ニコニコ動画の終焉と再醒
2009年、YouTubeでの再生数がニコニコ動画を上回り、従来のプラットフォームが瓦解し始める予兆を見せていた。その不安は実際のかたちとなって現れ始め、プレミアム会員が減少していき、ニコニコ世代だった人々もYouTubeへと移行していくようになった。また、機械に音を奏でさせるVOCALOID（以降「ボカロ」）の最盛期は間違いなくニコニコ動画におけるものあり、それは単なる動画視聴の場としてだけではなく、ボカロP（プロデューサー）の源泉でもあったのである。しかしながら彼らもまた、メジャーデビューやYouTubeへの移行など、ニコニコ動画との離縁をはじめ、ニコニコ動画の衰退にさらに拍車をかけた。
そんなニコニコ動画の衰退に警鐘を鳴らし、皮肉を歌ったアーティストが生まれた。米津玄師である。
彼も元々「ハチ」というボカロPとして、ニコニコ動画を中心にボカロの投稿をしていた人物の1人である。そこから数年の時を経て、「ボーカロイドという隠れ蓑に身を任せたくない」という理由でメジャーデビューを遂げる。その後、ドラマ「アンナチュラル」の主題歌「Lemon」は爆発的な人気を博し、今や日本を代表するトップアーティストとなった。ハチが米津玄師の前身と知らなかった人は、驚きと納得を隠せないかもしれない。
その絶大な支持と影響力を持つ「米津玄師」が、2017年にリリースしたアルバム「BOOTLEG」にて「砂の惑星」という曲を発表した。同時に、YouTubeやニコニコ動画でもMV（ミュージックビデオ）を公開。2023年現在、YouTubeの再生回数は7889万回に上る。
その曲を通して彼が伝えたかったのは、「ニコニコ動画の衰退とボカロPへの警鐘」である。彼は少なくとも、人が減ったことに対して危機感を感じていた。それを含め、ボカロ界隈が健全なのかということに、彼は「否」との答えを出したのである。
この曲に対し、世間や界隈では賛否両論が沸き起こった。当時精力的に活動していたボカロPからすれば、米津玄師のとった行動は裏切りに近いものであり、実際腹を立てた人たちも少なくないだろう。さらに、ボカロPたちはこの「砂の惑星」に対してのアンサーソングを出すことによって、各々の持つ意見を述べていった。
しかし、その動きは結果として俄にニコニコ動画を活気づけるものとなる。そして、この一連の流れは少なくとも、彼の抱いていたムーヴメントであり、彼の敷いたシナリオであることは間違いないだろう。
林檎の木は植えてから実がなるまで、4年から5年ほどかかるそうだ。「砂の惑星」から数年後、「第二次ボカロブーム」と呼ばれるほどの盛り上がりを実際に見せていると言う事実も、もしかしたら彼の思い描いていたミライなのかもしれない。
以下、考察と歌詞を載せたので後は勝手にどうぞ。解釈は万人いれば万人違う。自分なりの意見を尊重してほしい。
《歌詞と考察》
ボカロの生命源だったニコニコ動画。今では砂で満ちた砂漠と化してしまった。今でも少しながら新しい音が生まれるが、以前のような盛り上がりは何処へと消えた。メルトショックから10年、草も生えないまでに廃れてしまった。今一度ボカロ界隈を見渡してもこの有様。また新しい生命が生まれて、面白いことが起きないかと祈っている。日の目もしばらく見られなさそうだし、ひとまず僕はここ（ニコニコ動画とボカロ）を離れて、友達として距離を置くようにするよ。
そういえば今日はマジカルミライというめでたい日だったね（マジカルミライ2017のテーマソングとして採用）。歌を歌ってお祝いしよう。
今やニコニコでは息をしていない数々の名曲たちに敬意を持って、早くここを出て行こう。
ねえねえねえあなたと私でランデブー？
