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関西弁の誘惑

東京の女は方言に弱い。
普段自分が使っている言葉が「標準語」として認識されているので、変わったイントネーションや謎の言い回しに魅力を感じるのだ。

しかし東京に住んでいると、意外と方言を聞く機会というのが少ない。
地方出身者の人達は、東京では自分の方言を隠してしまうからだ。

そんな中でも、自分の方言をあえて貫くのが「関西人」である。
彼らの操る関西弁の魅力について語りたい。



関西への憧れ

高校生の頃、修学旅行で京都・奈良・大阪に行く機会があったのだが、私はこの旅行をおサボりした

当時は重度の恋愛脳だったため、他校生の彼氏と離れることに耐えられず、「彼に一週間近くも会えないなんて無理!死んじゃう!」という理由で修学旅行に行かなかったのだ。

同級生が金閣寺や東大寺などに行っている間、私は彼とディズニーランドでミッキーと遊んでいた。

しかし大人になってからこの事を後悔した。
せっかく関西に一週間も行ける機会だったのに、みすみす逃してしまった…。

結婚後、しばらくしてから「一度も京都に行ったことがない」と夫に話したところ、「それはいけない」ということで京都旅行に行くことになった。

京都には観光タクシーというものがあり、一日貸し切りであらゆる観光名所に連れて行ってもらえる。
なるべくオーソドックスな、それこそ修学旅行生が行くような場所に行ってもらい、私は京都を満喫した。

その中でも、一番私の心を捕えたのが旅館の仲居さんだった。



京都のはんなり感

「よう京都までお越し下さいましたなぁ」
「ほんにお疲れでしょう。今日はゆっくりしはったらよろしいわ」

生の京都弁キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

清水寺や三十三間堂に行った時よりも興奮した。
その旅館には2連泊していたので、朝食と夕食を部屋に持って来てもらう時には、必ず仲居さんの京都弁を聞けたのだ。

私は昔から気になっていたことを聞いてみた。

「大阪弁と京都弁って、何が違うんですか?」

すると仲居さんはニッコリしながら答えてくれた。

「まず速度が違います。大阪の人は『おおきに!』って早口ですけども、うち達はようそんな早口で喋れませんよって。『おおきに〜』ですわ」

この上から目線の物言いに、私は痺れた。

京都は女王様なのだ。

決して他と迎合せず、誇り高く生き、当たり前のように滋賀の水を奪っていく。

いつかまた女王様の国にお邪魔して、はんなり毒舌に打ち震えたい。



大阪弁の誘惑

ジョージさんという大阪人と、一時期デートをしていたことがある。

関西の某有名大学出身の研究者だが、なぜか私のことを「姫」と呼ぶ、ちょっと変な人だった。

彼は就職を機に東京に出て来ていて、私と出会った時はすでに標準語になっていた。
ジョージさんによると、仕事上標準語の方が都合が良いらしい。

しかし私は本場の大阪弁というものを聞きたかったので、「私と一緒にいる時は大阪弁で話してくれませんか?」とお願いしてみた。

「ええよ。かなりフランクになるけど許してや」

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

生で聞く大阪弁に私は悶えた。

話の最後に「知らんけど」と付けたり、私の下らない話に「何やそれ」「姫の話やないんかい!」とツッコまれる快感。
次第に私はジョージさんに二重の意味でツッコまれたいと思い始めた。

どうやら彼もそう思っていたらしく、程無くしてジョージさんと情事に及んだ。



鶴光師匠の偉大さ

私は鶴光師匠のラジオが好きだ。
あのねっとりした、特有の喋り口。
大阪の男はきっと情事の度にあんな事やこんな事を言うに違いない、と大きな幻想を抱いていたのだ。

結論から言うと、ジョージさんの情事は普通だった

東京の男と、いや、宮城の男や山口の男とも一緒だった。

私は裏切られたような気分に陥ったものだ。

「なんていうかこう、もっと鶴光師匠みたいな感じだと思ってました…」
「いやいやいや、師匠は特殊やから、一緒にしたらアカンで」

急速にジョージさんへの興味を失ってしまった私は、その後自然消滅的にフェードアウトしていった。

その後も大阪の男と出会う機会はあったのだが、常に鶴光師匠が頭にチラつき、その度に裏切られてきた。

師匠も罪なお人である。

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