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小説

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noteで書いた小説を保管してあります。 ショートショートは4000字以内、それを超える文字数は短編小説です。
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記事一覧

【ショートショート】誰が黒猫を殺したか

3ヶ月ぐらい前のことでした。 住んでいるマンションの中庭に黒い猫が現れるようになったんです。 最初は住民の誰かの飼い猫だろうと思っていました。 うちのマンションはペット可なので。 けれど、同棲している彼──慎一が「首輪が無いから野良だろう」と言っていて。 エントランスはオートロック式ですが裏口は鍵付きの門になっていて、猫だったら隙間をすり抜けたり上から入ることも出来るでしょう。 そうして中庭に入ってきたのかもしれません。 中庭の奥にゴミの集積場があるので、ゴミ出しに行く

【ショートショート】背中に翼が生えた

1 背中に鈍い痛みを感じて遠野ミサキは目を覚ました。 ベッドの上で身体を捩り、サイドテーブルに置いたスマホに手を伸ばす。 顔認証でロックが解除され、画面に「12月24日 09時13分」という無機質なデジタル時計が表示された。 クリスマスイブ、か。 しかも折角の休日だと言うのにミサキには一緒に過ごす相手も居ない。 大学はとっくに冬休みに入っている。 休暇に入る前、ゼミ仲間にクリスマスパーティーに誘われたが、そのよそよそしさから社交辞令に過ぎないことを感じ取っていたので断っ

【ショートショート】眠れない夜にRADIO☆SHOW

―ジングル― 今日も今日とて眠れない。 そんなあなたにお送りする「眠れない夜にRADIO☆SHOW」!(エコー) お相手は、永遠の18歳、峰崎ことみでっす! ね〜、この肩書きさ〜、いい加減やめない?(笑) トシさん放送作家の権限使いすぎ! もうアイドル辞めてから10年だよ10年! え? 「まだイケる」? じゃあ後2年使おっか(笑) さてさて! この番組では眠れないあなたからのお便りを元に、わたくし峰崎ことみがオススメの楽曲をチョイスしてお送りする番組です。 短い時間では

【ショートショート】駄犬

12月25日 帰り道、雨の中で震えながら捨てられている犬を拾った。 別に犬は好きじゃない。 なんとなく家に持ち帰ってしまった。 風呂に入れたらそれなりに綺麗な顔をしていた。 やたらと感謝され、何でもする、などと言う。 人を殺せと言ったらするのだろうか。 きっと泣きながら殺すのだろう。 可哀想な犬。 1月1日 ドッグフードじゃなく普通の食事が欲しいと言われる。 残飯を餌入れに盛り、床で食べさせた。 美味しい美味しいと泣きながら貪っている。 醜い。 2月14日 深夜に散歩をさ

【ショートショート】僕の幸せな学級

「では、みんな良い夏休みを過ごしてね。あんまりハメを外しすぎないように」 チャイムの音と共にそう告げると、ポップコーンが弾けるように教室内がワッと賑やかになる。 僕は彼女たちの解放感に溢れたこの瞬間が好きだ。 女子校で教師をしていることを人に話すと、「女子中学生の相手は大変そう」「男性教師は馬鹿にされちゃうんじゃないの?」などと様々な意見をもらう。 実際に大変なことは多い。 僕が担当する2-Aのクラスも、いじめ問題や登校拒否、生徒からの反発など。 最初は問題が山積してい

【ショートショート】無音の部屋

シャワーを浴び、目覚まし時計をセットし、あとはもうすっかり寝るだけという状態にしてから香澄は文庫本を開いた。 最近買った海外旅行記だ。 本当は恋愛小説が好きなのだが、話に夢中になると集中しすぎて周りの音が聞こえなくなる、という癖を彼女は持っている。 この時間に音が聞こえなくなると困ってしまう事情があるのだ。 毎日深夜に恋人からの電話が掛かってくるのを待っている。 何時に、とは決まっていない。 相手のタイミングで掛かってくる。 以前はスマホで動画を見たり、音楽を聞きながら

