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17年前の今日、あなたの声は生で聞けなくなった。

2007年5月27日。2限の授業の準備のために入ったキャンパス2階の教室にある私のパソコンのスクリーンに、ZARD坂井泉水さんの訃報を知らせるネットニュースが映された。

まだ寝ぼけまなこの私を目覚めさせるのには十分すぎる内容だった。まだ朝10時頃で、朝が弱い私がこの不都合な事実を受け止めるのはとても無理な話だった。

周りの学校の友達は割と平然と過ごしていて気にしない人も多かった。自分と違う感情の人がたくさんいることが坂井さんがいなくなったショックをより増長させた。

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私は子供の頃から坂井さんの歌声が大好きだった。

我が家は自家用車で移動することが多く、車の中でカーラジオをよく聞いていた。当時はJ-POP最盛期で、年に何曲もミリオンヒットがあった。ラジオからはひっきりなしに歌が流れていて、私はそこから自然と歌を覚えるようになった。日曜日の朝の三宅裕司さんのランキング形式で曲を紹介するニッポン放送の番組をよく聞いていた。

ZARDの曲は当時、テレビのコマーシャルやアニメでよく使われていた。『スラムダンク』の「マイフレンド」や『中華一番!』の「息もできない」は、その切ない歌詞で子供の私を大人の世界に連れて行ってくれる感覚さえあった。

特に私が印象に残っているのはポカリスエットのテレビコマーシャルだ。スチール缶やアルミ缶でできたポカリスエットはもう見なくなったけど、あの時代の夏の暑い日の飲み物といえば缶のポカリだった。

コマーシャルの内容は、ひとりの高校生の女の子が、同級生の女の子や片思いの男の子とのやりとりが主だった。その情景を表すには坂井さんの歌詞と歌声が必要だったのだ。

このコマーシャルで使われた「揺れる想い」と「心を開いて」は今でもよく聞いていて、カラオケでもよく歌っている。特に「心を開いて」は、高校生の頃にいつも持ち歩いていたiPodで、元気がなくなったり心が疲れたときに心のサプリみたいに取り入れていた。人付き合いが苦手だった坂井さんも自分への贈り物として「心を開いて」を作ったのかもしれない。

ちなみに「心を開いて」はYouTube の公式チャンネルで2000万回以上も再生されている。聞いたことがない人は今日のこの機会にぜひどうぞ。

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坂井さんの歌詞の一人称は常に「私」、二人称は「あなた」だった。自分の気持ちを素直に表現できない思春期の女の子の、心電図の波形みたいに揺れ動く細かい心情を坂井さんは言葉で見事に表現していた。

背が高くてスラっとした引っ込み思案なお姉さんが、人の脳裏にスッと入ってくる歌声がテレビやラジオから流れてくることはかなり減ってしまったけど今はサブスクで何度でも彼女の歌声にアクセスできる。


歌声を聴いて泣いちゃうだろうな。








iPodで聴いていたあの頃みたいに。

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