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2021年の振り返り⑥(最終回)おじ様への手紙

拝啓

おじ様へ。

こちらは段々と冬の足音が近付いてきて、風も切るように冷たくなってきましたが、そちらは暖かいですか。

初めて会った時のこと、今でも鮮明に覚えています。

70歳というお歳には思えない程の、ピシリと伸びた背中。
ギョロリとした眼。

正直、少し怖かったです。

JTに長くお勤めだったこともあり、あなたは煙草をくゆらしながら、私にも吸うよう勧めましたね。

「なんや。あんたはフィリップ・モリスか。まあええわ」

私の取り出したマルボロメンソールライトを見てそう言いつつ、煙の向こうであなたはゆったり笑っていました。

彼の家族から結婚を大反対されていた私をじっと見て、こう言いましたよね。

「あんたはちゃんと苦労しとる目や。真っ直ぐや。儂はあんたが気に入ったぞ」

その言葉を聞いて泣き出した私に、あなたはオロオロしてティッシュを探してくれました。

私は今まで人から「人生舐めてるよね」とか「苦労してないからそういうこと言えるんだよ」としか言われて来ませんでした。
だから、あなたからの言葉が強く強く響いたのです。

あなたの後押しのお陰で、私は無事に結婚できました。
本当にありがとうございます。

披露宴でキャンドルサービスに行った時、照れながら「仲良くしいや」と言ってくれたこと、今でも忘れていません。

「身体だけは元気なんや」と言っていたあなたが入院し、ICUに入ったと聞いた時は、心臓が止まりそうになりました。

時はコロナ禍。
「行っても会えないから」という夫に、私は感情的になってしまいました。

「死んじゃったら、それこそもう会えないんだよ!?」

母の死に目に会えなかったことを、思い出してしまったのです。

私の母は、私が幼稚園に入ってすぐに病気が発覚し、入院生活を送っていました。
小学2年生の時、授業中に学年主任の先生が突然教室に入ってきて「帰り支度をしなさい」と私に言ったのです。

訳も分からずランドセルを背負って教室を出ると、親戚のお兄さんが待っていました。

「凛、落ち着いて聞いてね。お母さんが、さっき、病院で、死んじゃったんだ…」

そっか。
お母さんはもう、いないんだ。

案外冷静に受け止めました。
私には妹が居たからかもしれません。
自分がしっかりしないと、と思っていたのかなと。

でもやっぱり、家族の死に目に会えないことは、とても辛いことです。

だからあなたに会いに行きたかった。

しかしそれは叶いませんでした。

人を断絶する憎い感染症のせいで、私はあなたのお葬式にも行けませんでしたね。

ごめんなさい。
ごめんなさい。

でもきっと来年には、あなたがいるお墓にお参りに行けると思っています。

あなたの好きだったセブンスターを持っていきますね。
天国では、きっと煙草も自由だと思いますから、たくさん吸ってください。

おじ様、ありがとうございました。
あなたのおかげで私は今日も元気に生きています。

いつかまた一緒に、煙草吸いましょうね。

敬具


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