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カメラ

 実家で暮らしていた小学校の頃、近くに遊ぶ場所もなく友達も少なかった私はカメラに虜になった。私の実家には大きな庭があって、そこには色々な種類の野鳥が訪れる。野鳥は私にとってアイデンティティそのものだった。庭にやってくる鳥を見つけては、大きな鳥の図鑑で名前を調べた。
 ある日、祖母がオリンパスのカメラを買った。庭に咲いた花を撮るためのものだったらしいが、すぐに私のものになった。(私のものと言うのはあくまでも比喩であって、私が勝手に私物化したというほうが正しい)そのカメラのフォルダはたちまち野鳥だらけになった。私は幼いながらも庭を駆け回っては、鳥たちの姿をカメラに収め続けた。上手く撮れた自信があったものは祖父母に自慢して、褒めてもらいに行った。
 私の鳥に対する執着心は止まらず、誕生日にはニコンの双眼鏡を買ってもらった。月までも目の前にあるかのように見える、高性能の代物だった。それからは首に重たい双眼鏡と重たいカメラを引っ提げ、両刀型で野鳥を追い求めた。それから家のコピー用紙と父の水彩絵の具を借りて、自分で野鳥図鑑を作った。紙が水を吸ってベラベラになったが、家族のみんなが鳥の絵を褒めてくれたので構わず描き続けた。今でも実家の本棚に眠っている。
 カメラで2年ほど野鳥を撮っていた頃、上手く撮れた写真が増えてきたので、それをカレンダーにしようと考えた。父のパソコンを使って、Wordでレイアウトを考えて、紙にもこだわった。ホッチキスで綴じたときにちゃんと正しい順番になるように、既存のカレンダーを分解して仕組みを調べた。(どうやら印刷の仕方でそういった組み方があるようなのだが、当時の私は知る由も無く、脳筋でページ構成を組んだ。今でもよくわかっていない)同じ大きさの紙を折り畳んで綴じると、ページの先が揃わないので、最後はカッターで裁断して揃えた。初めて作った割にはかなり上手くいき、調子に乗って祖父母にプレゼントした。とても喜んでくれたのを覚えている。
 今でこそ当時ほど鳥を追わないが、それでも鳴き声で鳥の種類がわかる程度には野鳥が好きだ。写真を撮る楽しさを知ったのも野鳥のおかげだと思う。大学の写真の授業はすごく楽しくて、昔を思い出した。そのせいか最近は自分用のカメラが欲しいなと思う時がある。お金を貯めていつか買いたい。私の感じる景色を、思い出を、これからも写真に収めていけたら良いな。

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