（マトリョシカ）
今だパッパパッと飛び出せマイヒーロー
（パンダヒーロー）
どうか迷える我らを救っておくれ。
ぶっ飛んでいこうぜもっと
（え？あぁ、そう。）
エイエイオーでよーいどんと
（おこちゃま戦争）
あのダンスホール
（ワールズエンド・ダンスホール）
モザイクの奥
（モザイクロール）
太古代のオーパーツ
（カミサマネジマキ）
光線銃でバンババンバン
（千本桜）
少年少女謳う希望論
（チルドレンレコード）
驚天動地そんで古今未曾有の思い出は電子音
（お姫様は電子音で眠る）
衰退を知った時は戸惑い、憂い嘆いた。
天空の城（YouTube）へと僕らを導いてくれ。
また新しい実ができることを願って、次世代のボカロクリエイターにミライを託して、
林檎の木を植えておくよ。
僕はそろそろ行くよ。そんじゃまたね。後は誰かが勝手にどうぞ。生かすも殺すも君たち次第だよ。
何もない砂場飛び交う雷鳴 しょうもない音で掠れた生命
今後千年草も生えない 砂の惑星さ
こんな具合でまだ擦り減る運命
どこへも行けなくて墜落衛星
立ち入り禁止の札で満ちた 砂の惑星さ
のらりくらり歩き回りたどり着いた祈り
君が今も生きているなら応えてくれ僕に
イェイ今日の日はサンゴーズダウン
つまり元どおりまでバイバイバイ
思いついたら歩いていけ
心残り残さないように
イェイ空を切るサンダーストーム
鳴動響かせてはバイバイバイ
もう少しだけ友達でいようぜ今回は
そういや今日は僕らのハッピーバースデイ
思い思いの飾り付けしようぜ
甘ったるいだけのケーキ囲んで
歌を歌おうぜ
有象無象の墓の前で敬礼
そうメルトショックにて生まれた生命
この井戸が枯れる前に早く
ここを出て行こうぜ
ねえねえねえあなたと私でランデブー？
すでに廃れた砂漠で何思う
今だパッパパッととびだせマイヒーロー
どうか迷える我らを救いたまえ
ぶっ飛んでいこうぜもっと
エイエイオーでよーいどんと
あのダンスホール モザイクの奥 太古代のオーパーツ
光線銃でバンババンバン 少年少女謳う希望論
驚天動地そんで古今未曾有の思い出は電子音
戸惑い憂い怒り狂い たどり着いた祈り
君が今も生きているなら 応答せよ早急に
イェイきっとまだボーイズドントクライ
つまり仲直りまでバイバイバイ
思い出したら教えてくれ
あの混沌の夢みたいな歌
イェイ宙を舞うレーザービーム
遠方指し示せばバイバイバイ
天空の城まで僕らを導いてくれ
歌って踊ろうハッピーバースデイ
砂漠に林檎の木を植えよう
でんぐり返りそんじゃバイバイ
後は誰かが勝手にどうぞ
歌って踊ろうハッピーバースデイ
砂漠に林檎の木を植えよう
でんぐり返りそんじゃバイバイ
後は誰かが勝手にどうぞ
イェイ今日の日はサンゴーズダウン
つまり元通りまでバイバイバイ
思いついたら歩いていけ
心残り残さないように
イェイ空を切るサンダーストーム
鳴動響かせてはバイバイバイ
もう少しだけ友達でいようぜ今回は
風が吹き晒しなお進む砂の惑星さ
ちなみに、以下に様々なボカロPたちによるアンサーソングを掲出しておく。これも人それぞれで「砂の惑星」に対する意見が違うので、色々聴いてみてください。
▷ジャックポットサッドガール（syudou）
▷砂上の歩き方（Peg）
▷おどれ！VRダンス！（和田たけあき）
▷花の惑星（しぇろ）
▷ジャガーノート（夏代孝明）
▷リバースユニバース（ナユタン星人）
▷未来の惑星（かぴたろう）
▷愛されなくても君がいる（ピノキオピー）
▷METEOR（DIVELA）
▷雲を縫って（どくぜり）
▷ブループラネット（DECO＊27）
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