐怖を感じても脳はドーパミンを放出して理性的な判断を抑制し、勇猛果敢に挑戦してきたのだ。


衝動は自分の意思ではコントロールできない

ポジポジ病気の対策としてよく言われるのが、

・メンタルをコントロールする
・勝てる時が来るまで待つ
・事前に決めたトレードルールを守る
・一日の取引回数、許容損失額を決めておく

 このような一見もっともらしいようなまとめで締め括られている記事がネット上には溢れている。だが、ここまで見てきた報酬系のメカニズムを踏まえると、これらの対処法はどれも見当外れだとわかるだろう。

「意思」の力では制御できない

 ポジポジ病に陥ったことのある人ならわかるだろうが、自分のメンタルを自分の意思で制御しようと思ってどうにかなるなら、誰も依存症になったりしていない。「待とう」と決意したりマイルールを作ったりという試みは、まともにトレードに向き合っている人ならみんなやっている。それでもザラ場が動いていると、反射的にエントリーしてしまう。だから病気なのである。アルコール中毒や薬物依存が意思の力で抑えられるだろうか?

「感情」の問題ではない

 よくある誤りで「トレードで負けたことで感情的になって闇雲にエントリーしてしまう」という認識もちょっと違う。負けたことで熱くなることはあるかもしれないが、ポジポジ病の人間は、勝っている状況でもいつまでもトレードがやめられないのだ。

報酬系の神経回路が変質してしまっている

ポジポジ病の患者の脳は、ドーパミンの作用によって「勝つこと」の前段階、つまり「トレードする行為」そのものに快感を感じてしまっている。
本来であれば、利益確定に成功した瞬間に興奮物質であるドーパミンが放出されていた。ところが、トレードを繰り返すうちに快感のきっかけとなった直前の行動、すなわち「流動ポジションを持つこと」、そして今や「発注ボタンを押すこと」自体にあなたの報酬系はドーパミンを分泌するようになっている。ポジポジ病の患者は、勝つか負けるか以前にトレードする行為そのものに対して興奮し快感を抱いている(プロセスへの依存)。だから「ポジションを持っていないと落ちつかない」のだ。


対処法

 ポジポジ病が報酬系の作用に起因する依存症であるとすれば、当然その対処法も依存症の治療法に近いものになってくる。

依存症についてもっと知りたい方へ(厚生労働省HP)


「えっ、、、」



「トレードやめるしかなくね?」




 正直、ポジポジ病を快癒できれば、もう何も怖くない。それは自力で依存症から立ち直るほどの自制心と習慣をあなたが独力で手に入れたことになるのだから。


手軽にできる方法

 個人的に割と有効だったと思う方法を紹介する。(本当に一番役に立った手法は別途記事にしたいと思う)

睡眠をしっかりとる
 8時間以上が理想的。たっぷり寝れば無駄なエントリーが減らせるとは限らないが、個人的体験として睡眠不足の日は必ずと言っていいほどトレードが荒れるものだ。

運動する
 健康的な生活をすると、ちょっとだけ自制心が強くなる気がする。

オーバーナイトしない
 深夜帯まで引っ張っても含み損だったポジションが翌日にプラ転することはまずない。潔く損切りしよう。ロールオーバーした分だけ損失が広がってしまう。これを徹底すると。遅い時間帯には負けていても撤退ができるようになる。

ワンクリックトレーディングをオフにする
 発注に一手間増えることでオーダーを入れる前に我に帰ることができる。損切り注文を入れる瞬間に損失を意識したり、ロットを下げようと冷静になれたりする。また簡単にポンポン玉を追加できなくなるため無駄エントリーが減る。

画面を見るのをやめる
 ティックが動くのを見ているだけでストレスが溜まるため。ストレスは自制心を無くさせ、無駄なエントリーを誘発する。PCを閉じるのも有効。


「大損を経験したら治る」のか?

 これは私の見解だが、多分「治らない人は治らない」のではないか。私自身最大で一日に85万円失ったことがある。この時も証拠金がゼロになり、物理的にトレードができなくなるまで中断することはできなかった。
「大損を出したことでリスク管理の重要性に気づいてトレードで結果を出せるようになった」という話はよく聞くが、これはショック療法的にポジポジ病を克服したわけではない。いつまでも損失を出し続ける可能性も十分考えられる。


初心者だけに起こる問題ではない

 我々の脳は、過去に体験した成功トレードの興奮を忘れることができない。この点においてポジポジ病は初心者が陥りやすい病気ではない。むしろある程度トレードで結果を出した人、大勝ちした経験のある人ほど報酬系の作用によって陥りやすいという場合もあるだろう。

 ポジポジ病は人間の進化の帰結である。ギャンブル依存症になるのも、別にその人の意思が弱いとか環境が悪いという理由ばかりが原因ではない。

願わくば、これを見た人がもうこれ以上無駄なエントリーを重ねて、損失を出さないことを祈る。



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