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ボリンジャーバンドが当たらないのは使い方が間違っているから

「これを見たら今すぐMT5の画面からボリンジャーバンドを消せ」

 今回言いたいのはこれだけだ。FXをやるためにボリンジャーバンドは必要ない。むしろ表示させていることで無駄な逆張りや早過ぎる利食いを誘発してしまい成績が下がることさえある。本当に必要な時にはアテにならないシグナル、それがボリンジャーバンドの正体だ。もう一度言う。「ボリンジャーバンドを消せ」





標準偏差とかいう嘘

 テクニカル指標を勉強していくと大体5日目あたりにボリンジャーバンドを知るのではないだろうか?そしてほとんどの初学者がその魅力的な説明に心を奪われる。
 「ボリンジャーバンドは移動平均線とその上下に引いた線の束のことであり、それぞれ標準偏差を表している。統計学上、株価(為替)が±1σの
範囲内に収まる確率は68.2%、±2σの間に収まる確率は95.4%、±3σに収まる確率は99.7%である…」
 「これは使えそう!」と誰もが思う。そして何となくMT5に表示させて、為替チャートの動きがわかったかのような錯覚を抱いてしまう。これが初心者が陥る罠である。

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 非常に大切なことだが、「標準偏差が通用するのは、確率分布が正規分布に属する性質のものだけ」であるということだ。そして株価や為替チャートは必ずしも正規分布する訳ではない。だからボリンジャーバンドをチャートに表示しても無駄である。


正規分布するもの

 「確率分布が正規分布する」とはどういうことか?簡単に言うと、たくさんデータを集めると、①平均が一番多くなって、②平均から離れていくにつれて数が急激に減ってくるような確率の分布をしているということである。


・同じ品種のリンゴの重さ
・日本人男性の身長
・ゴールデンハムスターの寿命
・いくつかのサイコロを1000回振って1が出る確率

 日本人の身長は男性なら170cm前後にほぼ収まる。3mを超えるような日本人(異常値)は絶対に存在しない。サイコロの出目も同じである。特殊な細工がされていない限り1の目は1/6の確率で出る。試行回数が2〜3回なら1が連続で出ることもあるだろう。しかしサイコロを1000回振れば、結果は理論値の1/6に限りなく近づく。これが確率が正規分布に収まるということだ。


正規分布しないもの

 問題はこの世の中には、正規分布には収まらない事象がたくさんあるということだ。


・日本人の金融資産額
・2021年に国内で出版された本の売上数
・世界中の都市の人口
・アメリカの企業の時価総額
・1年365日の中で交通事故が起こる頻度
・惑星の質量

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資産形成ハンドブックより

https://shisankeisei.jp/20180828-how-much-financial-asset-does-single-person-household-own/

 金融デリバティブの専門家ナシーム・ニコラス・タレブの名著『ブラック・スワン』にこの辺は詳細もっと詳しく書かれているが、自然界の現象の多くは正規分布に馴染まない。むしろ正規分布に収まる確率分布をする事象の方が稀であって、株価や為替チャートの変動は不確実性の代表格であり、タレブは「マンデルブロ的」なランダム性だと言っている。


 要するに正規分布に収まるのは、同じ種の動物の体高や体重のように本来的にほぼ同じ値に収まるべき値(実際にはほんの少しだけ大きかったり小さかったりするため誤差=偏差がある)に限られる。おそらく「東証の一日の総売買金額」は約2~3兆円を中央値に正規分布に近くなるだろうが、「ソフトバンクの株価」は正規分布には似つかないだろう。


値動きのランダム性は確率ではない

 相場の値動きがコイントスのような「上か下かの1/2」だと思っているなら、あなたはいずれ近いうちに相場から退場するだろう。株式や為替の価格がジグザグ動くのは売買の結果である。そして市場には様々な時間軸で取引をしている多数の投資銀行や機関投資家、ヘッジファンドが存在する。これら多様な市場参加者がそれぞれの思惑をもって意図的に、または自動的に常時無数の決済を行なっている。
 相場におけるランダムな動きとして「ショック」というのがある。これは経済指標の発表やFRBの要人発言のようなファンダメンダルズ的な材料による急騰急落ではなく、何にもないはずの時間帯に不意に起きる相場急変を指す。(事前にわかっている雇用統計のようなイベントは本来は不確実性とは呼ばない。)