【ショートショート】不完全犯罪

1 翔子の朝は冷たい水で濡れタオルを作ることから始まる。 昨夜使っている内にすっかりぬるくなってしまったタオルを洗面所でゆすぎ、冷水でキンキンにしてから絞った。 ゴワゴワした冷たいタオルをそうっと顔に当てる。 やはりひどく痛い。 ふと、洗面所の鏡を見る。 右目の瞼が腫れ上がり、左頬の痣は赤紫色になっていた。 唇の端も切れ、乾いた血が凝固している。 温まってきたタオルをまた水で冷やし、それを頬や目に当てたが気休め程度にしかならなかった。 今日は学校に行けないな。 ス

【ショートショート】うらみ

高倉瑠璃は生まれた時から女王様だった。 そのあまりの愛らしさに両親は興奮し、育児雑誌のベビーモデルに応募した。 何度も表紙を飾った雑誌達は、未だに実家のリビングに飾られている。 「恥ずかしいからいい加減やめて」と口では言いつつ瑠璃は満更でもない。 幼稚園では何人もの男児を取り巻きにして愛嬌を振りまき、先生達から冷たい視線を向けられるほど、すでに女だった。 小・中・高と、階段を上がる度に瑠璃は自分の美貌に酔い痴れていく。 美しさは力だ。 腕力や財力、学力と同じ。 彼女は

【ショートショート】許されない

武志と理沙は愛し合っていた。 2人は当然一緒になることを望み、お互いの両親にその思いを打ち明けた。 しかし大反対を受け、2人は逃げるように都会へ駆け落ちする。 身体が丈夫だった武志は工事現場で働き、愛嬌のあった理沙は喫茶店でウェイトレスとして働いた。 生活は楽ではなかったが、2人は小さな家で小さな幸せを育んでいく。 武志はお互いが居ればそれ以上何も要らないと思っていたが、理沙は徐々に2人だけの生活では満足できなくなってきた。 「ねぇ、私ね、赤ちゃん欲しいの」 ある

【ショートショート】バレエと花屋と水曜日

「みーちゃん、バレエいきたい!」 娘はいつも唐突にやりたいことを言い出す。 もう夜なのに「クッキーつくりたい」、朝方から「プラネタリウムしたい」。 こういうワガママには慣れていたので、私は夕飯のキッシュで使う卵を撹拌する手を止めずに目線だけ向けて訊いた。 「バレーって、ボールの?それとも踊る方?」 娘は「当たり前だ」とでも言うように口を尖らせる。 「バレエ!みーちゃん知ってるよ。フワフワでね、キラキラしたお洋服着るんだよ」 まあ、そっちだろうと思った。 「あのね

【短編小説】バイバイ、メロンちゃん。

1「……るからさ、持ってきてやんなよ」 「どしたの優しいじゃん」 「うっせ」 誰かの話し声が聞こえて、目を覚ました。 開きかけた瞼にオレンジ色の光が眩しくて、すぐにギュッと目を瞑る。 「あ、起きた」 「大丈夫?」 男の人と、女の人の声だ。 あれ、私、どうしたんだっけ…。 急にハッとして、ガバっと起き上がった。 い、痛い…。頭、ズキズキする。 「とりあえず水飲んだほうが良いよ」 頭を押さえながら、声のした方にゆっくりと振り返る。 坊主頭で右耳にピアスを付けた男の人

【ショートショート】ぼくはいぬ。

ぼくがここにやってきたのは3ヶ月前。 前のご主人に捨てられて、雨のなか震えていたぼくを今のご主人が拾ってくれた。 「寒いでしょ。うちにおいで」 ご主人はぼくを抱きかかえて、びしょびしょになりながら今のおうちに連れて来てくれたんだ。 「もう心配しなくていいよ。あなたの名前は…そうだ、ナオにしよう」 ご主人はぼくにあたらしい名前を付けてくれて、フカフカのベッドも用意してくれた。 ご主人はお料理がとっても上手だ。 最初はドッグフードをもらっていたんだけど、ご主人の料理の匂

【ショートショート】100人斬りを目指した少女

少女の家はごく普通の一般家庭だった。 無口な父と朗らかな母とやさしい姉、そしてペットの犬と一緒に暮らしていた。 5歳の夏に近所のお祭りで迷子になって騒ぎを起こしたり、12歳の冬にペットの犬が死んで学校に行けなくなった時期もあったが、特に大きな病気もせずに育った。 少女が17歳になった時、初めて彼氏ができた。 手を繋いで登下校し、毎日のように電話し、そして夏休みのある日、とうとう彼の家を訪問することになる。 その前日に親切な彼はこう言った。 明日、親は出掛けてるから。