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そろそろ誉田哲也という天才について語りたい

「ストロベリーナイト」「武士道シックスティーン」「プラージュ」など、映像化作品も多数ある小説家・誉田哲也。
メディア化によるヒット作を生み出しているものの、彼は文壇界においてさほど大きな評価を得ていない。

私は15年来のファンだが、彼はハッキリ言って天才である
もっと評価されるべきな誉田哲也について熱く語りたい。



純粋から狂気まで

誉田哲也は非常に幅広いジャンルを書く作家だ。
キラキラとした青春小説や心躍る音楽小説を書いたかと思えば、硬派な警察小説や人間の闇をえぐり取ったようなアングラ小説まで、ほぼ書けないジャンルは無いのではと思うほど。

作品全てに共通するのは痛いほどのリアリティだ。

読者が味わったことのない経験でも「きっとそうに違いない」と思わせるだけの説得力ある筆致。
読んでいるだけで思わず登場人物に共感し、心が震え涙が出るような、切羽詰まった心理描写。

中でも特筆すべきは女性の心模様だ。
作者は本当に男性なのか?と疑ってしまうほどにリアルな女性の心理が繊細に描かれている。

そんな彼の小説の中から特に傑作だと思える小説を紹介したい。



ノーマンズランド(2017年)

「ストロベリーナイト」から始まった、女刑事・姫川玲子シリーズの9作目。
「国境事変」などから作者は拉致問題に強い関心があることは分かっていたが、本作は拉致被害者家族の痛みと苦悩を鬼気迫る描写で書き切った作品。

外国に拉致された日本国民を何故奪還できないのか、憲法と自衛隊の関係など、日の目を浴びにくい事情の一端を知ることができる一冊。
無理矢理姫川玲子に絡めた、と言えなくもない作品だが、彼女のロマンスの行方も気になる終わり方となっている。



ルージュ 硝子の太陽(2018年)

※初稿でタイトルを間違えてましたスミマセン。

うっか凛

姫川玲子シリーズとジウシリーズのコラボで、「ノワール 硝子の太陽」と対を成している作品。
沖縄基地問題を主軸に置き、沖縄と米軍の複雑な関係など、作者の緻密な取材力には脱帽する。

姫川玲子視点の本作と、東警部補視点の「ノワール」を読むことでようやく全体像が見える、という大掛かりな仕掛け。
スピンオフやクロスオーバー物が多いのも誉田哲也の特徴。



武士道ジェネレーション(2015年)

剣道に青春を捧げる女子高生の武士道シリーズ
宮本武蔵を師と仰ぐ香織と、日舞のたおやかな動きを持ち味とする早苗の青春友情小説の第4弾。

お互いに全く別の道を歩みながらも、剣道の心得を忘れないふたりの関係性が胸を打つ。
女性の多様な生き方についても考えさせられる作品。



疾風ガール(2005年)

誉田哲也は元々バンドマンであり、音楽の制作及び演奏には非常に精通している。
その経験と知識を遺憾なく発揮したのが単独長編の「レイジ」と今作の夏美シリーズだ。

主人公の祐司はバンド活動をしていたある時、椎名林檎の出現とその才能に圧倒されて音楽から身を引いたという人物。
実は作者の経験が元になっており、自身に重ね合わせている部分もあるのだろう。

音楽小説という難しいジャンルにロジックで挑んだ意欲作。
続く「ガール・ミーツ・ガール」もゼヒ読んでほしい。



月光(2006年)

誉田哲也の小説で一番好きなものは?と聞かれたら真っ先に挙げるのがこの作品
淡い恋心を抱いていた同級生が、実は教師と不倫関係にあることを知ってしまった主人公の、暴虐と悔恨の物語。

どんなに身体を奪ったとしても、心までは奪えない。
純粋であり続けようとした少女と衝撃の展開を思い返すだけで、涙が溢れてくる。



アクセス(2004年)

本格ミステリにSF要素が入ってくると大抵白けてしまうものだが、本作は巧みな心理描写によって読者の心を離さない
初期作品ということもあって粗さはあるものの、世界観に引き込む力はこの頃から健在。

窮地に追い詰められた高校生カップルの悲壮な決断が、あまりにも深愛すぎて心を締め付けられる。
高校生戦闘物として著名な「バトル・ロワイアル」(髙見広春・著)「悪の教典」(貴志祐介・著)が好きな方ならきっと楽しめる一作。



もっと評価されるべき

第2回ムー伝奇ノベル大賞・優秀賞、第4回ホラーサスペンス大賞・特別賞などを取っている誉田哲也。
しかし、やはり一般的に知名度のある賞が欲しい。

そんな中、令和1年第162回直木賞の候補に「背中の蜘蛛」が挙がる
が、審査員の中で絶賛したのは宮部みゆきだけで、他の審査員からは概ね酷評だった。

無理もない。
彼の書く小説はあまりにも人に近寄りすぎているため、倫理やモラルを越えた人間の欲の根源にまで踏み入るのだ。

警察小説での残虐な殺害シーン。
アングラ小説の目を背けたくなるような拷問描写。

しかしそれらは単なる舞台装置ではない。
積年の恨みを果たそうとする者の悲願だったり、自分を犠牲にしてでも愛する人を助けたいという想いだったり、自分を虐げてきた全てへの復讐だったり。

誉田哲也の描く多くの登場人物には血が通っているが、あえて血が通っていない人物を出すことにより、この世には愛情が通じない人間も居るということを警告してくれる。

性善説では生きていけない。
人は疑ってかかれ。
しかしそれでも。

心から信頼できる人間は存在する。

誉田哲也はいつも希望のひとかけらを私たちに残して物語を締めくくる。

ステマや業者疑惑を避けるために各作品のリンクは貼りませんでしたが、もし気になる一冊がありましたらゼヒ検索してお手に取ってみて下さい。


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