BB、原因不明1

  この日の暴落原因は不明である。少なくとも何か材料があった訳ではない。言うなれば、相場の仕組みによって偶発的に生じたショックである。
 事後的に説明をつけるなら、直近安値に引いたサポートラインの他、その近辺に多数の「意識される価格帯」が密集していた。ここに直近の上昇トレンドが抵抗に遭い失速、上値が重く、そのままMAを割って下落に転じた。この下落転換により、サポートラインを割った結果、次々と売り方の予約注文が発動したために35pipsにも及ぶ急落につながった。このようにしか説明がつけられない。

BB、原因不明

 この突然の急落は、予測不能という意味でランダムだし、どこまで下落が進行するかわからないという意味でも完全にランダムな動きである。当然ボリンジャーバンド3σにも収まっていない。(よもや0.03%の偶然が現れたとは言うまい。)


バンドウォークの存在

 「ボリンジャーバンドの範囲内で99.7%推移する」とは、例外となる0.03%のショック相場を除外しても役に立たない。トレンドにおいて現れるローソクが±2σまたは±3σに沿って動く現象(この動きをバンドウォークと呼ぶ)が存在するからである。
 スラストの際には必ずボリンジャーバンドがガーっと拡大していく。拡大するバンドの動きは「エクスパンション」と呼ばれる。エクスパンション発生時、ボリンジャーバンドは「今ボラティリティが大きいので、今後の動きはめちゃくちゃ広範囲に変動する可能性があります」としか教えてくれない。

 これは逆から言えば、ローソクの動きをボリンジャーバンドの偏差の範囲内に収めるためには、バンドをどんどん拡大しなければスラストを捕捉できないということである。レンジブレイクによってトレンドが発生すると、つまりボラティリティが大きくなると、台風の進路予報円のように予測範囲を拡大しなければ、99.7%の中には収めることができないという訳だ。ここにボリンジャーバンドの限界がある。

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 トレンドにおいてバンドが拡大する際にはバンドウォークする側のみならず、中心線を挟んで反対側のバンドも拡大する。トレンド中の調整余地は-200%以上あり得るということである。つまり「どこまで調整するかはまったくわからない」と言っているようなもだ。本当に必要な時にはアテにならない奴、それがボリンジャーバンドの正体だ。



ボリンジャーバンドによる戦略の欺瞞

 「ボリンジャーバンド 使い方」等で検索して出てくる手法は、はっきり言って移動平均線による最も単純な売買手法に劣る。トレンドで長い波動を取れるのは何もボリンジャーバンドだけではない。というかトレンドはSMAでもGMMAでもMACDでも勝てる。何ならRSIだけ使っても勝てる。


トレンドにおける手法
 ①バンドが収縮している時、±2σをブレイクしたらエントリー
 ②ローソクが±1σを割った(超えた)らイクジット

BB手法SMA

これだけ長いトレンドでありながら「スクイーズ状態からの±2σブレイク」という限定的な条件でなければトレンドを特定できないため、利益機会が著しく減ってしまう。(中心線である25SMAに従ってホールドすれば、このような長いトレンドは全部取れるのに…)

比較:トレンドにおけるSMA手法(n=13)
 ①MAを上抜けたらたら買い、MAを割ったら売り
 ②トレンドの方向(MAの向き)には逆らわない

BB手法SMA

 当然、長いトレンドはGMMAとRSI等を組み合わせた手法ならほぼ全部取ることができる。



逆張り指標は上位足で表示したら役に立たない

 ボリンジャーバンドがトレンドで使えないとしても、逆張り指標として、つまり「利益確定の目処には使えるのではないか?」と考えるかもしれない。

 しかし、仮に今見ている時間軸でローソクの実体が+3σにタッチしようとしているとしても、「そろそろ反転するだろう」と考えるのは間違っている。なぜなら、チャートを一つ上の時間軸で表示した瞬間に、すべてのオシレーター系指標は意味を失うからである。本当に利益機会とすべきトレンドは果てしなくバンドウォークを続ける。そういう利食いを伸ばすべき場所で早過ぎるサインを出してしまうのがボリンジャーバンドを逆張り指標として使うということだ。
 確かにトレンドはいつ終わるかわからないから、ちょうど3σで調整されることもある。だが、ボリンジャー3σでドンピシャの利食いができることよりも、長いトレンドを取り損なうことの機会損失の方が圧倒的にもったいないと私は思う。



 トレンドを把握する目的でも、レンジにおける反転の目処にするにもボリンジャーバンドはとにかく中途半端で、そのくせ「いざという時」には広すぎる範囲を提示し、もしくは沈黙を貫き、私は何度も裏切られた。だから私はボリンジャーバンドを信じない。


 以上、ボリンジャーバンドを表示する意味があまりないと思う理由である。


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