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結婚記念日の夜に

毎年結婚記念日は旅行をすることにしている。
いや、「していた」のだが。
今年はゴタゴタがあり、特にそうした話が出なかった。

さて結婚記念日当日。
まぁそういう気分でも無いだろうと思い、いつも通りに普通の食事を夕方から準備し始める。

主菜はキャベツと豚肉で味噌煮込みを作って、汁物はお吸い物かな。
副菜は何にしようか…。

と、先にお吸い物を作り終えた時だった。
いつもよりかなり早く夫が帰ってきたのだ。
慌てて玄関に向かう。

「お帰りなさい! お疲れ様です。早かったね?」
「今日結婚記念日だから、ワインとケーキ買ってきた」

そう言って夫が両手の袋を掲げた。
まさか結婚記念日を覚えていたとは。
すっかり忘れていると思っていたからビックリだ。


ウォーターストーン スタジオ・レッド ナパ・ヴァレー(アメリカ)

ナパ・ヴァレーはカリフォルニアにある一大ワイン産地。
イタリアワインが好きな夫にしては珍しいなと思ったら、ワインショップのソムリエさんに相談して選んでもらったそう。

コクがあってブドウの果実味が濃いのに、渋さや酸味が少なく、とても飲みやすい。
きっと私の好みを伝えてくれたのだなと思ってジーンとしてしまった。

こうなると夕食は路線変更せねばなるまい。
すでに作ってしまったお吸い物は翌日に回すとして、家にある食材の中から赤ワインに合う料理を組み立てることにした。


白海老せんべいのカナッペ

まずはアミューズ。
冷蔵庫からクリームチーズを取り出し、すりおろしニンニクと塩コショウを入れて練る。
これをクラッカーに載せればカナッペになる…と思ったら肝心のクラッカーが切れていた!

何か代わりになるものは無いかと捜索したところ、富山産の白海老せんべいを発見。

薄くて香ばしいからクラッカーの代わりになるんじゃね?
クリームチーズは和食材とも合うからきっと白海老もイケるはず。

ということで塗って黒コショウを振ってみた。

驚くようなマリアージュは特に生まれなかったけれど、普通にイケる。


ブロッコリーとベーコンのホットサラダ

次は前菜。
冷凍庫にブロッコリーがあったので、フライパンに入れて水と一緒に加熱して解凍。
レンジでチンするとベチャベチャするのでフライパン加熱がオススメ。

一度ブロッコリーを取り出し、フライパンにバターを落とす。
卵にマヨネーズを入れてよく混ぜ、バターの溶けたフライパンに流し入れて半熟状になったら取り出しておく。

フライパンにオリーブオイルを足し、3cm幅に切ったベーコンを弱火でじっくり炒める。
ブロッコリーを戻して塩コショウと粒マスタードを入れて混ぜ混ぜ。
最後に卵を戻し入れてふんわり炒めたら完成。

赤ワインに負けないように粒マスタード多めにしたのが勝因。


ペスカトーレ

いよいよメイン。
と言っても今から牛肉の煮込みなんて作れないし、そもそも牛肉が無い。

冷凍庫を漁るとシーフードミックスが見付かった。
よし、簡易ペスカトーレにしよう。

シーフードミックスを塩水に漬けて解凍し、パスタ用の鍋で湯を沸かす。
ニンニクをみじん切りにしてフライパンに入れ、オリーブオイルと一緒に弱火にかける。
香りが立ったら鷹の爪の輪切りを入れ、ホールトマト缶をぶち込む。

トマトを潰しながら塩コショウと茅乃舎の「野菜だし」を袋を切って投入し、煮詰まってきたら火を止める。

スパゲッティを茹で、茹で上がり1分前にフライパンにシーフードミックスを投入して中火に。
白ワインを入れてアルコールを飛ばしたらパスタが茹で上がるので投入し、全体を混ぜて出来上がり。

簡易的なので魚介の旨味がちょっと足りないけど、まあまあな味。


デザート

左がチョコレートケーキで右がガトーショコラ。
とりあえずチョコレート系のケーキを買って行けば間違いない、と分かっているのが流石である。
伊達に10年以上私の夫をやってない。

思いがけない形で記念日を祝うことが出来て本当に良かった。
感謝。




恐らくあと数カ月後、私たちは別々に暮らすことになる。
生活を共にしないのに婚姻関係を続けることに意味はあるのか、についてはふたりでよく話し合った。

「俺はもう凛ちゃんを解放してあげたほうが良いんじゃないかと思ってる。今まで家のことを全部やってくれたおかげで俺も仕事に集中できた。でもこれからはそうした仕事も無くなるわけだし、もっと若い男と結婚して養ってもらったほうが良いんじゃないかな」

こうして文面にすると冷たい物言いに聞こえるかもしれないが、夫が私の将来を心配してくれていることが十分に伝わった。

「もし離婚したいならそうするけれど、もうあなたは60歳を過ぎているわけだから、これから何が起きてもおかしくない。万が一の時に、私が『妻』という立場なら、してあげられることは色々あると思う」

そもそも結婚を決めた時から、私は夫の最期を看取るつもりでいた。
学もスキルも無く、若さと容姿しか取り柄の無い女に「妻」という社会的地位を与えてくれた夫は恩人でもあるのだ。

夫が今後どのような生き方をしても自由だけれど、やっぱりひとりで孤独に死なせることはしたくない。
他に結婚を考えている女がいるのなら別だが、最期は傍にいてあげたいと思うのは私のエゴか、それともお節介か。

粛々と、淡々と日常は過ぎてゆく。
夫がこの家で生活する限り、私は仕事をこなすだけだ。


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