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【Vol.01】ディープな花屋にならないかい?

「究極な花束を作る」

それは、物語と時間が込められている。
受け取った瞬間、自然とのつながりや自らの生を感じられる。
その答えを探す旅が始まったな、と思う。

・・・

「花と向き合うために、花を育てよう。だってここは長野県だから!」

馬酔木の大群集を見た私は、さっそく花農家さんを探すことにした。市役所の農林課を訪れ、「新規就農がしたいです!」「花農家さんはいらっしゃいますか?」と単刀直入に聞き、担当者と話をした。とても盛り上がったが、私が住む街には専任の花農家さんは残念ながらいらっしゃらなかった。

であれば、街を出るしかない。私には、知っていた花農家さんがいた。それは、安曇野の「YARI FLOWER FARM」を経営する田中彰さん。東京で「ex. flower shop & laboratory」というとんでも無くおしゃれな花屋さんがあるのだが、そのお店の立ち上げ人の方だ。その後、3年前に長野に移住し、新規就農で安曇野に農園を立ち上げた。情報発信も積極的におこなっており、何よりファーマーでありながらフローリストとしての活動も行なっており、店舗営業もしていることが、理想の将来像に重なった。たとえ私が将来農家になろうとも花屋になろうとも、生産と販売の流れは大切にしたいし見せていきたい。とても良いモデルだと感じたので、農園のことや代表の田中さんの記事をたくさん調べた。

すると、田中さんには師匠がいることを知った。長野県・青木村の沓掛さんという方だ。マイクロポンポンダリアという小ぶりで可愛いダリアの名付け親でもあり、温度管理を行わない自然農法・露地栽培のスペシャリスト。「これは連絡するしかない!」失礼も承知で、SNSを通して連絡した。

「とりあえず来なさい」

と言ってもらえたので、早速青木村へ。おばあちゃんから譲り受けたボロボロのヴィッツのエンジンが不穏な唸りをあげながら、山道を駆け上がっていく。自宅から約1時間半。指定された場所に到着した。

正直に言えば、「ここに農園あるの・・・?」と不安にもなった。沓掛さんと初めてのご対面。快活で明るい方だった。「ここから車で5分くらいだから!」逞しい軽トラの後を着いていく。右を向けば急斜面の崖。絶対、この車で来る場所じゃないよな・・・なんて思っていると、農園に到着した。

「とりあえず畑を見てみるか!」

知らない植物ばかりだった。見たことはある植物もあったんだけど、名前が出てこない。「これは何?」「これは知ってる?」沓掛さんの全部の質問に答えられなかった。山椒の匂いすら分からなかった。

「花を知らない花屋が最近多すぎるよ!」

全く、ごもっともでございます。

綺麗で華麗に出鼻を挫いてくれたおかげで、ある意味気持ちよく挫折することができた。自分の無力や無知を知って逆に清々しくなっちゃって、もうこりゃダメだ、1からやり直そう!みたいな感じ。一通り農園を見学させてもらった後、沓掛さんと二人でお茶をした。

「なんで来たの?」

「花のことをちゃんと理解した、本質的な花屋さんになりたいからです。そのためには、生産からやらなきゃダメです。自分で作りたい花束は、文字通り自分で作りたいと思ったからです。」

嘘偽りのない言葉で、本音をぶつけた。

「よし。じゃあここにおいで!自分で育てて、出荷までやってみろ!」

なんと、畑を貸してもらえることになった。「もうちょっと早く来てくれたらな」と沓掛さんが仰る通り、植栽のシーズンは終わってしまっていた。だけど、なんとか間に合うかもしれないということで、弟子にしてもらった。まさか初年度から自分で花を選び、育て、出荷できるなんて思いもしなかった。全身の細胞が「行け!」と沸き立つ感覚がした。抱えていた不安が飛び、純粋にワクワクした。

沓掛さんは、生産から販売までを一気通貫でできる花屋を「すごろくの上がり」と表現する。花の付加価値を最大限に高める行為は、贈る相手のことを想い、自らの感性も反映させた花を作ることなのかもしれない。

考えてみれば、衣服の世界では「オートクチュール」という言葉がある。
顧客から注文を受けた服を針子が手作業で製作し、完成した服を注文した顧客に提供することを意味する。私の母は、オーダーメイドで服を作る職人だ。血は争えないかな、なんて思ったりもした。

さて、ここで沓掛さんの紹介である。
パワフルで快活、そして変態と呼んで良いレベルで花への知識に富んだ方。一緒にご飯を食べたりお茶を飲んでいる時にたくさん色んなことを教えてくれるけど、私の知的好奇心がガンガン刺激される。

元々、大田市場にも勤めていた方で、その時の担当が「ソノタノクサバナ」。バラや紫陽花といった大カテゴリーに分類されなかった異端児をまとめて扱う品目で、「名脇役」と呼んで良いほどとにかくクセがある植物が多い。良い映画は主役より脇役の方が大事って言われるように、花束で個性を出すには、こういった個性派の植物を重宝する。

「ソノタノクサバナ」に魅了された沓掛さんは、市場を退職した後、とにかく色んな植物を育てるようになった。山採りをして、見つけた植物を同じ種族の植物を育てたり、気候に合わせて品種を考えたり。私の沓掛さんの印象は「とにかく試行錯誤を繰り返してきた人」。その時間と経験が、あの知識量になったんだなと感心してしまう。

「ディープな花屋にならないかい?」

沓掛さんは私に行った。

「その所存でございます」

私はニヤッと笑い、深くて濃い花の世界への一歩を踏み出した。

沓掛フラワーファーム


・・・


沓掛さんとの初対面の後、山道でヴィッチの前輪がパンクした。
ホイールごとひしゃげて、ボロボロのタイヤで山道を下っている時は死ぬかと思った。どう考えてもスペックが山に対応できていない。

軽トラが欲しいです!笑

どちらにせよ、四躯の車がいるよなあ。。。
誰か乗ってない車あったら教えてください。










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